大回り乗車
大回り乗車(おおまわりじょうしゃ)とは、鉄道路線で経路が複数ある場合に、鉄道事業者が許容する範囲内で意図的に遠回りをして乗車をすること。特に乗り鉄が行うことが多いため、鉄道ファンの間で使用される用語となっている。
概要[編集]
大回り乗車は、JR特急の大回りでの直通運行[注 1]やJR以外の民鉄(名鉄・近鉄・東京メトロなど)でも特例適用区間があるが、本節ではJRの大都市近郊区間内での大回り乗車を記載する。
JR旅客鉄道会社では、旅客営業規則の第156条2号に規定[注 2]される大都市近郊区間内にて行うことができる乗車方法である。
運賃計算の仕組み[編集]
鉄道の運賃は原則として、旅客が実際に利用した距離をもとに算出される。しかし大都市では、出発駅から目的地までの経路が複数存在することが多い。どの経路を使っても移動時間や距離がそれほど変わらない場合も多い。そのため、旅客の利便性向上と切符の発券簡素化を目的として、大都市近郊区間内で完結する切符に限り、最短経路の運賃で計算されるルールが設けられている。
また、旅客営業規則第157条第2項には「選択乗車」の規定がある。これは、運賃計算に用いた経路とは異なる「他の経路」を、区間変更の手続きなしに乗車できる制度である。
大回り乗車は、この2つの規則を組み合わせた乗車方法である。通常では考えられないほど遠回りな経路であっても、最短距離で運賃が算出される。あくまで規則に従った利用法であり、倫理的に問題があるわけでもない。グレーゾーンとの指摘もあるが、不正乗車には当たらない。
対象エリア[編集]

JR各社の大都市近郊区間には福岡近郊区間、大阪近郊区間、新潟近郊区間、そして東京近郊区間の4つがあるので、それら4地域で繰り広げることが可能。さらに、長らく政令指定都市でありながら大都市近郊区間に指定されてなかった仙台が2014年4月1日より晴れて大都市近郊区間に指定され、それに伴い仙台-岩沼-福島-北山形-羽前千歳-新庄-小牛田-石巻-矢本-仙台に囲まれた範囲をはじめとして、宮城、福島、山形、岩手の4県にも及ぶ大回り乗車が可能となった[1]。
なお、JRには、近郊区間外を含んだ区間で適用される選択乗車もあるが、別ページで紹介する。
具体例[編集]
たとえば、JRのみで新宿駅から東京駅まで移動する場合を考えてみよう。図に示した路線図を見てみると、中央快速線(約14分)や山手線内回り・外回り(約31〜33分)など、複数の経路が存在することが分かる。こうした区間では、どの経路を選んでも運賃は最短経路で計算される。
この仕組みを最大限に活用し、通常の利用では考えられないような経路で乗車することが大回り乗車である。新宿駅から東京駅への最短経路で計算した切符を1枚買うだけで、「新宿駅→八王子駅→高麗川駅→高崎駅→小山駅→友部駅→我孫子駅→成田駅→千葉駅→東京駅」(約12時間)という、もはや引越しかと思うような経路でも乗車できる。ただし、普通乗車券と選択乗車のルールに従うことが大前提となる。
大回り乗車の注意点[編集]
きっぷのルールなど[編集]
大回り乗車は極端な選択乗車なので、選択乗車のルールに従うことが大前提となる。
- 同じ駅・区間を2度以上経由すると不正乗車(発駅と着駅が同じ場合も)[注 3]。ただし、東神奈川―横浜間、神田―東京間、代々木―新宿間、山科―京都間、新大阪―大阪間、西小倉―小倉間、大阪―新大阪間、吉塚―博多間、尼崎―大阪間、宮内―長岡間、城野―小倉間、宝積寺―宇都宮間、新前橋―高崎間、倉賀野―高崎間、鶴見 - 横浜間[注 4]、鶴見 - 武蔵小杉間[注 5]、日暮里 - 上野間[注 6]では、乗り換えのための折り返し乗車なら、区間内の途中下車をしなければ不正乗車ではない[注 7]。
- 通常の切符であれば発駅または経路上の1駅に到達した時点で運賃計算が打ち切りとなるため、環状線一周切符や6の字型切符などを購入・使用することができる。しかし、このような経路は大都市近郊区間の運賃を最短経路にすることに該当しないため、6の字大回りを実行することはできない。
- 大都市近郊区間内発着の乗車券のルールとして途中下車はできない。有効期限は1日(その日の終電まで)。
- 大回り乗車とは一部区間でしか直接関係しないが、「長野→浪江」(566.8km)の乗車券の有効期限は4日間、途中下車も可能だったものが、この区間が東京近郊区間に組み込まれたことで有効期限1日、途中下車不可となってしまい、却ってデメリットになってしまった。一駅でも近郊区間から外れれば(この場合、桃内駅まで買えば)この制約から解放される。
- 大都市近郊区間内→大都市近郊区間外→大都市近郊区間内のように利用すると、そのような経路を指定した切符を購入しないと不正乗車となる。
- たとえば、常磐緩行線取手駅(東京近郊区間内)→直通先の東京メトロ千代田線(JRでないため東京近郊区間外)→東京メトロ東西線(JRでないため東京近郊区間外)→直通先の中央・総武緩行線三鷹駅(東京近郊区間内)のように直通運転を利用した場合、途中に改札を出なくてもJR東日本でないゆえ東京近郊区間外の千代田線と東西線を利用することができる。そのため、取手駅から三鷹駅までのJR東日本のきっぷで両駅の改札を通ることができるが、これはれっきとした不正乗車である。
- ただしこの場合、Suica・PASMOなどのICカード乗車券を利用すると不正乗車ではなくなる。これは事前に乗車経路が指定されないICカード乗車券の性質上、Suica・PASMOの運賃計算のルールが、大都市近郊区間とは異なるルールで定められているからである。
- 有効な特急券・グリーン券を用意すれば特急列車やグリーン車にも乗車することができる(下記例外を除く)。特急が普通列車より圧倒的に強い福岡や常磐、房総などで有効。また、通過駅の折り返し特例を活用するために特急列車を選ぶ人もいる(例えば、高崎線と八高線の乗り換えは倉賀野駅で行う必要があるが、倉賀野駅を通過する特急に乗る場合に限り高崎駅を経由できる)。
特有の注意点[編集]
大回り乗車特有の注意点は以下の通り。
- 定期券を使うと不正乗車[注 8]。
- Suica定期券・PASMO定期券などのICカード定期券を利用して定期券区間内も乗車する場合は、不正乗車ではない。ただ避けた方が無難。
- 運賃計算上複雑な扱いになっている場合、通常の利用は特例で救済されることが多いが、大回り乗車では救済されないケースが多い。
- 例えば湘南新宿ラインは品川駅を経由しないが、大崎駅と西大井駅の間に営業キロが設定されていないため、運賃計算上は品川駅を経由していることとなる。通常の利用であれば、品川駅→<山手線>→大崎駅→<湘南新宿ライン>→西大井駅のように利用しても「品川~大崎間の往復運賃は計算しない」という特例がある。しかし、品川駅→<東海道線>→横浜駅→<湘南新宿ライン>→大崎駅のように乗車した場合、この特例には該当しないため品川駅を2回通過したことになる(鶴見駅~横浜駅間も往復乗車という扱いになり、こちらも特例の適用外)。
- もしこのことを知らなくても駅員に事情を説明すれば理解してくれるかもしれないが、ルール違反していることには変わりないので避けるべきである。
- 例えば湘南新宿ラインは品川駅を経由しないが、大崎駅と西大井駅の間に営業キロが設定されていないため、運賃計算上は品川駅を経由していることとなる。通常の利用であれば、品川駅→<山手線>→大崎駅→<湘南新宿ライン>→西大井駅のように利用しても「品川~大崎間の往復運賃は計算しない」という特例がある。しかし、品川駅→<東海道線>→横浜駅→<湘南新宿ライン>→大崎駅のように乗車した場合、この特例には該当しないため品川駅を2回通過したことになる(鶴見駅~横浜駅間も往復乗車という扱いになり、こちらも特例の適用外)。
- 改札に入って長い時間たつと、改札から出られない場合がある。その際は有人改札で大回り乗車をしてきたことを伝える。
実際に実行する際の注意点[編集]
- あらかじめサンドイッチやおにぎり等の軽食を用意しておけば、売店がなくても食事に対応できる。食料を持たない場合、事前に売店や駅ナカ商業施設のある駅を調べておき、乗換時間の間に購入することをお勧めする。また、輸送障害に遭遇しても空腹の心配が減る。
- 待ち時間に有人改札から一旦出られるようにしている駅もある。駅員には経路の説明を忘れずに。なお、駅員によっては駅名を逐一伝えても理解できない場合もあり得るので、できれば経路を示した図をもっていく方が無難。
- 輸送障害(遅延・運転見合わせなど)に遭遇しても振替輸送を受けられない。
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ICカードを活用した大回り乗車[編集]
大都市近郊区間が設定されていないエリアでも、ICカード乗車券の運賃計算の仕組みを利用することで、大回り乗車ができる場合がある。
ICカード乗車券は、乗車時に経路を指定しない仕組みになっている。そのため出場時に「最も安くなる経路」で運賃が自動計算される。JR西日本の場合、この根拠は「JR西日本ICカード乗車券取扱約款 第19条2項」に明記されている。同条項には「片道普通旅客運賃が最も低廉となる経路で計算する」と定められており、これは近郊区間外であっても成立する。紙の乗車券(旅客営業規則)とは別に、ICカード専用の約款が設けられているためである。なお、ICカード大回りは近郊区間の「特例」である紙の大回りとは法的根拠が異なる。しかし結果として、遠回りしても最短経路の運賃で乗車できるという点は共通している。
なお、この規則が適用されるのは、ICカード乗車券で乗車した場合のみである。そのため、紙の切符では適用されず、不正乗車となることに注意が必要である。
JR西日本エリア(ICOCAエリア)[編集]
JR西日本のICOCAエリアでは、近郊区間の設定にかかわらず、ICカード(ICOCA・Suicaなど相互利用可能なカードを含む)を使用した場合に最短経路の運賃が適用される。そのため、大阪近郊区間の外であっても、ICカードを使った大回り乗車が可能である。
北近畿エリア[編集]
2021年春のダイヤ改正で、山陰本線(園部〜城崎温泉)・福知山線(篠山口〜福知山)・播但線(寺前〜和田山)・舞鶴線(綾部〜東舞鶴)にICカードエリアが拡大された。これにより、大阪方面から北近畿を経由して環状に戻るルートでICカード大回りが可能になった。
たとえば「大阪→(JR神戸線)→姫路→(播但線)→和田山→(山陰本線)→京都→(奈良線)→奈良→(大和路線)→久宝寺→(おおさか東線)→新大阪」というような、北近畿を経由するルートでも大回り乗車ができる。
なお、改札機は概ね5時間程度で時間制限となりエラーが出ることがある。その際は有人改札で大回り乗車の旨を説明する必要がある。駅員がICカード約款の規定を把握していない場合は、「JR西日本ICカード乗車券取扱約款 第19条をご確認ください」と伝えると話が通りやすい。
広島エリア[編集]
広島都市圏でも、ICOCAを使った大回り乗車が可能な区間がある。たとえば三原〜海田市間は、山陽本線と呉線の2つの路線があり、どちらもICOCAのエリア内であるため、同区間内の乗車であれば大回り乗車ができる。そのため初乗り運賃だけで、呉線の瀬戸内海の風景と、山陽本線の名所「セノハチ」どちらも味わうことができる。
岡山エリア[編集]
岡山エリアもICOCAエリアに含まれているため、約款上はICカード大回りが成立する。たとえば岡山〜倉敷間は、山陽本線と伯備線・吉備線(桃太郎線)の2つの経路があるため、その経路内であれば大回り乗車ができる。また、東岡山~上郡間でも、山陽本線と赤穂線の2つの経路があり、どちらもICOCAが使用できるため、県境は跨ぐがICカードでの大回り乗車が可能。
JR東海・名古屋都市圏(TOICAエリア)[編集]
名古屋圏のJRは路線網が比較的まばらなため、大都市近郊区間は設定されていない。ただし、TOICA対応駅では特例が一部設けられている。
岐阜〜多治見間には「東海道線・中央線経由(岐阜→名古屋→多治見)」と「太多線・高山本線経由(岐阜→美濃太田→多治見)」の2経路が存在する。TOICA(または相互利用ICカード)で乗車した場合、どちらの経路でも最短距離の運賃で出改札される特例が適用される[2]。
そのため、名古屋~金山間の移動でも、「名古屋→(東海道線)→岐阜→(高山本線)→美濃太田→(太多線)→多治見→(中央線)→金山」というルートで大回り乗車ができる。
なお、これらICカード大回り乗車はいずれもJRが公式に定めた規則・約款に基づくものであり、不正乗車には当たらない。ただし、念押ししてもう一度言うが、あくまでICカード利用時の特例であるため、紙の切符では適用されない。
大回り乗車の目的[編集]
大回り乗車の目的としては以下のようなものが主である。
- 長く列車に乗るため
- 世間広し。列車に乗ってばかりいたい人も少なくない。たとえば、「新潟駅→東新潟駅」と移動するところを「新潟駅→吉田駅→東三条駅→新津駅→新発田駅→東新潟駅」といったように移動する。
- 自宅の劣悪な環境から逃げるため
- 家にいると夏の暑さ、冬の寒さに耐える必要があるため、冷暖房費節約のために冷暖房完備の電車に乗る。自宅代わりに使うので、電車の中で本を読んだり勉強したりする。飲食物や酒も必要である。
- 駅ナカでショッピングするため。
- 「Dila」や「ecute」、「エキマルシェ」といった駅ナカ商業施設を利用する人も大回り乗車をすることがある。たとえば、「新宿駅→<山手線大崎方面>→品川駅(ecute品川など)→東京駅(グランスタなど)→<京浜東北線>→大宮駅(ecute大宮)→<埼京線>→武蔵浦和駅→<武蔵野線>→西国分寺駅→大久保駅」など。これだけ動いて運賃は130円!![注 9]
- 撮り鉄のため
- 改札内を移動するだけなので、近くに撮りたい列車が走っていなくても、エキセンonlyで撮り鉄する輩には向いている。
- 発車メロディを録音するため
- 先述の通り改札内を移動するだけなので、東京近郊区間をはじめとして、ホームで流れる発車メロディを録音することにも適している。
- 誤乗したあとの折り返し乗車を忌み嫌うため
- 折り返し乗車は不正乗車のため、誤乗したあとに元のルートを戻ることを忌避してあえて大回り乗車をする人もたまにいる。しかし、これについては旅規291条(誤乗区間の無賃送還)を適用する方がより正しいと言われる[3]。
備考[編集]
- 青春18きっぷ等で日付変更の基準となっていた電車特定区間と各地の近郊区間の混同に注意する必要がある。
- 山口県では、大型時刻表で特定区間の表示がない下松駅などで、岩徳線経由の方が岩国駅以東との運賃が安い場合があるが、実際の乗車例が多い大回り乗車経路の柳井経由の切符を買わないと不正扱いされるケースが多かったため、利用者が中国行政監査局に申し立てたところ訴えが通り、改善されることになった。
批判[編集]
民鉄での主な大回り乗車可能な区間[編集]
民鉄でも経路が複数ある場合に大回り乗車ができる区間がある。
- 東武鉄道
- 西武鉄道
- 東急
- 東京メトロ
- 運賃は最短経路で計算されるため、改札を出なければ大回り乗車可能。なお、改札外乗換駅で乗り換える際には、出発駅からその駅までの金額以上の切符を用意したうえで、60分以内にオレンジ色の自動改札から出て、乗り継ぎ先の改札に入場する必要がある。
- 名鉄
- 近鉄
- 布施 - 大和西大寺 - 大和八木 - 布施 を囲んだ区間で大回り乗車可能。
大回り乗車の描写がある作品[編集]
海外[編集]
都市によっては、地下鉄で乗車時にのみ改札あり、乗車と同時に乗車券が回収される路線網がある。この時は大回り乗車し放題である。
関連項目[編集]
脚注[編集]
- 注
- ↑ にちりんシーガイアなど。
- ↑ つまりそれ以外の鉄道会社では適用されない(近鉄は、公式区間以外でも例外的に許可してる模様)。
- ↑ 大回り乗車は実乗車経路でなく駅間を対象とするので、実際に合流するさいたま新都心駅で旅客列車は通過扱いとされない「むさしの号」の西浦和 - 大宮間の乗車で、武蔵浦和駅乗り換えの埼京線経由の代替と見なして上野東京ライン方面へ大回り乗車ができる。
- ↑ 川崎駅と横須賀総武線の乗り換え
- ↑ 相鉄・JR連絡線と横須賀線、鶴見線などの乗り換え
- ↑ 高崎・宇都宮線と常磐線の乗り換え
- ↑ 尤もこの特例の趣旨を考えると、大回り乗車にこの特例を当てはめることはできないと主張する者もいる。
- ↑ 但し、途中下車ができる代償がある。
- ↑ ただし、店での買い物代金を一切考慮しない。
- 出典
- ↑ Suicaの一部サービスをご利用いただける駅が増えます-JR東日本
- ↑ 自動精算方式|TOICA-JR東海
- ↑ 本記事のトークページ参照
- ↑ 種村直樹『鉄道旅行術』日本交通公社。