ハンガリー王国
ハンガリー王国(ハンガリーおうこく、ラテン語: Regnum Hungariae、ハンガリー語: Magyar Királyság)は、中世末期から近現代にかけて中央ヨーロッパに存在した王国である。その歴史は、1000年にイシュトヴァーン1世が教皇から王冠を授けられ、キリスト教国として成立したことに始まる。中欧における主要な勢力の一つとして栄えたが、その歴史はオスマン帝国の侵攻やハプスブルク君主国との関係など、激動の時代を経験した。
歴史[編集]
成立と初期[編集]
9世紀末にパンノニア平原に定住したマジャル人は、955年のレヒフェルトの戦いで敗れた後、西方への遠征を停止し、定住とキリスト教化を進めた。ゲイザの息子であるイシュトヴァーン1世は、周辺諸部族を統合し、1000年(または1001年)に教皇シルウェステル2世から聖イシュトヴァーンの王冠を授けられ、ハンガリー王国を建国した。これにより、ハンガリーは西ヨーロッパのキリスト教世界の一員として認められることとなった。
初期の王国は、アルパード朝の下で統治され、封建制が確立された。13世紀にはモンゴル帝国の侵攻を受け、一時的に壊滅的な被害を受けたが、その後再建された。14世紀に入ると、アンジュー家の支配の下で王国は最盛期を迎え、カーロイ1世やラヨシュ1世の時代には、広大な領土を支配した。
オスマン帝国との抗争とハプスブルク家による支配[編集]
15世紀から16世紀にかけて、ハンガリー王国はオスマン帝国の脅威に直面した。1526年のモハーチの戦いでハンガリー軍は壊滅的な敗北を喫し、ラヨシュ2世が戦死した。この結果、ハンガリー王国はオスマン帝国の直接支配下に入る中部、ハプスブルク家の支配下に入る西部・北部、そして東ハンガリー王国(後にトランシルヴァニア公国)という3つの地域に分裂した。
17世紀末にオスマン帝国が衰退すると、ハプスブルク家は徐々にハンガリーの支配を強化していった。1699年のカルロヴィッツ条約によってオスマン帝国の支配は終焉を迎え、ハンガリー全土がハプスブルク君主国の支配下に入った。その後、ハンガリーはオーストリア帝国の一部として位置づけられた。
オーストリア=ハンガリー帝国[編集]
19世紀に入ると、ハンガリー民族主義が高まり、ハプスブルク家に対する独立運動が活発化した。1848年革命では、コシュート・ラヨシュが指導する独立運動が一時的に成功を収めたが、ロシア帝国の介入によって鎮圧された。しかし、この民族運動の高まりは、ハプスブルク家に改革を促した。
1867年には、アウスグライヒ(和協)が締結され、オーストリア帝国はオーストリア=ハンガリー帝国へと再編された。これにより、ハンガリーはオーストリアと対等な地位を持つ王国として、大幅な自治権を獲得した。オーストリア=ハンガリー帝国は、第一次世界大戦が勃発するまで、中央ヨーロッパの主要な列強の一つとして存在した。
解体と戦間期の王国[編集]
1918年に第一次世界大戦が終結すると、オーストリア=ハンガリー帝国は解体された。ハンガリーはハンガリー民主共和国として独立を宣言したが、短期間でハンガリー・ソビエト共和国が成立するも、これもすぐに崩壊した。
その後、1920年に再びハンガリー王国として再建された。しかし、王位は空位のままで、ホルティ・ミクローシュが摂政として国家を統治する体制が続いた。この時期のハンガリー王国は、トリアノン条約によって失われた領土の回復を強く望み、ファシズムやナチズムに接近していった。
第二次世界大戦と王国の終焉[編集]
第二次世界大戦では、ハンガリー王国は枢軸国の一員として参戦した。しかし、戦局が悪化すると、1944年にドイツ軍による占領を受け、矢十字党による傀儡政権が樹立された。
1945年にソ連軍によって解放された後、ハンガリーはソ連の影響下に置かれることになった。1946年、ハンガリー王国は正式に廃止され、ハンガリー第二共和国が成立した。これにより、約950年にわたるハンガリー王国の歴史は幕を閉じた。
歴代君主[編集]
ハンガリー王国の歴代君主は、初期のアルパード朝から始まり、アンジュー家、ルクセンブルク家、ヤギェウォ家、ハプスブルク家など、様々な王朝が王位に就いた。特にハプスブルク家は、1526年から1918年まで、断続的にハンガリー王を兼ねた。
文化[編集]
ハンガリー王国の文化は、西ヨーロッパと東ヨーロッパの影響を強く受けながら、独自の発展を遂げた。キリスト教の受容により、教会建築や宗教芸術が栄えた。また、ルネサンス期には、マーチャーシュ1世の治世下で文化が花開き、ブダはヨーロッパ有数の文化の中心地となった。
ハンガリー語は、ウラル語族に属する独自の言語であり、文学や学術研究において重要な役割を果たした。バロック音楽やロマン主義音楽においても、多くの優れた作曲家が輩出された。
豆知識[編集]
- ハンガリーの国旗は、赤色、白色、緑色の三色旗で、それぞれ力、忠誠心、希望を表すと言われています。
- ハンガリーは、温泉が豊富なことでも知られており、古くから温泉保養地として栄えてきました。
- ハンガリーの伝統的な料理には、グヤーシュ(シチュー)やパプリカチキンなどがあります。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 井上健太郎『物語 ハンガリーの歴史』中央公論新社、2012年。ISBN 978-4-12-102148-6。
- 南塚信吾『図説 ハンガリーの歴史』河出書房新社、2012年。ISBN 978-4-309-76189-9。