チェコの高速鉄道
チェコの高速鉄道(Vysokorychlostní železnice v ČeskuまたはRychlá spojení (RS)(高速接続)、VRT)とは現在チェコで計画中または工事中の200~320kmの高速鉄道路線の総称である。これらの路線はチェコ内の特定の都市間及び近隣諸国への移動時間を短縮するとともに、一部路線、特に幹線路線の地域輸送や貨物輸送いのける輸送力強化に活用することを目的としている。
建設工事は2028年から2050年にかけて行われる予定で、最初の区間は2033年までに完成し、主要路線プラハ-ブルノ間は2036年までに開通する予定である。建設は段階的に行われ、高速鉄道網完成前に移動時間を短縮する効果が期待される。最初に着工される区間はプジェロフ-オストラヴァ間のモラヴィアの路線になる見込みで、2028年に着工、2033年に完成を見込んでいる。この路線の最高速度は320kmとなる。ブルノ-ブジェツラフ間も同年に建設が開始される予定である。
総費用は2023年までに1兆チェココルナ(約7兆2296億5000万円)に達すると推定される。チェコ政府と欧州連合は欧州投資銀行からの融資を含めて、資金調達に傘下する必要がある。
歴史[編集]
チェコスロバキア時代[編集]
19世紀に鉄道網の基幹が完成すると、1930年代戦間期チェコスロバキアでは鉄道輸送が急成長を遂げ、多くの新しい駅が建設されたほか、数百kmの路線が近代化された。1936年に、プラハ-ブラチスラヴァ間で革新的なM290.0系気動車で運行されるスロヴェンスカー・ストレラ号が運行された。最高速度は130km/hに達し、2都市間をスロヴェンスカー・ストレラは最短所要時間4時間18分で結び、この記録は何十年も破られなかった。
ボヘミア・モラビア保護領の設立と第二次世界大戦の開戦は、鉄道の発展を著しく妨げた。戦後、チェコスロバキアでは貨物輸送が優先され、路線速度の向上は必要とされなかった。一方、道路網の発展と最初の高速道路の開通によって、道路輸送での需要が高まった。
最初の高速鉄道計画[編集]
チェコスロバキア時代に高速鉄道を建設するという最初の構想は、幹線道路の輸送力不足に関連して1970年代に浮上したが、1980年代に大規模な政治的変化と貨物輸送の衰退に伴い、開発は減速し1990年代に再び浮上した。1970年半ばにシュコダ・プルゼニ社は55Eという名称で、最高速度200km/hの重牽引機関車を製造していた。(需要の無さから後に160km/hに引き下げられた。)
1995年には「チェコ共和国における地域技術基盤 - 高速鉄道回廊」と題された包括的な調査が作成され、ドイツをモデルにした将来の路線の形態とチェコ内の都市同士及び、近隣諸国都市との接続の必要性が検討された。これは2003年に「高速鉄道路線の調整調査」の形式で更新及び修正された。
回廊時代[編集]
しかし、1990年代には、新しい高速線を建設する代わりに、鉄道回廊の近代化及び100km/hから160km/hの速度向上に重点を置くことが決定された。そのため高速線の推進は鉄道ファンや効率的輸送センターによって支持された。政府の立場としてはボフスラフ・ソボトカ首相時代にのみ変化し、2017年5月にチェコにおける高速線建設計画に初めて明確な概要が示され、チェコにおける高速鉄道接続の開発プログラムという文書が承認された。アンドレイ・バビシュは2017年の選挙期間中に出版した「偶然眠るときの夢」という著書に高速線の建設の内容を盛り込み、その後の2度の政権下でこのプログラムはさらに発展・実施された。
長所と短所[編集]
長所[編集]
- 移動性の向上
- 運輸省によると、基本目標は「チェコの主要人口密集地へのアクセス性、特に海外との間駅を改善するために、高速公共交通機関の運行範囲を拡大し、主要交通ルートの移動時間を短縮し、これによりこれらの人口密集地の相互アクセス性と海外の主要地域からのアクセス性を援助し、ビジネス、観光の機会の発展を促進し、あらゆるプラスのマクロ経済効果をもたらすこと」である。輸送時間の短縮により、通勤時の利用者の移動性が向上し、教育、科学、産業の発展の促進ができる。高速線は長距離ではより効率的だが、現代の高速列車は約100kmの距離で行程の4分の3以上に渡って最高速度での運行ができる。さらに高速線の一部ルートには快速などの低カテゴリーの列車も使用でき、大都市や地域間の移動時間を短縮することができる。
- 低排出輸送
- 在来線の輸送力解放
- 新しい高速線は、輸送密度の高い在来線の容量解放にも貢献し、貨物列車及び地域列車の運行本数増加ができる。特にプラハ-コリーン間では1日約425本の列車が運行されており、路線容量は事実上枯渇している。
- ダイヤの安定性
- 高速線の計画的なメンテナンス(夜間が望ましい)により、在来線に比べてダイヤ順守に大きな影響は及ぼさないはずである。例えば、1920年代初頭に、最初の鉄道回廊の閉鎖に関連して、ヴェリムとブランディス・ナト・オルリツィーで繰り返し事故が発生し、何時間にもわたる遅延が発生した。緊急事態が発生した場合に、通常の運休や代替バスサービスの代わりに、少なくとも一部の列車に迂回ルートが用意できる。
短所[編集]
- 高い建設費
- 高速鉄道を建設する主なデメリットはやはり高額な建設費用である。2016年の時点では、約600kmに対して総額少なくとも5000億チェココルナと見積もられており、そのうち、財政的に厳しい区間はプラハ-ブルノ間で1200億チェココルナを上回ると予想される。この金額はまた、工期が長いため大幅に増える可能性もある。2020年時点では少なくとも約6000億チェココルナになると予想されたが2023年には8000億チェココルナになった。インフラ開発協会によると、特に鉄道ジャンクションの近代化費用を含めると最大約1.2兆チェココルナに達するとされている。同時に建設費がさらに増幅する可能性もあり、これはヨーロッパの多くでも同様の高速鉄道建設において直面したことであり、例えばスペインのカンタブリア山脈を貫く新しく建設された高速線の建設費用は当初の17億ユーロから37億ユーロに増幅したとか。追加費用によって、地方自治体やその他関係組織との交渉後にルートの見直しをする必要がある可能性もある。しかし、当時の鉄道管理局長イジー・スヴォボダによると、費用計算には約3分の1の資金準備金が含まれる。同時に高速線の建設費用は、新しい在来線や高速道路の建設とさほど変わらない。地形にもよるが、チェコにおいては約20%増加する見込みである。
- 車両の近代化
- 高速線で運行をするために適切な鉄道車両を購入するには多額の費用が必要である。鉄道管理局の計画によると最高速度が200km/h未満の車両は高速線での運行はしないとのこと。
- 環境への影響
- 建設には農地を含む大規模な土地収用が必要であり、環境に悪影響を及ぼす可能性がある。チェコ共和国農業連合によるとエルベ川流域だけでも約3300haの肥沃な耕作地が対象となるとのこと。また、この建設計画には建設予定の高速線沿線の住民からの反対にも遭っている。特に景観に人工的な障壁ができることや、騒音や振動が発生するなど懸念されている。
- 運行費用
- 最後の考えられるリスクは運行費用の上昇である。例えば、走行速度が速いほど、電気消費量が増えるため、電力代が高騰するなどの運行費用の上昇がある。例えば、2022年には、チェコ鉄道への2023年電力供給に関する大規模な契約において、供給業者が価格高騰を理由に興味を示さないという問題にチェコ鉄道は苦慮した。しかし、鉄道会社は在来線における電力や燃料の燃費の悪さにも悩まされており、速度低下や輸送力不足が頻発し、過度の加減速につながってる。
計画[編集]
高速鉄道の定義[編集]
運輸省の計画文書の「チェコ共和国における高速鉄道接続開発プログラム」によると、これは「チェコ共和国における高速鉄道の運用およびインフラシステムであり、新しい高速路線(VRT)、近代化された高速路線、および車両と運用コンセプトを含むより高いパラメータの近代化された在来線を含む」ものである。高速鉄道とは 対照的に、高速接続のコンセプトは利益を最大化するために時速160kmまで近代化された接続在来線を包括的に扱うことを目的としている。
線路[編集]
ポラビーVRT区間を除けば新しくできる全線が複線であり、最高速度は320km/h(構造上は350km/hまで可能)、近代化区間は200km/hとなる。電圧は交流25kV50Hzのみで電化されると想定されている。曲線半径は少なくとも7kmで、旅客輸送のみ行われる区間では1マイルあたり最大35度の勾配が設計される予定である。
路線[編集]
チェコ政府は2017年の会議で以下の路線の建設を承認した。
- RS4号線
- プラハ-ウースチー・ナト・ラベム-ドレスデン
- RS5号線
- プラハ-フラデツ・クラーロヴェー-ヴロツワフ
高速線の建設は2026年より開始予定だが、準備作業を加速するためにチェコの国家基準は作られず、鉄道管理局がフランスのTGVのシステムの基準ライセンスを1100万チェココルナで購入した。
最初に建設される3区間は以下の通り
運行[編集]
運輸省は、これらの路線の運行は基本的に30分間隔、プラハ-ブルノ間では15分間隔で運行するべきであると見積もっている。同時に、現在の快速路線の運行範囲は維持されるべきであるとしている。旅客輸送は運行事業者の商業リスクにおいて確保されるべきであり、閑散時間帯の接続は部分的に補助されるべきである。2016年の試算によると、プラハ-ブルノ間の予想運賃は2等車で大人1人あたり最大300チェココルナ(約2100円)、プラハ-オストラヴァ間では450チェココルナ(約3200円)であった。(プラハ-ブルノ間は東京-名古屋間より少し長いくらいだが、普通に安くてうらやましい。)
列車[編集]
2050年以降、鉄道管理局は運輸省と連携して、高速線で4種類の列車を運行する予定である。これらはRE列車(200km/h)、快速(230km/h)、急行(320km)、高速列車(320km/h)である。最速の「高速列車」(Sp)クラスは最小限の駅に停車する旅客列車である必要がある。2022年に公開された鉄道管理局のコンセプトによると、次の路線で運行で運行される予定である。
- Sp1
- (ベルリン中央駅 - ドレスデン中央駅 - ) ウースチー・ナト・ラベム中央駅 - プラハ中央駅 - ブルノ-ヴィーデニスカー駅 - ブジェツラフ駅 - ウィーン中央駅
- Sp2
- プラハ中央駅 -ブルノ-ヴィーデニスカー駅 - オストラヴァ-スヴィノフ駅 - オストラヴァ中央駅 - オストラヴァ-ストドルニー駅 - オストラヴァ-クンチツェ駅 - フリーデク・ミーステク駅
- Ex1
- プラハ中央駅 - プラハ東VRT駅 - ブルノ中央駅 - オストラヴァ-スヴィノフ駅 - オストラヴァ中央駅 - ボフミーン駅 (- カトヴィツェ駅 - クラクフ中央駅) / - カルヴィナー中央駅 - チェスキー・チェシーン駅 - トジネツ・ツェントルム駅 - ナーフシー駅 (- ジリナ駅 - コシツェ駅)
- Ex2
- ヘプ駅 - マリアーンスケー・ラーズニェ駅 - プラナー・ウ・マリアーンスケー・ラーズニェ駅 - ストジーブロ駅 - プルゼニ-イジュニー・プジェドミェスティー駅 - プルゼニ中央駅 - プラハ-スミーホフ駅 - プラハ中央駅 - プラハ-リベニ駅 - プラハ東VRT駅 - パルドゥヴィツェ中央駅 - ウースチー・ナト・オルリツィー駅 - オロモウツ中央駅 - フラニツェ・ナ・モラヴェ駅 - ヴァラシュスケー・メジジーチー駅 - フセティーン駅 (- ジリナ駅)
- Ex3
- (ベルリン中央駅 - ドレスデン中央駅 - ) ウースチー・ナト・ラベム中央駅 - プラハ中央駅 - プラハ東VRT駅 - ブルノ中央駅 - ブジェツラフ駅 - ウィーン中央駅
- Ex4
- (ウィーン中央駅 / ブダペスト西駅 -) ブジェツラフ駅 - ブルノ中央駅 - オストラヴァ-スヴィノフ駅 - オストラヴァ中央駅 - ボフミーン駅 (- カトヴィツェ駅 - ワルシャワ中央駅) / (ブジェツラフから分岐) - ホドニーン駅 - スタレー・ミェスト・ウ・ウヘルスケーホ・フラディシュチェ駅 - オトロコヴィツェ駅 - プジェロフ駅 - オストラヴァ中央駅
- Ex5
- ヘプ駅 - キンシュペルク・ナト・オフジー駅 - ソコロフ駅 - ホドフ駅 - カルロヴィ・ヴァリ中央駅 - オストロフ・ナト・オフジー駅 - クラーシュテレツ・ナト・オフジー駅 (- カダニ駅 )- ホムトフ市駅 - イルコフ・ザスターフカ駅 - モスト駅 - プラハ中央駅 - プラハ東VRT駅 - イフラヴァVRT駅 - ブルノ中央駅 - ブジェツラフ駅 (- ウィーン中央駅 / ブダペスト西駅)
- Ex10
- プラハ中央駅 - プラハ・リベニ駅 - フラデツ・クラーロヴェー中央駅 - ヤロミェジュ駅 - トルトノフ中央駅 - スヴォボダ・ナト・ウーポウ駅 / (フラデツ・クラーロヴェーから分岐して) - チェスカー・スカリツェ駅 - ナーホト駅
- Ex11
- クラドノ市駅 - クラドノ駅 - レティシュチェ・ヴァーツラヴァ・ハヴラ駅 - プラハ中央駅 - プラハ-リベニ駅 - パルドゥヴィツェ中央駅 - オロモウツ中央駅 - オストラヴァ-ヴィートコヴィツェ駅 - ハヴィージョフ駅
- Ex16
- プラハ中央駅 - プラハ-リベニ駅 - プラハ東VRT駅 - フラデツ・クラーロヴェー中央駅 (- ヴラティスラフ駅)
- Ex22
- プラハ中央駅 - プラハ-ザフラドニー市駅 - ブルノ中央駅 - ヴィシュコフ・ナ・モラヴェ駅 - ネザミスリツェ駅 - コイェティーン駅 - クロミェジーシュ駅 - オトロコヴィツェ駅 - ズリーン・ストジェト駅
- Ex55
- リトヴィーノフ駅 - テプリツェ・フ・チェハーフ駅 - ウースチー・ナト・ラベム中央駅 - プラハ中央駅
資金調達[編集]
運輸省によると資金は運輸インフラ国家基金を通して、欧州連合の資金(欧州連合による拠出は50%未満の可能性が高い)を使用して提供される予定であり、官民パートナーシップ(PPP)の形での資金調達は2020年時点で計画されていなかった。鉄道局の観点から、民間部門との連携は特に建設と運営の調達資金の場合に意味があるとされる。しかし、2023年にはイジー・スヴォボダはブルノ-プジェロフ-オストラヴァ間の区間をPPPの形式で資金調達を承認し、推定費用は1790億チェココルナであった。
費用が莫大なので、高速線を予定通りに完成させるには、国家予算から年間さらに200~400億チェココルナを建設に割り当てる必要がある。また、2028年頃に建設中の基幹の数を考えると、この金額はさらに増えると予想される。2022年に、鉄道管理局はおよそ370億チェココルナの投資予算を持っていたが、これは在来線で計画されているプロジェクトの資金を賄うのに十分ではなく、いくつかの建設プロジェクトの実施されるに至った。プラハからベロウンまでのベロウントンネル、ブルノ、オストラヴァ、チェスカー・トジェボヴァーの鉄道ジャンクションの近代化、電力供給の転換などのいくつかの重要建設計画が準備中である。
VRTの準備費用は2022年までに年間数億チェココルナに上り、2023年には12億5000万tyekokoが支出される予定である。路線の準備計画の総額は40億チェココルナ以上と見積もられた。
現在[編集]
インフラ[編集]
チェコの現在の線路の最高速度は200km/hである。2016年現在、チェコには最高速度160km/hの線路は合計 389kmある。しかし、プラハ=チェスケー・ブジェヨヴィツェ線のスドミェジツェ・ウ・ターボラ - ヴォティツェ間及びドゥビー・ウ・ターボラ - ソビェスラフ間は既に200km/hの運行に対応しており、2025年8月31日よりETCSシステムが導入され、振り子式車両で200km/h、普通の車両で185km/hでの運行が可能となっている。そして将来的に、ブジェツラフ-シャクヴィツェ間とホツェニ-パルドゥヴィツェ間は200km/hに引き上げられる予定である。
車両[編集]
特にチェコ鉄道はすでに現在のインフラが許容する速度よりも高い鉄道車両の運行をしており、これによって高速線での運行が可能となる。主な例はペンドリーノ列車であるČD680系電車で、この車両は設計上は230km/hで運行可能なものの、チェコ鉄道は2003年から200km/hでの認可を受けて運行している。また、2014年からレギオジェットが運行している同様の速度で走行可能なシーメンスES64U4形電気機関車も最高速度200km/hに制限して運行している。また、チェコ鉄道が発注した200km/hで走行可能なものはシュコダのČD380形電気機関車やインタージェット編成、シーメンス・ヴェクトロン機関車、コンフォートジェット車両編成も230km/hで運行可能である。新たに入札された路線向けの車両は、この速度が最低速度となる高速線の一部を走行することになっており、時速200km/hで設計されるヴィソチナ州を横断する路線の入札は、2023年にレギオジェットがポーランドのペサ・ビドゴシュチュ車両社製の新型車両の導入を提案し落札した。