空気の底
『空気の底』(くうきのそこ)は、手塚治虫による短編漫画シリーズの名前。
概要[編集]
『プレイコミック』(秋田書店)に1968年から1970年にかけて14作品が掲載された。
手塚治虫は、人間のダークサイドを描いた作品も多く「黒手塚」とも称されているが、本シリーズはそういった黒手塚漫画ほどは暗くない[1]。本作の執筆当時、手塚は虫プロの経営、社長業が巧くっていないなどさまざまな事情が重なって、精神的にまいっていた時期でもある[1]。この時期の長期連載である『ダスト18』や『アラバスター』などはとても暗い作品となっている[1]。本シリーズは短編漫画であり、一気に描きあげることで、「黒手塚」よりも「ストーリテラー」としての手塚治虫が前に出ているのではないか飯田耕一郎は推測している[1]。また掲載誌『プレイコミック』が大人向けの娯楽雑誌というであったことから、作品づくりにもあまり制約が無く、物語づくりを楽しんでおられたのではないかと飯田は推測している[1]。
漫画は短編、長編を問わず、個々のエピソードの連鎖からできているという構造を持っている。このため、個々のエピソードの面白さが漫画の面白さのキモとも言える[1]。手塚は、この個々のエピソードの作り方が天才的と言え、発想の組み合わせ、エピソードの展開、描画する視点も俯瞰で見たり、一瞬でクローズアップしたりと自由自在に作っており、こういったものを駆使して、毎回いろんな世界の人間模様をたった16ページにまとめ上げている[1]。手塚自身が『手塚治虫漫画全集』(講談社)のあとがきで語っているように、本シリーズのどの作品もが長編になりうる素材が詰め込まれており、作品内容は濃密である[1]。
「人間が社会の不条理に翻弄されて、愚かな行為をしてしまう」という本シリーズの物語は、執筆から50年を経た日本社会においても、例えば新型コロナへの恐怖から身勝手な行動をしてしまう人びとの姿に通ずるものがある[1]。
シリーズ各話[編集]
- 手塚治虫 『空気の底』 大都社、1985年。
- 手塚治虫 『空気の底』264、講談社〈手塚治虫漫画全集〉、1982年。
- 手塚治虫 『空気の底』上、朝日ソノラマ、1971年。
- 手塚治虫 『空気の底』下、朝日ソノラマ、1971年。
| No. | タイトル | プレイコミック 掲載号 |
大都社版 | 漫画全集版 | 朝日ソノラマ版 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ジョーを訪ねた男 | 1968年9月25日号 | 1 | 1 | 上1 |
| 2 | 夜の声 | 1968年10月25日号 | 2 | 5 | 上2 |
| 3 | 野郎と断崖 | 1968年11月25日号 | 3 | 2 | 上3 |
| 4 | グランドメサの決闘 | 1969年3月10日号 | 3 | ||
| 5 | うろこが崎 | 1969年6月10日号 | 4 | 4 | 上4 |
| 6 | 暗い窓の女 | 1969年7月10日号 | 5 | 10 | 上5 |
| 7 | そこに穴があった | 1969年8月10日号 | 6 | ||
| 8 | わが谷は未知なりき | 1969年9月10日号 | 6 | 9 | 上6 |
| 9 | 猫の血 | 1969年10月10日号 | 10 | 8 | 上10 |
| 10 | 電話 | 1969年11月10日号 | 13 | 12 | 上7 |
| 11 | カメレオン | 1969年12月13日号 | 7 | ||
| 12 | カタストロフ・イン・ザ・ダーク | 1970年2月14日号 | 11 | 下5 | |
| 13 | ロバンナよ | 1970年3月14日号 | 14 | 13 | 下8 |
| 14 | ふたりは空気の底に | 1970年4月11日号 | 15 | 14 | 下9 |
| 嚢(ふくろ) | 7 | 上8 | |||
| 処刑は3時に終わった | 1968年6月号 | 8 | 下1 | ||
| バイパスの夜 | 9 | 上9 | |||
| 蛸の足 | 11 | 下6 | |||
| 聖女懐妊 | 1970年1月10日号 | 12 | 下3 | ||
| 一族参上 | 下2 | ||||
| 現地調査 | 下4 | ||||
| ながい窖 | 下7 |
オリジナル版[編集]
2020年2月に立東舎より『空気の底 オリジナル版』が発売されている[2]。本シリーズ14作に加え、「おそすぎるアイツ」、「処刑は3時におわった」、「聖女懐妊」、「嚢」や1コマ漫画が収録されている。
これまでの単行本ではカットされていた雑誌掲載時のタイトルページも収録されている[2]。
例えば、「野郎と断崖」や「グランドメサの決闘」などは、最終ページにどんでん返しがあるのだが、従来のタイトルページがカットされた単行本ではラストシーンが見開きで左ページに見えてしまっているため、どんでん返しに効果が薄れてしまっている[2]。
「ジョーを訪ねた男」では、冒頭の導入部のコマのなかにタイトルが描き込まれていたが、これまでの単行本ではコマを切り貼りして消されていた[2]。
脚注[編集]
外部リンク[編集]
- 空気の底 シリーズ - 手塚治虫公式サイト