対称座標法とは、三相交流の電力系統を解析する手法である。線形座標変換の1種である。
電力系統は三相交流で構成されていることが多いが、その解析は複雑であった。
これを簡単にするのが対称座標法であり、。電力系統の定常状態や過渡状態、故障時の計算などで応用される。
この対称座標法は3変数の変数変換であって、(a相,b相,c相)と(零相,正相,逆相)とを相互に変換する。
前者は物理的にも存在して基本的には位相のずれ以外同じ3相であり、後者は概念的な相でこれらの重ね合わせとして系統を解析するものである。
変数変換[編集]
変数変換などを議論するにあたり、値の記し方やよく使う変形について先に述べる。
- 電圧を
、電流を
、インピーダンスを
とする。
- 電圧,電流について、各相すなわち(a相,b相,c相)と(零相,正相,逆相)の値であることを明記するために、下付き添え字を用いる。この添え字は順番に、
とする。(零相→0,正相→1,逆相→2に注意)
- 電圧,電流を(a相,b相,c相)と(零相,正相,逆相)について並べたベクトルを定義し、それぞれ下付き添え字に
を用いて表記する。
- (a相,b相,c相)と(零相,正相,逆相)におけるインピーダンスをそれぞれ、3×3行列で定義して、それぞれ下付き添え字に
を用いて表記する。
- インピーダンス行列の各成分はある電圧成分とある電流成分の関係を記述し、それを下付き添え字で表す。つまり、
の関係を記述するインピーダンスを
とする。(
は
の何れかで
であっても良く、その場合はインピーダンスを行列の対角成分である)
- 虚数単位を
で表記する。(
だと電流と混同するため)
- 位相の進み・遅れを示すにあたって、1の立方根のうちの一つである複素数
を用いる。
- この
をベクトルオペレータと呼び、その偏角は120°であるのでベクトルオペレータをかけることは位相を120°進めることにあたる。(フェーザをかくとわかる)
- ベクトルオペレータは次のような性質を満たしていることがわかる。
(定義より3乗が1),
(2乗が複素共役)。(実際に計算するとわかる)
- ベクトルオペレータを用いて、行列
を定義する。
- 上記の行列の逆行列は
である。
をかけると確かに、
となることがわかる。
- 変換:

- 逆変換:

成分を明示して書くと
- 変換

- 逆変換

- 変換:

- 逆変換:

成分を明示して書くと
- 変換

- 逆変換

インピーダンス[編集]
結論からの示すと
- 変換:

- 逆変換:

成分を明示して書くと
- 変換

- 逆変換

以下は導出である。
abc相でのオームの法則より

なので、これに電圧と電流の逆変換(
)を代入して

両辺に左から
をかけて

これと正逆零相でのオームの法則

を比べて
- 変換:

これの両辺に左から
を、右から
をかけて
- 逆変換:

負荷が平衡のときのインピーダンス[編集]
負荷が平衡であるときのインピーダンス行列はその対称性(平衡であること)より
かつ
なので
、
と置いて

これをインピーダンスの変換(
)に代入して整理すると
- 変換

となって、正逆零相においては各相は相互インピーダンスを持たず、独立して解析できる。
またこのことより、行列
は負荷が平衡であるときのインピーダンス行列を対角化する行列であることがわかる。
以下では、このような対角化を与える行列が実際に
であるかについて確認する。
関連項目[編集]