黒田俊雄

黒田 俊雄（くろだ としお、1926年1月21日 - 1993年1月26日）は、日本中世史家。大阪大学名誉教授、大谷大学文学部教授。

経歴

富山県東砺波郡庄下村（現・砺波市）生まれ。旧制第四高等学校を経て、1948年京都帝国大学文学部史学科卒業。高等学校教員を経て、京都大学特別研究生。1955年京都大学大学院修了。1955年神戸大学教育学部講師、1960年助教授。1961年大阪大学文学部助教授、1975年教授。1983年「日本中世の国家と宗教」で文学博士（大阪大学）。1989年大谷大学文学部教授。第12〜14期日本学術会議会員（1981-1991年）。

人物

日本中世史を代表する理論家。1970年代以降、関東の永原慶二と並び、関西を代表する中世史研究者と目されていた。日本中世の国家機構は公家（天皇家・摂関家）、寺社（南都北嶺などの大寺社）、武家（幕府）など複数の権門勢力（荘園領主階層）の競合対立と相互補完によって成り立っていたとする権門体制論や、顕密仏教（旧仏教）が国家体制と癒着した「顕密体制」が中世仏教界の「正統」であったとする顕密体制論を提唱したことで知られる。荘園制論や神道の成立を15世紀の吉田神道の創始にもとめる説、中世の「非人」を「身分外身分」の存在とする説などでも知られる。

権門体制論は1963年に『岩波講座日本歴史6 中世2』（岩波書店）所収の論文「中世の国家と天皇」で提唱した。顕密体制論は1975年に『日本中世の国家と宗教』（岩波書店）所収の論文「中世における顕密体制の展開」で提唱した。権門体制論・顕密体制論は宗教史・思想史・日本文学研究などにも大きな影響を与えた。佐藤進一は権門体制論を批判し、鎌倉幕府と朝廷は別々の国家だとする東国国家論を提唱した（『日本の中世国家』（岩波書店、1983年）など）。顕密体制論は鎌倉新仏教中心史観を覆し、中世の旧仏教研究の発展につながった。

京都民主主義科学者協会（京都民科）を中心に活動した共産党系の活動家、網野善彦と並ぶ西日本の若手活動家でもあり、安丸良夫によれば「おそらくその最後の日まで日本共産党員」（安丸良夫「黒田俊雄の中世宗教史研究」『安丸良夫集 5 戦後知と歴史学』岩波書店、2013年、38頁）であった。1964年の大阪歴史科学協議会（大阪歴科協）の発足を主導し、1967年設立の歴史科学協議会（歴科協）の代表委員を務めた。1966年設立の「乙訓の文化遺産を守る会」の副会長兼古文書部会部長を務めたり、1978年に難波宮保存訴訟で原告側証人として出廷したりするなど文化財保護運動にも参画した。

著書

単著

• 『日本の歴史8 蒙古襲来』（中央公論社、1965年／中央公論社［中公バックス］、1971年／中央公論社［中公文庫］、1974年、改版2004年）
• 『体系日本歴史2 荘園制社会』（日本評論社、1967年）
• 『日本中世封建制論』（東京大学出版会、1974年）
• 『日本中世の国家と宗教』（岩波書店、1975年／岩波書店［岩波オンデマンドブックス］、2013年）
• 『現実のなかの歴史学』（東京大学出版会［UP選書］、1977年）
• 『寺社勢力――もう一つの中世社会』（岩波書店［岩波新書］、1980年）
• 『歴史学の再生――中世史を組み直す』（校倉書房、1983年）
• 『王法と仏法――中世史の構図』（法藏館［法蔵選書］、1983年／増補新版、法藏館、2001年／法藏館［法藏館文庫］、2020年）
• 『史稿雑々』（黒田俊雄教授著作目録編集委員会編、黒田俊雄教授著作目録編集委員会、1989年）
• 『日本中世の社会と宗教』（岩波書店、1990年）
• 『黒田俊雄著作集（全8巻）』（法藏館、1994-1995年）
  • 「第1巻 権門体制論」（1994年）
  • 「第2巻 顕密体制論」（1994年）
  • 「第3巻 顕密仏教と寺社勢力」（1995年）
  • 「第4巻 神国思想と専修念仏」（1995年）
  • 「第5巻 中世荘園制論」（1995年）
  • 「第6巻 中世共同体論・身分制論」（1995年）
  • 「第7巻 変革期の思想と文化」（1995年）
  • 「第8巻 歴史学の思想と方法」（1995年）

共著

• 『テキスト日本史（上・下）』（門脇禎二共著、三一書房［三一新書］、1958-1959年）
• 『日本の思想（上・下）』（碓田のぼる、南波浩、河音能平、佐木秋夫、正木信一、永原慶二、表章共著、新日本出版社［新日本新書］、1980年／新装版、新日本出版社、2001年）
• 『シンポジウム親鸞――その人と思想』（石田充之、梅原猛、高取正男、千葉乗隆、橋本峰雄共著、森竜吉編、講談社、1973年）

編著

• 『伊丹中世史料』（編、伊丹市［伊丹資料叢書］、1974年）
• 『中世民衆の世界』（編、三省堂、1988年）
• 『村と戦争 兵事係の証言』（編、桂書房、1988年）
• 『歴史科学大系 19巻 思想史 前近代』（編集・解説、校倉書房、1979年）
• 『歴史科学大系 20巻 思想史 近現代』（編集・解説、校倉書房、1983年）
• 『大系仏教と日本人2 国家と天皇――天皇制イデオロギーとしての仏教』（編集、春秋社、1987年）
• 『畠山記集成』（編、羽曳野市［羽曳野資料叢書］、1988年）
• 『羽曳野中世軍記等史料集』（川岡勉共編、羽曳野市［羽曳野資料叢書］、1990年）
• 『訳注日本史料 寺院法』（編、集英社、2015年）

関連文献

• 佐藤弘夫『日本中世の国家と仏教』（吉川弘文館［中世史研究選書］、1987年／吉川弘文館［歴史文化セレクション］、2010年）
• 佐々木馨『中世国家の宗教構造――体制仏教と体制外仏教の相剋』（吉川弘文館［中世史研究選書］、1988年）
• 松尾剛次『鎌倉新仏教の成立――入門儀礼と祖師神話』（吉川弘文館［中世史研究選書］、1988年、新版1998年）
• 平雅行『日本中世の社会と仏教』（塙書房、1992年）
• 末木文美士『日本仏教思想史論考』（法藏館、1993年）
• 佐藤弘夫『神・仏・王権の中世』（法藏館、1998年）
• 末木文美士『鎌倉仏教形成論――思想史の立場から』（法藏館、1998年）
• 川岡勉「地域史の課題と歴史科学運動――篠崎勝・黒田俊雄の業績を手がかりに」（『歴史科学』第164号、2001年）
• 大山喬平『ゆるやかなカースト社会・中世日本』（校倉書房、2003年／法藏館［法蔵館文庫］、2024年）
• 井上寛司『日本の神社と「神道」』（校倉書房、2006年／法藏館［法蔵館文庫］、2024年）
• 上島享『日本中世社会の形成と王権』（名古屋大学出版会、2010年）
• 安丸良夫「黒田俊雄の中世宗教史研究――顕密体制論と親鸞」（安丸良夫、喜安朗編『戦後知の可能性――歴史・宗教・民衆』山川出版社、2010年）
• 今谷明『天皇と戦争と歴史家』（洋泉社、1998年）
• 岡野友彦『院政とは何だったか――「権門体制論」を見直す』（PHP研究所［PHP新書］、2013年）
• 袴谷憲昭「顕密体制論と正統異端の問題」（『駒澤短期大學佛教論集』第2巻、2014年）
• 佐藤弘夫「黒田俊雄—マルクス主義史学におけるカミの発見」（オリオン・クラウタウ編『戦後歴史学と日本仏教』法藏館、2016年）
• 平雅行『鎌倉仏教と専修念仏』（法藏館、2017年）
• 谷口雄太『分裂と統合で読む 日本中世史』（山川出版社、2021年）

外部リンク

• 顕密体制論 - 新纂浄土宗大辞典
• 基本の30冊、日本史、黒田俊雄『権門体制論』: 保立道久の研究雑記
• 神道についてー自分の経験と黒田俊雄｜保立道久の研究雑記