アメリカ宇宙軍

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アメリカ宇宙軍(アメリカうちゅうぐん、英語: United States Space Force, USSF)は、アメリカ合衆国軍隊であるアメリカ合衆国軍を構成する6つの軍種の1つであり、宇宙空間における軍事作戦を専門とする部隊である。2019年12月20日に、アメリカ空軍から独立した形で創設された。その主要な任務は、アメリカ合衆国の宇宙における利益を保護し、同盟国を支援し、宇宙空間における自由な行動を保証することにある。

概要[編集]

アメリカ宇宙軍は、アメリカ合衆国法典第10編に規定されるアメリカ合衆国国防総省の管轄下にある軍種であり、陸海空軍、海兵隊沿岸警備隊と並ぶ、アメリカ合衆国軍の独立した構成要素である。その設立は、宇宙空間国家安全保障にとって不可欠な領域となり、宇宙空間における脅威が増大しているという認識に基づいている。

宇宙軍の主な役割は、アメリカの衛星を保護し、敵対勢力の宇宙アセットを妨害または無力化し、GPS(全地球測位システム)、衛星通信ミサイル防衛システムなど、軍事および民生の両方で不可欠な宇宙ベースの能力を運用・維持することである。宇宙軍は、これらの能力を開発、取得、運用し、統合軍の作戦を支援するために必要な宇宙インフラストンスを確保する責任を負う。

歴史[編集]

設立以前[編集]

アメリカにおける宇宙の軍事利用の歴史は、第二次世界大戦後の冷戦期にまで遡る。ソビエト連邦によるスプートニク1号の打ち上げは、アメリカに大きな衝撃を与え、宇宙開発競争を激化させた。この時期、アメリカの宇宙関連活動は、主にアメリカ空軍アメリカ陸軍によって行われていた。

1980年代には、レーガン政権下で戦略防衛構想(SDI、「スター・ウォーズ計画」)が提唱され、宇宙空間におけるミサイル防衛の可能性が模索された。この構想は実現しなかったものの、宇宙が将来の戦争における重要な領域となる可能性を示唆した。

1990年代以降、湾岸戦争イラク戦争といった現代の紛争において、GPS、衛星通信、偵察衛星といった宇宙アセットが作戦遂行不可欠であることが明らかになった。アメリカ空軍は、空軍宇宙コマンド(AFSPC)を設置し、宇宙作戦の専門部隊としてその役割を拡大させていった。

創設への動き[編集]

21世紀に入り、中国ロシアといった国々が対衛星兵器の開発を進めるなど、宇宙空間における脅威が顕在化し始めた。これにより、アメリカの宇宙アセットの脆弱性が指摘され、既存の組織体制では対応が困難であるとの認識が広がった。

2017年には、ドナルド・トランプ大統領が、宇宙軍の創設を提唱した。当初は、宇宙軍をアメリカ空軍から完全に独立した軍種とすることに反対意見も多かったが、国家安全保障上の必要性が強調され、創設への動きが加速した。

議会での議論を経て、2019年12月20日2020年国防権限法(NDAA 2020)が成立し、アメリカ宇宙軍が正式に設立された。これにより、宇宙軍はアメリカ合衆国海兵隊アメリカ合衆国海軍の傘下にあるのと同様に、アメリカ合衆国空軍省の傘下に置かれることになったが、独立した軍種として国防長官に直接報告する体制が確立された。

創設後[編集]

宇宙軍の創設後、空軍宇宙コマンドの人員と資産の大部分が宇宙軍に移管された。宇宙軍は、独自の制服、階級、紋章を制定し、「ガーディアン」(Guardian)という独自の呼称を隊員に与えた。

創設以来、宇宙軍は急速にその能力を向上させている。2020年には、初代宇宙作戦部長としてジョン・W・レイモンド宇宙軍大将が就任し、宇宙軍の組織体制の構築と運用能力の強化を進めた。2022年には、チャンス・サルツマン宇宙軍大将が2代目の宇宙作戦部長に就任し、宇宙軍の近代化戦略的優位性の維持に注力している。

宇宙軍は、国防総省の他の軍種や情報機関NASAなどの民間機関、そして同盟国との連携を深めながら、宇宙空間における多角的な課題に対応している。

組織と構成[編集]

アメリカ宇宙軍は、宇宙作戦部長(Chief of Space Operations, CSO)がそのトップを務める。宇宙作戦部長は、統合参謀本部のメンバーであり、国防長官大統領の軍事顧問として機能する。

宇宙軍の組織は、急速に進化しており、その構造は従来の軍種とは異なる特徴を持つ。これは、宇宙領域の特殊性と、技術革新への迅速な対応が求められるためである。

司令部[編集]

主要な施設[編集]

人員[編集]

宇宙軍は、「ガーディアン」と呼ばれる専門性の高い人材で構成されている。これらのガーディアンは、宇宙運用、宇宙インテリジェンス、サイバー空間運用、システム取得、研究開発といった多岐にわたる分野で活躍する。宇宙軍は、高度な技術力専門知識を持つ人材を育成し、確保することに重点を置いている。

任務と役割[編集]

アメリカ宇宙軍の任務は、宇宙空間におけるアメリカ合衆国安全保障利益を確保することである。具体的には、以下の役割を担う。

  • 宇宙優勢の維持:敵対勢力による宇宙へのアクセス、自由な行動、利用を拒否・制限する能力を開発・維持し、同時に自国の宇宙アセットが脅威に晒されないようにする。
  • 宇宙作戦の遂行偵察衛星通信衛星測位衛星(GPS)など、あらゆる宇宙ベースのシステムを運用・管理し、陸海空の作戦を支援する。これには、宇宙状況認識(Space Situational Awareness, SSA)活動も含まれる。
  • 宇宙アセットの保護サイバー攻撃対衛星兵器(ASAT)、宇宙デブリといった様々な脅威から、アメリカの衛星や宇宙インフラを防御する。
  • 宇宙能力の開発と取得:最先端の宇宙技術の研究開発を推進し、次世代の宇宙システムを取得する。これには、新型衛星打ち上げシステム地上設備などが含まれる。
  • 統合軍への支援アメリカ統合軍の作戦を支援するため、宇宙ベースの情報、通信、測位、監視能力を提供する。
  • 同盟国との連携国際協力を推進し、同盟国との宇宙における情報共有、訓練、作戦連携を強化する。

装備と能力[編集]

アメリカ宇宙軍は、多種多様な宇宙アセットと地上インフラを運用している。

衛星システム[編集]

地上システム[編集]

サイバー能力[編集]

宇宙軍は、宇宙システムに対するサイバー攻撃の脅威に対抗するため、高度なサイバー防御能力を保有している。また、必要に応じて、敵対勢力の宇宙関連システムに対するサイバー作戦を遂行する能力も有する。

将来の展望[編集]

アメリカ宇宙軍は、急速に変化する宇宙領域に対応するため、継続的な改革技術革新を進めている。

豆知識[編集]

  • アメリカ宇宙軍のモットーである「Semper Supra」は、ラテン語で「常に上へ」という意味。これは、宇宙の無限の可能性と、宇宙優勢を追求する宇宙軍の使命を表している。
  • 宇宙軍の隊員は「ガーディアン」(Guardian)と呼ばれる。これは、宇宙領域を「守護する者」という意味が込められている。
  • 宇宙軍の制服は、アメリカ空軍の制服と似ているが、ダークブルー階級章ネームタグなど、いくつかの独自の要素がある。
  • 宇宙軍のシンボルマークには、北極星デルタ記号オービット(軌道)がデザインされている。これらは、宇宙の重要性変化と革新、そして地球を守るという宇宙軍の役割を象徴している。
  • 宇宙軍の歌「Semper Supra」は、2022年に発表された。この歌は、宇宙軍の精神決意を表現している。

関連項目[編集]