スペインにおける軌間可変
本項ではスペインにおける軌間可変について解説する。ただし、以下では車両に取り付けられるものを車軸変換装置、レール上にあるものを変換装置と呼ぶ。
概要[編集]
ポルトガルを含むイベリア半島では政治的理由、それから半島の地理的理由で軌間1668mm (イベリア軌間)を採用しこの幅で鉄道が発達していった。それが今日に至るまで維持されてきた。それに対して、他のヨーロッパ諸国では軌間1435mm (標準軌)で鉄道網が発達していた。そこで、スペイン-フランス国境、そして1988年以降のフランスの高速鉄道網の接続のために新設された高速線と従来の在来線の接続点で異なる軌間の路線網が接続するようになった。そこで軌間可変が用いられている。また、スペインの鉄道網は将来的に標準軌に統一されることが期待されている。
歴史[編集]
スペイン-フランス間で鉄道関係が始まって以来、国境では乗り換え方式が採用されてきた。すなわち、各軌間の列車を同じホーム上で接続させ、乗客は乗り換える必要があった。
最初の軌間可変方式は台車交換が採用された。この方式は時間がかかったが、乗客にとっては乗り換えをせずに済んだので快適だった。この台車交換はアンダイエ駅で採用された。
タルゴ社の技術者グループは、アンヘル・トランに主導されタルゴ社のための車軸変換方式のアラバカの工場で試験を開始した。1967年10月24日にその試験場を始めて列車が通過した。最初の車軸変換車両は1968年11月12日にマドリードとパリの間を13時間かけて試験走行した。そのためにイルン駅に車軸変換装置が設置されたが、試験終了後、撤去・解体された。
最初の旅客用車軸変換装置はタルゴ社によって開発され、フランスのセルベール駅に設置された。車軸変換を備えたタルゴ社の旅客車両は1969年に運行を開始しスペイン-フランス間だけでなく、スイスやイタリアまで直通した。
1988年にその他ヨーロッパ諸国との相互運用性を確保するために、スペインは新路線を1435mmで建設することを決定した。これいにょり、アンダルシアへの新鉄道路線接続計画の変更せざるを得なくなり、1992年にマドリード=セビリア高速線として開業した。これはスペインにおける初の長距離用の標準軌路線となった。
新軌間の採用により、それまで存在したイベリア軌間との接点が生じた。新路線を利用しつつ旧路線にも乗り入れられる運行形態を確立する必要性から、国内でも軌間可変が必要となった。国内における軌間可変は1992年5月31日から運行開始されたマドリード-マラガ間のタルゴ200列車で使われ、コルドバ駅に変換装置が設置された。
包括的な標準軌鉄道網の拡大が続いたため、全国規模で軌間可変が普及した。また、路線の建設・延伸に伴って、コルドバ、レリダ、ローダ・デ・バラなど一部の駅では変換装置が廃止された。
軌間可変システム[編集]
現在、スペインでは、それぞれ異なる2つの会社によって製造された、互換性のない2つの軌間可変システムが採用されている。
- タルゴシステム
- タルゴ社の特許、タルゴ列車で使用されている。1969年に初めて採用された。
- ブラーバシステム
- CAF社の特許、難しく言えば、自走式軌間可変走行台車。1999年から運用されている。
互換性がないとは言え、この問題を解決するために、単一システムまたは、両方のシステムで使用が可能な相互変換装置がある。これは油圧ジャッキを用いて一方または他方のメーカー用のプラットフォームに変更が可能となっている。これはアディフとティフサが共同開発した。最初の相互変換装置が設置されたのはオルメド=メディナ・デル・カンポ試験線区間のリオ・アダハ駅に設置された。その後、サラゴサ-デリシアス駅、プラセンシア・デ・ハロン駅、ローダ・デ・バラ駅、アンテケラ駅などに相互変換装置が設置された。
初期の車軸変換では、機関車を切り離し、客車のみが通過し、新軌間側で新しい機関車に付け替えるという、牽引機関車は軌間可変しない方式を取っていた。そこで、2001年以降、牽引機関車にも車軸変換装置を装備し、列車は停車することなく軌間可変を行うことができるようになった。ただし、変換装置には機関車も通れるように既存のものには電化する必要があった。
軌間可変の普及に伴い、インフラ会社のアディフは軌間可変の構造と取扱において、よりシンプルで経済的な技術を開発した。新しい軌間可変装置は、牽引式と自走式の両方の車両に対応しており、すべてのシステム間で一貫的に連携するため、列車は停車することなく通過できる。また、標準軌新線区間の開設に合わせて設置場所を変更できるよう、可搬式にすることも目標としている。
変換装置の種類[編集]
- メーカー固定型
- CAF、タルゴ、トランスフェサのシステムのいずれかを搭載した車両にしか対応していないもの。
- 相互変換型
- CAF及びタルゴの双方に対応している。
- TCRS1型
- CAF用とタルゴ用の双方の垂直プラットフォームで構成され、各タイプの列車に対応するためにそれぞれ折り畳まれる。
- TCRS2型
- CAF用とタルゴ用の双方の水平プラットフォームで構成され、各タイプの列車の通過に合わせてそれぞれ移動する。
- TCRS3型
- CAFとタルゴの双方に対応する単一プラットフォーム。
- TCRS4型
- CAF、タルゴ、Rafil (ドイツ)、SUW 2000(ポーランド)の4つのシステムに対応した単一プラットフォーム。混合列車と貨物列車の通過が可能となる。現在運用に向けて試験中である。
- OGI
- 貨物車両を停車したり台車を交換せずとも、軌間可変が可能な方式。現在認可されている。
設置駅 | 対応車種 | 運用開始 | 可変システム | 装置の機種 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
アンダイエ駅 | トランスフェサ | 1950年 | 台車交換 | トランスフェサ | |
セルベール駅 | トランスフェサ | 1952年 | 台車交換 | トランスフェサ | |
サン・アンドレス・コンダル駅 | タルゴ | 1988年 | 車軸変換 | タルゴ固定型 | 研修用 |
マハラビケ駅1 | タルゴ | 1993年 | 車軸変換 | タルゴ固定型 | |
マハラビケ駅2 | CAF | 2003年 | 車軸変換 | CAF固定型 | |
プラセンシア・デ・ハロン-グリセン駅 | 相互型 | 2003年 | 車軸変換 | TCRS1型 | |
サラゴサ・デリシアス駅 | 相互型 | 2003年 | 車軸変換 | TCRS1型 | |
マドリード・サンタ・カタリナ駅 | 相互型 | 2003年 | 車軸変換 | TCRS1型 | 研修用 |
アンテケラ-サンタ・アナ駅1 | 相互型 | 2006年 | 車軸変換 | TCRS1型 | |
アンテケラ-サンタ・アナ駅2 | 相互型 | 2006年 | 車軸変換 | TCRS1型 | |
バルデスティリャス駅 | 相互型 | 2007年 | 車軸変換 | TCRS2型 | アルビアス・マドリード-サンタンデールが一時的に使用 |
アルコレア・デ・コルドバ駅 | 相互型 | 2009年 | 車軸変換 | TCRS2型 | |
バレンシア駅 | 相互型 | 2010年 | 車軸変換 | TCRS1型 | 2026年より解体予定 |
アルバセテ駅 | 相互型 | 2010年 | 車軸変換 | TCRS2型 | 通行止め |
カン・トゥニスAV駅 | タルゴ | 2014年 | 車軸変換 | タルゴ固定型 | 研修用 |
カン・トゥニスAV駅 | CAF | 2014年 | 車軸変換 | CAF固定型 | 研修用 |
ビジャムリエル駅 | 相互型 | 2015年 | 車軸変換 | TCRS2型 | バレンシアでの工事のため、通行不可 |
ビレチャ駅 | 相互型 | 2015年 | 車軸変換 | TCRS3型 | |
レオン・クラシフィカシオン駅 | 相互型 | 2015年 | 車軸変換 | TCRS3型 | |
メディナ・デル・カンポAV駅 | CAF | 2015年 | 車軸変換 | CAF固定型 | |
ラ・ボエリャ駅1 | 相互型 | 2020年 | 車軸変換 | TCRS1型 | |
ラ・ボエリャ駅2 | 相互型 | 2020年 | 車軸変換 | TCRS1型 | |
タボアデーラ駅 | 相互型 | 2021年 | 車軸変換 | TCRS2型 | |
ブルゴス駅 | 相互型 | 2022年 | 車軸変換 | TCRS3型 | |
グラナダ駅 | タルゴ | 2024年 | 車軸変換 | タルゴ固定型 | |
フエンカラル駅 | 相互型 | 2025年 | 車軸変換 | TCRS1型 | 研修用 |
また、カンポマネス駅、イルン駅、バレンシアFSL駅に今後設置が予定される。イルンではOGIが設置される予定である。