テレコム・アニメーションフィルム
株式会社テレコム・アニメーションフィルム(英語:Telecom Animation Film Co.,Ltd.)は、東京都中野区に本社を置くアニメ制作会社。通称はテレコム、TAF。トムス・エンタテインメントの子会社。
概要[編集]
1975年に藤岡豊が海外に通用する劇場用アニメを制作するために東京ムービー(現・トムス・エンタテインメント)の子会社として設立した。大塚康生、宮崎駿、高畑勲、貞本義行など著名なクリエイターが在籍していた[1]。東映動画(現・東映アニメーション)および同社出身者の多い日本アニメーション(旧・ズイヨー映像)、シンエイ動画(旧・エイプロダクション)の系譜に連なる[2]。
親会社であるトムス・エンタテインメントの本社ビル内(東京都中野区中野3-31-1)に社を構えている[3][4]。国内のテレビアニメ制作を中心に活動している[5]。スタジオジブリと並ぶ[6]名門スタジオとして知られる[1][5]。制作部、CGI制作部、作画部原画室、作画部動画室、美術部を持ち[7]、原画、演出、動画、背景、制作のスタッフを抱えている[4]。美術部を持つアニメ制作会社は珍しく[4]、特に背景美術には定評がある[1][8][9]。
代表作は宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)、高畑勲監督の『じゃりン子チエ』(1981年)[2][3][7]、宮崎駿、御厨恭輔監督の『名探偵ホームズ』(1984-1985年)[7]、波多正美、ウィリアム・T・ハーツ共同監督の『NEMO/ニモ』(1989年)。大塚康生は『ルパン三世 カリオストロの城』、『じゃりン子チエ』、近藤喜文、友永和秀共同監督の『リトル・ニモ パイロットフィルム』(1984年)、『NEMO/ニモ』の4本を「テレコムが達成した技術的頂点に立つ作品」「日本の長編アニメーションの歴史のひとつの通過点として技術的に見過ごすことの出来ないこの4本」「これらを技術的に超えるのは至難の技」と評している[10]。
歴史[編集]
1975年5月19日に藤岡豊が「海外に通用するフル・アニメーションを描けるアニメーターを養成」するため、東京ムービーの子会社として設立した[7]。1976年に東京ムービーは営業部門として東京ムービー新社を設立。「東京ムービー」は企画・営業・海外販売・ファンクラブ担当の東京ムービー新社、制作スタジオの東京ムービー、同じくテレコムの3社に分かれた[11]。1977年に藤岡はウィンザー・マッケイの漫画『リトル・ニモ』の映画化権を取得し、日米合作映画『NEMO/ニモ』の制作準備を開始した[12]。1978年3月に読売新聞に「長編アニメーター募集」の広告を出し、1000人を超える応募者の中から43人(のち1人退職)がアニメーター養成の第1期生として選ばれ、4月から月岡貞夫が指導にあたった[13]。1期生には道籏義宣、小林弥生、林雅子などがいた[14]。1979年初頭から月岡に代わって大塚康生が42人(うち男性5人[12])の指導にあたり、経験者の動画家としてシンエイ動画から田中敦子と原恵子、オープロダクションから丹内司を招請した。少し遅れてオープロから友永和秀と山内昇壽郎が出向で参加した[15]。また日本アニメーションから富沢信雄[2][16]、篠原征子が招請された[注 1]。
新人アニメーターは『ルパン三世 PART2』(1977-1980年)や『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年)の作画を手伝い[15]、1979年にテレコムの第1作として宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』、1980年に第2作として高畑勲監督の『じゃりン子チエ』の制作を担当した。1979年に宮崎駿が『カリオストロの城』の演出のため日本アニメーションからテレコムに移籍した。アニメーターの富沢信雄、篠原征子、仕上げの近藤浩子、美術の山本二三らが『カリオストロの城』に参加した[17]。『カリオストロの城』の準備作業中から『ルパン三世 PART2』をテレコムが制作した[18]。テレコムが作画を担当した回は11回あり、ファンから「テレコム担当回」「テレコム回」と呼ばれる[6][19]。その内の第145話「死の翼アルバトロス」と最終回の第155話「さらば愛しきルパンよ」は宮崎駿が「テレコム」に漢字を当てた照樹務の名義で脚本・絵コンテ・演出を担当した。1980年1~2月に制作進行の竹内孝次が日本アニメーションから移籍した。1980年に高畑勲が『じゃりン子チエ』の演出のため日本アニメーションからテレコムに移籍した。作画監督として小田部羊一、原画の一員として奥山玲子が『じゃりン子チエ』に参加した[18]。
1981年に『ニモ』の資金調達のメドが立ち、制作が急速的に動き出した。1982年8月に大塚康生、高畑勲、宮崎駿、篠原征子、近藤喜文、友永和秀、富沢信雄、丹内司、丸山晃一、田中敦子、竹内孝次の11名[注 2]が渡米し、ディズニーのフランク・トーマスとオリー・ジョンストンからアニメーションのレクチャーを受けた[21]。『ニモ』の制作は混迷を極め、最終的に波多正美とウィリアム・T・ハーツが監督となり、1988年4月に作画開始、1989年初頭に完成した。日本では1989年7月に『NEMO/ニモ』と題して公開されたが、「55 億円もの制作費が注ぎ込まれ、原作の映画化権取得から完成に至るまで12年もの長い年月をかけた作品としては、興行的には成功」しなかった[2]。アメリカでは1992年8月に『Little Nemo: Adventures in Slumberland』と題して公開された。大塚康生によると、アメリカで「2300の劇場にかけられ、好評を博し、ビデオだけでも4000万本売れてモトはとれ」た[22]。三好寛(公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団事業課学芸係学芸員)によると、アメリカでの「興行は芳しくなく、ビデオは200万本のセールスで成功を収めたものの、その利益は日本には還元されなかったという」[2]。藤岡は『ニモ』の興行的失敗の責任をとって東京ムービー、テレコムの全ての権利を放棄し、1991年に東京ムービーを退社した[23]。東京ムービーは『ニモ』の興行的失敗がきっかけとなり[24]、1992年にセガグループの資本傘下に入った。
宮崎駿は『ニモ』の代案として『風の谷のナウシカ』の原型となる企画を藤岡に提出したが、採用されず、1982年2月号から『アニメージュ』に「風の谷のナウシカ」を連載し、1982年11月2日にテレコムを退社した[25]。高畑勲は『ニモ』の演出を担当する予定であったが、アメリカ側プロデューサーのゲーリー・カーツと合わず、1983年3月に降板してテレコムを退社した。1984年3月に宮崎監督、高畑製作の『風の谷のナウシカ』が発表され、1985年6月に宮崎と高畑は『ナウシカ』を制作したトップクラフトを改組してスタジオジブリを設立した。近藤喜文は1984年12月に友永和秀と共同で『ニモ』のパイロット・フィルムを完成させたが、『ニモ』が制作中断となっていた1985年3月にテレコムを退社した[26]。
80年前後には東京ムービー新社の作品を中心に制作していたが、以降は海外向け作品の制作が中心となり[27]、90年代には国内向け作品をほとんど制作しなくなった[28]。1991年に『タイニー・トゥーンズ』(1990-1992年)、1997年に『アニマニアックス』(1993-1998年)、1998年に『The New Batman/Superman Adventures』(1997-2000年)がデイタイム・エミー賞を受賞。1996年に『ピンキー&ブレイン クリスマス スペシャル』(1995年)がプライムタイム・エミー賞を受賞。テレコムによると、『ニモ』が「海外で認められ、ワーナーをはじめとする海外テレビシリーズ作品を多く手掛けることにな」ったが、「2000年代からは国内作品のグロス請けや共同制作などを通して国内アニメーションに徐々にシフト」している[7]。
『LUPIN THE IIIRD』シリーズ(2014-2025年)、『ルパン三世 PART4』(2015年)、『orange』(2016年)、『ルパン三世 PART5』(2018年)、『つくもがみ貸します』(2018年)、『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』(2019年)、『神之塔 -Tower of God-』(2020年)、『ブルーサーマル』(2022年)、『七つの大罪 黙示録の四騎士』(2023-2024年)、『アオのハコ』(2024-2025年)などを制作[1][29][30]。『アイカツ!』(2012-2016年)にアニメーション制作協力として参加。『天気の子』(2019年)、『竜とそばかすの姫』(2021年)、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(2021年)で背景を一部担当[1]。スタジオジブリ作品の作画協力でも知られる[29]。
2023年4月10日に商号を「株式会社テレコム・アニメーションフイルム」(イが大文字)から「株式会社テレコム・アニメーションフィルム」に変更した[31]。
2024年6月6日に元代表取締役社長社長の淨園祐が株式会社エレクトリックサーカスを設立[32]。
2026年2月16日付の官報で親会社のトムス・エンタテインメントに吸収合併されることが判明した。トムスがテレコムの権利義務全部を承継し、テレコムは解散する。2025年3月期の決算は最終損失3億4600万円、債務超過だった[30]。2026年2月17日、トムスは4月1日付でテレコムを吸収合併し、グループの制作機能を統合することを発表した。テレコム・アニメーションフィルムの名称は商標・ブランド名として活用していく予定だとしている[33][34][35]。
脚注[編集]
注[編集]
- ↑ 大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』(文春ジブリ文庫、2013年)によると、田中敦子・原恵子・丹内司を招請した後、友永和秀、富沢信雄、篠原征子、山内昇寿郎、仕上げの近藤浩子らが加わり、「とどめ」に宮崎駿が、最後に制作の竹内孝次が加わった[14]。
- ↑ 大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』(文春ジブリ文庫、2013年)によると、高畑勲、宮崎駿、大塚康生、友永和秀、富沢信雄、丹内司、丸山晃一、田中敦子、近藤喜文、篠原征子、山本二三、竹内孝次の12名[20]。三好寛(公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団事業課学芸係学芸員)によると、大塚康生、高畑勲、宮崎駿、篠原征子、近藤喜文、友永和秀、富沢信雄、丹内司、丸山晃一、田中敦子、道籏義宣、山本二三、竹内孝次(13名)[2]。
出典[編集]
- ↑ a b c d e アニメ制作の名門!『ルパン三世 カリオストロの城』『つくもがみ貸します』『閃光のハサウェイ』などに携わったテレコム・アニメーションフィルムの歴史と魅力 アニメ!アニメ!、2021年12月27日
- ↑ a b c d e f 三好寛「「日本のアニメーション・スタジオ史」関連レポート 1970年代末から80年代初頭の状況」『公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団年報 2014-2015(PDF)』、公益財団法人徳間記念アニメーション文化財団編集・発行、2015年7月
- ↑ a b アニメ制作会社「テレコム・アニメーションフィルム」潜入取材、「LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘」を生み出したスタジオはこんな感じ GIGAZINE、2019年5月30日
- ↑ a b c 後藤悠里奈「アニメ制作会社の中って、いったいどうなっているの? アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまでーー「第三回:スタジオ潜入(1)」」超!アニメディア、2022年2月4日
- ↑ a b 小田部羊一著、藤田健次聞き手『漫画映画 漂流記――おしどりアニメーター奥山玲子と小田部羊一』講談社、2019年、229頁
- ↑ a b 山崎龍「もう見た?『ルパン三世』劇場版最新作『LUPIN THE ⅢRD THE MOVIE 不死身の血族』のクルマとメカをまとめて解説!」Motor-Fan、2025年7月18日
- ↑ a b c d e About us テレコム・アニメーションフィルム
- ↑ 後藤悠里奈「アニメ映画『ブルーサーマル』が完成するまで――「第四回:スタジオ潜入(2)」3Dレイアウトってどういう作業!?」超!アニメディア、2022年2月11日
- ↑ 東映『ブルーサーマル』押切P “映画館で空を飛ぶような体感” 文化通信.com、2022年3月8日
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、182頁
- ↑ 草川昭編著『アトムの子らは荒野をめざす――テレビ・アニメ20年史』立風書房、1981年、72-73頁
- ↑ a b 大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』文春ジブリ文庫、2013年、230-232頁
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、73頁
- ↑ a b 大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』文春ジブリ文庫、2013年、236-237頁
- ↑ a b 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、77-80頁
- ↑ 「名探偵ホームズ」友永和秀氏(作画監督・原画)インタビュー前編 みんなで新しいアニメを目指していた アニメ!アニメ!、2014年12月26日
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、81-84頁
- ↑ a b 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、85-88頁
- ↑ 小黒祐一郎「アニメ様365日 第12回 『ルパン三世[新]』」WEBアニメスタイル、2008年11月19日
- ↑ 大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』文春ジブリ文庫、2013年、275頁
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、93-95頁
- ↑ 大塚康生『作画汗まみれ 改訂最新版』文春ジブリ文庫、2013年、290頁
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、180頁
- ↑ 『オールタイム・ベスト映画遺産 アニメーション篇』キネマ旬報社、2010年、208頁
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、112-113頁
- ↑ 大塚康生『リトル・ニモの野望』徳間書店スタジオジブリ事業本部、2004年、130頁
- ↑ 小黒祐一郎「アニメ様365日 第77回 1981年前後の東京ムービー新社」WEBアニメスタイル、2009年3月3日
- ↑ 国内のファンには久々のテレコム作品 『CYBERSIX』 WEBアニメスタイル
- ↑ a b 『ブルーサーマル』アニメ映画化&2022年3月公開決定!特報&ティザービジュアルが解禁! ファンズボイス、2021年8月26日
- ↑ a b トムス・エンタテインメント、テレコム・アニメーションフィルムを吸収合併 gamebiz、2026年2月16日
- ↑ 株式会社テレコム・アニメーションフィルムの情報 国税庁法人番号公表サイト
- ↑ ELECTRIC CIRCUS
- ↑ 株式会社トムス・エンタテインメント グループ制作体制の強化に向けた組織再編(吸収合併)のお知らせ 株式会社セガ
- ↑ 『ルパン三世』など制作のテレコム・アニメーションフィルムが法人消滅へ 親会社のトムスと経営統合 オタク総研、2026年2月17日
- ↑ トムス・エンタテインメントがテレコム・アニメーションフィルムを吸収合併 コミックナタリー、2026年2月17日
外部リンク[編集]
- テレコム・アニメーションフィルム オフィシャルサイト
- テレコムアニメーションフィルム公式(@telecom_anime) - 𝕏(旧:Twitter)