アメリカ海兵隊
アメリカ海兵隊(アメリカかいへいたい、United States Marine Corps、略称: USMC)は、アメリカ合衆国の海兵隊であり、アメリカ合衆国海軍省の下に置かれる軍事組織である。陸海空にわたる広範な任務を遂行する能力を持つ遠征部隊として、水陸両用作戦や緊急展開部隊としての役割を担う。
概要[編集]
アメリカ海兵隊は、アメリカ合衆国の軍隊を構成する6つの軍種(陸軍、海軍、空軍、宇宙軍、沿岸警備隊、海兵隊)の一つである。しかし、他の軍種とは異なり、国防総省の直轄ではなく、アメリカ海軍と同じくアメリカ合衆国海軍省の下に位置付けられている。これは、海兵隊が海軍の遠征任務を支援する部隊として発足した歴史的経緯による。
海兵隊の任務は、アメリカ合衆国憲法に基づき、海陸の作戦において迅速な展開を可能にする遠征即応部隊として、国家の利益を保護し、危機に対応することである。その活動範囲は、戦争時の戦闘任務から、人道支援、災害派遣、大使館警備に至るまで多岐にわたる。
歴史[編集]
アメリカ海兵隊は1775年11月10日、第二次大陸会議によって大陸海兵隊として設立された。これはアメリカ独立戦争において、大陸海軍の艦艇に乗り組み、艦砲射撃や敵艦への斬り込みといった任務を遂行するためであった。独立戦争終結後、一時解体されるが、1798年7月11日に海兵隊法によって再建された。
その後、海兵隊は米英戦争や米墨戦争などの主要な紛争に積極的に参加し、その存在感を示した。特に米墨戦争では、チャプルテペクの戦いでの活躍が「海兵隊讃歌」の歌詞にも歌われている。
第一次世界大戦では西部戦線で、第二次世界大戦では太平洋戦線で重要な役割を果たし、硫黄島の戦いや沖縄戦など、数々の激戦を経験した。これらの戦いを経て、海兵隊は水陸両用作戦の専門部隊としての地位を確立した。
朝鮮戦争やベトナム戦争でも、海兵隊は最前線で戦い、その戦術と練度を向上させた。冷戦終結後も、湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン紛争 (2001年-2021年)など、世界各地の紛争において迅速な展開と高い戦闘能力を発揮している。
組織[編集]
アメリカ海兵隊は、以下の主要な組織で構成されている。
- 海兵隊総司令部(Headquarters Marine Corps, HQMC):バージニア州クアンティコに所在し、海兵隊の指揮統制および管理を行う。
- 海兵隊戦闘開発コマンド(Marine Corps Combat Development Command, MCCDC):教義、組織、訓練、兵器、資材、リーダーシップ、人員、施設の開発を担当。
- 海兵隊部隊コマンド(Marine Forces Command, MARFORCOM):大西洋方面の海兵隊部隊を統括。
- 太平洋海兵隊(Marine Forces Pacific, MARFORPAC):太平洋方面の海兵隊部隊を統括。
これらの組織の下に、以下の主要な部隊が編成されている。
- 海兵隊遠征軍(Marine Expeditionary Force, MEF):海兵隊の主力部隊であり、航空、地上、兵站の各要素を統合した自己完結型の部隊。規模に応じてMEF、MEB、MEUが存在する。
- 海兵隊航空団(Marine Corps Air Wing, MAW):航空支援を担当する部隊。
- 海兵隊師団(Marine Division, MARDIV):地上戦闘を担当する部隊。
- 海兵隊兵站群(Marine Corps Logistics Group, MCLG):兵站支援を担当する部隊。
装備[編集]
アメリカ海兵隊は、独自の装備体系を持つが、多くの点でアメリカ陸軍やアメリカ海軍と共通の装備も使用している。
小火器[編集]
- M4カービン、M16自動小銃:主力小銃
- M27 IAR:分隊支援火器
- M249軽機関銃:分隊支援火器
- M240機関銃:汎用機関銃
- M2重機関銃:重機関銃
- M320 グレネードランチャー
- M9拳銃、M18拳銃
車両[編集]
航空機[編集]
- F-35B ライトニングII:短距離離陸垂直着陸(STOVL)戦闘機
- AV-8B ハリアー II:STOVL攻撃機
- F/A-18 ホーネット:多用途戦闘攻撃機
- MV-22 オスプレイ:ティルトローター機
- CH-53E スーパースタリオン:大型輸送ヘリコプター
- UH-1Y ヴェノム:汎用ヘリコプター
- AH-1Z ヴァイパー:攻撃ヘリコプター
伝統と文化[編集]
アメリカ海兵隊は、その長い歴史と多くの戦いを通じて、独自の強固な伝統と文化を築き上げてきた。
- モットー:Semper Fidelis(ラテン語で「常に忠実であれ」の意)は、海兵隊員の忠誠心を象徴する。
- 海兵隊讃歌:海兵隊の公式歌であり、チャプルテペクの戦いや世界のあらゆる場所での活躍が歌われている。
- 誕生日の祝典:毎年11月10日に、海兵隊の創設を祝う公式な式典が世界中の海兵隊施設で行われる。
- 「海兵隊員」というアイデンティティ:一度海兵隊員になった者は、退役後も「元海兵隊員」ではなく「海兵隊員」として見なされるという強い帰属意識がある。
- ブルドッグ:海兵隊のマスコットであり、その勇敢さと不屈の精神を象徴する。
階級[編集]
アメリカ海兵隊の階級は、アメリカ陸軍やアメリカ空軍と共通の呼称が多いが、一部で独自の呼称を用いる。
- 士官(Commissioned Officer)
- 将官(General Officers):大将、中将、少将、准将
- 佐官(Field Grade Officers):大佐、中佐、少佐
- 尉官(Company Grade Officers):大尉、中尉、少尉
- 准士官(Warrant Officer)
- 下士官(Non-Commissioned Officer, NCO)
- 曹長、一等軍曹、二等軍曹、伍長
- 兵(Enlisted)
- 上等兵、一等兵、二等兵、新兵
豆知識[編集]
- アメリカ海兵隊の「ドレスブルー」と呼ばれる礼服は、世界で最も美しい軍服の一つと評されることがある。
- 海兵隊の公式マスコットである「チェスティ・プルアー」という名のブルドッグは、海兵隊で最も多くの勲章を受けたチェスティ・プルアー大佐にちなんで名付けられている。
- アメリカ合衆国大統領が搭乗するヘリコプター「マリーンワン」は、海兵隊のパイロットによって操縦されている。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- Department of the Navy. Marine Corps Publication 1: The Marine Corps Manual.
- George C. Herring. America's Longest War: The United States and Vietnam, 1950-1975. Wiley-Blackwell, 2001.
- Victor H. Krulak. First to Fight: An Inside View of the U.S. Marine Corps. Naval Institute Press, 1999.