ながい窖
「ながい窖」(ながいあな)は手塚治虫の短編漫画作品。
『サンデー毎日増刊号』(毎日新聞社)の1970年11月6日号に掲載された。1971年にサンミリオンコミックス(朝日ソノラマ)から刊行された『空気の底』下巻が、唯一本作を収録している単行本となる。なお、この朝日ソノラマ版『空気の底』は1978年に改訂されており改訂版からは掲載が削除されている。いわゆる「封印作品」の1つである。
あらすじ[編集]
第二次世界大戦が終戦を迎えて25年が経った日本。
長浜軽金属の専務取締役・森山 尚平は、社長から次期社長にとも声をかけられている。部下たちにも慕われ、一女一男と子供にも恵まれた。森山は元々は朝鮮半島の出身で、「趙」姓であった。第二次世界大戦中は岐阜県で日本兵に暴行を受けながら地下壕を掘らされており、今でも朝鮮料理や焼肉などの言葉を聞くだけでも当時の記憶がフラッシュバックし、気を失うのだった。
ある夜、地下壕を掘りで共に辛酸を舐めた金 文鎮(現在は日本でトルコ風呂を経営)と再会。不法入国で3回強制出国になり、今また4回目で大村収容所(長崎県大村市)にいたところを脱走してきた除 英進を匿ってくれるよう頼まれる。金は「南」の人間であり、「北」の除を手助けするのは具合が悪いというのもあった。
森山は明確な承諾の返事をしなかったが、後日、除は森山の自宅へ押しかけてきた。除は日本語のヒアリングはできるが、発話はカタコトであった。森山のほうは朝鮮語はまったくできない。25年前、除を満州に残して日本へ渡ったオモニ(母親)・日本名山本 芳子を探すために除は日本へ不法入国してきているのだった。
1か月ほどが経ち、森山の娘・亜沙子'(大学生)は除に恋心を抱くようになっていた。亜沙子が石神井の託児園で働くオモニらしき人物を見つけ、除と2人で会いに行ったが、託児園には除を探す刑事がいたため、除は亜沙子を伴って逃走し、交通事故に遭う。
亜沙子の遺体と対面した森山は「友人の娘」と偽った。報道が「大会社専務令嬢が密入国者で脱走犯の男と逃走中に事故死、その令嬢は帰化朝鮮人の娘であった」と書き立てることを恐れてのことだった。これに反発する弟の久は朝鮮人高校へ入ることを宣言し、実行した。
学校の帰りに久は日本人学生にリンチされて生死を彷徨う。病院から連絡を受けた森山は、またしても「知人の息子」と偽ることになる。
相手学生の高校へ行った森山であったが、校長は「(朝鮮人高校の生徒が)殴られるようなきっかけを作ったのだろう」と森山の相手をしない。そのうえで、朝鮮人の肩を持つ森山が朝鮮人であり、そのことを長浜軽金属に電話しようかと脅してくる。森山は「わたしは朝鮮人だ。それがなぜ悪い」と怒りに震えながら校長に告げるのであった。