ヨーロッパにおける鉄道市場の自由化
本項ではヨーロッパにおける鉄道市場の自由化について解説する。
概要[編集]
ちょうど冷戦が終結する1991年以前までは、ヨーロッパの各国鉄会社は、インフラの保有と列車の運行のどちらもを行い、鉄道市場を独占していた。それにもかかわらず、運賃は高額だし、サービスは快適ではないし、大して速度も速くないのが日常だった。しかも、各国鉄会社による運行の独占が続いたためその他民間事業者の参入が難しい状態だった。しかも国際列車の運行も色々面倒な点も多かった。そこで欧州連合は1991年にヨーロッパにおける鉄道の統合政策を推進し、指令91/440EECを採択した。これにより、それまであった国鉄会社はインフラを保有するインフラ会社と列車を運行する運行会社に分離された。インフラの保有は国が直接管理するところもある。またドイツ鉄道やオーストリア連邦鉄道、ポーランド国鉄のようにグループ会社でそれぞれを担う形態のものもある。この分離により、民間事業者の市場参入が可能となり路線の運行の競争が生まれた。これは他国の鉄道会社の参入も可能となり、他国でもその国の列車ブランドが運行されるようになった。オーストリア連邦鉄道の運行するレイルジェットやナイトジェットはいい例である。
各国の状況[編集]
チェコ[編集]
鉄道での運行競争が激化してるのはチェコであろう。それまではチェコ鉄道はのんべんだらりと長距離列車を運行していたが、2011年よりレギオジェット社がチェコ鉄道よりも格安運賃でプラハ-オストラヴァ間で長距離列車の運行を開始、2012年からはレオ・エクスプレスも参入し、チェコ鉄道は焦って対抗した。そこで今日に至るまで、プラハ-オストラヴァ線でチェコ鉄道、レギオジェット、レオ・エクスプレスの3社による競争が繰り広げられている。これを鉄道誌「レビュー・鉄道インターナショナル」では略奪的競争と称した。
スペイン[編集]
スペインではレンフェによる高速鉄道の運行がほとんどだが、フランス国鉄の子会社のウイゴ・エスパーニャが2021年に、イタリアのトレニタリアとスペインの航空会社エア・ノストラムの合弁会社であるイリョが2022年にスペイン鉄道市場に参入、この2社はレンフェの運行するそれぞれの列車に対抗する形で運行を開始した。まずウイゴはレンフェの運行する格安列車のAvloに対抗すべく格安列車の運行を開始、イリョはレンフェの運行するフルサービス列車のAVEに対抗すべくフルサービス列車の運行を開始した。これによりスペインの鉄道市場は運賃面とサービス面における競争が拡大していった。
イタリア[編集]
イタリアではそれまでトレニタリアによる質の悪い高速列車の運行が行われていた。そこでイタロ社が台頭した。イタロはトレニタリアの運行を批判し、独自で高速列車の運行を2012年に開始した。イタリアは世界で初めて高速鉄道市場を開放した国であり、イタロは世界初の民間高速鉄道事業者となった。イタロはサービス面において重要視しトレニタリアに営業の打撃を与えることを目標とした。そこで、焦ったトレニタリアはフレッチャ・ロッサなどの高速列車に力を入れた。そこで劇的な競争が生じ、サービス面などで凄まじい競争を行った。結果、航空市場が崩壊するまで至った。
スウェーデン・ドイツなど[編集]
スウェーデンやドイツでは運行競争というより、地域によって民間事業者が鉄道市場に参入している場合が多い。これはチェコの地域輸送も該当する。地域列車の運行を運行会社が入札を行い、落札した会社がその路線を数年間運行できるというシステムを取る。(この点では競争が生じている。)ドイツではドイツ鉄道の子会社のDBレギオの他、東ドイツ鉄道、フォクトラント鉄道、ユーロバーン、vlexx、SÜWEX、ニーダーバルニム鉄道などあげればきりがないほどたくさんの私鉄が存在する。スウェーデンではどこの地区をどの会社が運行するか大体区分決めされている。また長距離列車での競争も一応存在し、ドイツにはフリクス・トレイン、スウェーデンではVRグループが参入している。
ポーランド[編集]
ポーランドでは地域列車での運行競争が部分的にみられる。全国規模で地域列車を運行するポルレギオと一定の地域で郊外列車を運行するマゾフツェ鉄道(ワルシャワ近郊)、ヴィエルコポルスカ鉄道(ポズナン近郊)、ドルヌィ・シレジア鉄道(ヴロツワフ近郊)、シレジア鉄道(カトヴィツェ近郊)、マウォポルスカ鉄道(クラクフ近郊)、ウッチ集約鉄道(ウッチ近郊)で一部路線で競争が生じている。またポルレギオは地域列車運行専門だが、長距離列車運行専門のPKPインターシティに競争を仕掛けたが、結局事業撤退した過去がある。
オーストリア[編集]
上述した通り、オーストリア連邦鉄道は独自の列車ブランドのレイルジェット、ナイトジェットを運行し、時がたつにつれてそれらの列車の運行範囲を隣国へ拡大し、その国の鉄道市場に参入していった。レイルジェットに関してはチェコ鉄道もが運行を開始したほどである。これらの列車がそれまでオーストリア周辺を走っていたユーロシティ、ユーロナイトを置き換えていった。
その他の国[編集]
デンマーク、オランダ、ベルギー、フランス、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアなどの国では経営を分離したものの、一部地域を除いてほとんどその国鉄による独占が行われている。