国際宇宙ステーション

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国際宇宙ステーション(こくさいうちゅうステーション、英語: International Space Station、略称: ISS)は、地球低軌道上にある、アメリカロシア欧州日本カナダの5つの宇宙機関が協力して運用する、人類が居住可能な宇宙ステーションである。1998年に最初のモジュールが打ち上げられて以来、継続的に増築が続けられ、2011年に主要な部分が完成した。宇宙における長期滞在や科学実験、地球観測など、多岐にわたる研究活動が行われている。

概要[編集]

国際宇宙ステーションは、冷戦終結後、旧ソ連ミール計画と、アメリカのスペース・ステーション・フリーダム計画を統合する形で、国際協力のもとで建設が決定された。これは、単一の国家では達成が困難な規模と複雑さを持つプロジェクトであり、宇宙開発における国際協調の象徴ともなっている。

ISSの軌道は、地球の上空約400 km低軌道であり、およそ90分で地球を一周する。このため、1日に16回ほど日の出日没を経験する。ISS内部の気圧組成は地上とほぼ同じに保たれており、宇宙飛行士はTシャツ一枚で活動できる環境が整備されている。

ISSの運用には、各参加国の宇宙機関がそれぞれ独自の責任と役割を担っている。NASAロスコスモスESAJAXACSAが主要なパートナーである。これらの機関は、ISSのモジュール開発、宇宙飛行士の訓練、物資補給、科学実験の実施などを分担している。

歴史[編集]

国際宇宙ステーションの構想は、1980年代にアメリカが提唱した「スペース・ステーション・フリーダム」に端を発する。しかし、その実現には莫大な費用と技術的な課題が伴ったため、国際協力が模索された。1990年代に入り、冷戦の終結に伴い、旧ソ連の宇宙技術と経験を統合する形で、現在のISSの枠組みが形成された。

  • 1998年11月20日 - ロシアが最初のモジュールである「ザーリャ」(機能貨物ブロック、FGB)を打ち上げ、ISSの建設が開始される。
  • 1998年12月4日 - アメリカが2番目のモジュールである「ユニティ」(ノード1)を打ち上げ、ザーリャと結合させる。
  • 2000年7月12日 - ロシアのサービスモジュール「ズヴェズダ」が結合し、ISSに初期の居住機能が備わる。
  • 2000年10月31日 - 最初の常駐クルーであるエクスペディション1がISSに到着し、有人滞在が開始される。
  • 2001年2月7日 - アメリカの「デスティニー」(米国研究棟)が結合し、ISSの科学実験能力が向上する。
  • 2007年9月10日 - 日本の実験棟「きぼう」の最初の部分である船内保管室がスペースシャトル「エンデバー」により運ばれる。
  • 2008年3月11日 - 「きぼう」の船内実験室が取り付けられる。
  • 2009年7月15日 - 「きぼう」の船外実験プラットフォームが取り付けられ、「きぼう」が完成する。
  • 2011年5月16日 - アメリカの最後の主要モジュールである「レオナルド」(恒久的多目的モジュール)が結合し、ISSの主要な建設が完了する。

これらのモジュール結合は、主にスペースシャトルプロトンロケットソユーズロケットによって行われた。

構造とモジュール[編集]

国際宇宙ステーションは、複数のモジュールが連結された巨大な構造物である。各モジュールは特定の機能を持つ。

  • ザーリャ(機能貨物ブロック、FGB):ロシアのモジュール。ISSの初期段階における電力供給、推進、姿勢制御、物資貯蔵の機能を持つ。
  • ユニティ(ノード1):アメリカのモジュール。複数のモジュールを接続するためのハブとして機能する。
  • ズヴェズダ(サービスモジュール):ロシアのモジュール。ISSの主要な居住区画であり、生命維持システム、通信、推進、姿勢制御などの重要な機能を担う。
  • デスティニー(米国研究棟):アメリカのモジュール。科学実験のための主要な施設であり、生命科学、物理学、材料科学などの研究が行われる。
  • きぼう(日本実験棟):日本のモジュール。船内実験室、船外実験プラットフォーム、船内保管室などから構成され、独自の科学実験や地球観測を行う。特に船外実験プラットフォームは、宇宙空間に直接機器を暴露して実験を行うことが可能である。
  • コロンバス(欧州実験棟):欧州宇宙機関のモジュール。生命科学、材料科学、流体物理学などの幅広い分野の実験が行われる。
  • ポイスク(ミニ研究モジュール2、MRM2):ロシアのモジュール。ドッキングポート、エアロック、作業スペースとして使用される。
  • ラスヴェット(ミニ研究モジュール1、MRM1):ロシアのモジュール。主に貨物貯蔵、ドッキングポートとして使用される。
  • トランクイリティ(ノード3):アメリカのモジュール。生命維持装置やトイレ、運動器具などが設置されている。
  • キューポラ:欧州宇宙機関のモジュール。地球やドッキングする宇宙船を観測するための7つの窓を持つ展望室。

この他にも、太陽電池パドル、トラス構造、ロボットアーム(カナダアーム2きぼうロボットアームなど)などがISSを構成している。

科学的成果と研究分野[編集]

国際宇宙ステーションは、地球上の実験室では実現できない微小重力環境を長期にわたって提供するため、幅広い科学研究が行われている。

  • 生命科学:宇宙環境が人体に与える影響(骨密度の低下、筋肉の萎縮、視力の変化、免疫系の変化など)の研究が行われている。これにより、将来の有人宇宙探査高齢者の健康維持への応用が期待される。また、微生物植物の宇宙での生育研究も進められている。
  • 物理学流体物理学燃焼科学、材料科学などの研究が行われる。微小重力下では、重力による対流沈降の影響が排除されるため、地球上では観察できない現象を詳細に研究できる。新しい材料の開発や、より効率的な燃焼プロセスの解明に繋がる可能性がある。
  • 地球観測:ISSは地球を周回しているため、様々な気象現象環境変動を観測することができる。災害の監視、気候変動の研究、森林火災の検出などに役立っている。
  • 宇宙科学宇宙放射線の影響に関する研究や、宇宙線の観測などが行われている。宇宙飛行士の安全確保や、宇宙空間での機器の信頼性向上に貢献する。
  • 技術実証:将来の宇宙探査に向けた新しい技術(生命維持システム、ロボット技術、通信技術など)の試験が行われる。

これらの研究成果は、学術論文として発表されるだけでなく、医学工学農業など、様々な分野で応用されている。

運用と補給[編集]

ISSの運用は、ヒューストンジョンソン宇宙センターにあるミッションコントロールセンター(MCC-H)、モスクワロスコスモスコントロールセンター(MCC-M)、つくば市JAXA筑波宇宙センター(TKSC)など、各国の管制センターが連携して行われる。

物資補給は、様々な宇宙船によって行われる。

  • ソユーズ:ロシアの有人宇宙船。主に宇宙飛行士の往還に使用されるが、少量の貨物も輸送できる。
  • プログレス:ロシアの無人貨物宇宙船。物資、燃料、酸素などをISSに補給する。
  • HTV(こうのとり):日本の無人貨物宇宙船。ISSへの大型貨物輸送能力に優れる。
  • ATV:欧州宇宙機関の無人貨物宇宙船(運用終了)。
  • ドラゴンスペースX社が開発したアメリカの有人・無人宇宙船。有人型はクルー輸送、無人型は貨物輸送に使用される。
  • シグナスノースロップ・グラマン社が開発したアメリカの無人貨物宇宙船。

宇宙飛行士の交代は、主にソユーズ宇宙船と、近年ではスペースX社のクルードラゴン宇宙船によって行われている。長期滞在クルーは通常、6ヶ月程度のミッションを行う。

課題と将来[編集]

国際宇宙ステーションは、2020年代後半から2030年代初頭にかけて運用を終了する予定である。その後のISSの役割や、軌道上の施設に関する議論が進められている。

主な課題としては、

  • 老朽化:ISSは長期にわたって運用されており、老朽化によるシステムの故障や部品の交換が必要となっている。
  • 運用コスト:ISSの維持には莫大な費用がかかるため、各国の財政負担が課題となっている。
  • 商業化の推進低軌道における宇宙活動の商業化が進んでおり、民間企業による宇宙ステーションの建設や運用が模索されている。

ISSの運用終了後、軌道を離脱させ大気圏に再突入させる計画が検討されている。一部の参加国は、ISSの技術や経験を活かして、火星への有人探査に向けた新たな宇宙ステーション(例:ルナー・ゲートウェイ)の建設に焦点を移している。また、民間主導の商業宇宙ステーションが、ISSの役割の一部を引き継ぐ可能性も指摘されている。

国際宇宙ステーションは、その建設と運用を通じて、国際協力の重要性、宇宙技術の発展、そして人類の宇宙への飽くなき探求心を象徴する存在として、21世紀初頭の宇宙開発に大きな足跡を残した。

豆知識[編集]

  • 国際宇宙ステーションは、地球上から肉眼で見ることができる最も明るい人工衛星の一つである。夜空に輝く「動く星」として観測されることがある。
  • ISSはサッカー場ほどの大きさがあり、重さは約420トンにも及ぶ。
  • ISSの太陽電池パドルを広げた際の幅は、ボーイング747の翼幅とほぼ同じである。
  • ISSに滞在する宇宙飛行士は、1日に約16回の日の出と日没を経験するため、地球時間に合わせて睡眠サイクルを調整している。
  • ISS内部の空気は、地上と同じように窒素と酸素の混合気体である。
  • ISSには「コロンバス」や「きぼう」といった実験棟の他に、地球を眺めるための「キューポラ」と呼ばれる展望ドームがある。

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