宇宙デブリ

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宇宙デブリ[編集]

宇宙デブリ(うちゅうデブリ、英語: Space Debris)とは、地球周回軌道上を周回している、人工衛星ロケット残骸、運用を終了した人工衛星本体、あるいはそれらの破片など、人間が宇宙空間に打ち上げ、現在では使用されなくなった人工物の総称である。宇宙ゴミ(うちゅうゴミ、英語: Space Junk)とも呼ばれる。その大きさはミクロン単位の微小なものから、数トンにも及ぶ大型の人工衛星の残骸まで多岐にわたる。これらのデブリは、秒速数キロメートルという高速地球を周回しており、現役で運用されている人工衛星宇宙船、あるいは国際宇宙ステーションISS)などに衝突する危険性があるため、国際的な問題となっている。

発生源[編集]

宇宙デブリの発生源は多岐にわたるが、主なものとして以下の点が挙げられる。

  • 運用を終了した人工衛星:設計寿命を終えたり、機能が停止したりした人工衛星が、そのまま軌道上に放置されることでデブリとなる。特に静止軌道上の衛星は、そのまま放置される傾向がある。
  • ロケットの上段部やペイロードアダプター人工衛星宇宙空間へ送り届けるロケットの上段部や、衛星を保護するフェアリング、衛星とロケットを接続するペイロードアダプターなどが、切り離された後にデブリとなる。
  • 爆発・衝突による破片:ロケットの燃料タンクの爆発や、衛星同士の衝突、または衛星とデブリとの衝突などによって、数多くの破片が生成される。特に、2007年の中国による人工衛星破壊実験ASAT実験)や、2009年のイリジウムとコスモス衛星の衝突事故は、大量のデブリを発生させ、ケスラーシンドロームの懸念を増大させた。
  • 宇宙飛行士が落とした道具など宇宙遊泳中に宇宙飛行士が誤って工具などを落とすといった偶発的な事故も、微量ながらデブリの発生源となることがある。

特徴[編集]

宇宙デブリの主な特徴は以下の通りである。

  • 高速移動:宇宙デブリは、秒速7〜8キロメートルという極超音速地球を周回している。これは音速の約20倍にも相当し、たとえ小さな破片であっても、現役の人工衛星宇宙船に衝突すれば甚大な被害をもたらす。
  • 軌道上の分散:宇宙デブリは特定の場所に集まっているわけではなく、地球周回軌道の様々な高度に分散して存在する。特に、低地球軌道LEO)には多くのデブリが集中している。
  • 観測の困難さ直径センチメートル以下の小さなデブリは、地上のレーダー望遠鏡では観測が極めて困難である。そのため、その正確な数や分布を把握することは難しい。

影響[編集]

宇宙デブリの増加は、以下のような深刻な影響をもたらす可能性がある。

  • 人工衛星や宇宙船への衝突リスク:現在運用されている人工衛星宇宙船国際宇宙ステーションISS)などへの衝突リスクが増大する。衝突が発生すれば、機能の停止や破壊、最悪の場合には乗員の生命に関わる事態も起こりうる。
  • 新たなデブリの生成:デブリと衛星の衝突は、さらに多くの新たなデブリを生成する。この連鎖反応により、宇宙空間が利用困難になる可能性が指摘されており、これを「ケスラーシンドローム」と呼ぶ。
  • 宇宙活動の阻害:将来的な宇宙開発宇宙利用を困難にする可能性がある。安全な軌道の確保が難しくなったり、軌道変更などの回避行動が必要になったりすることで、コストが増大したり、ミッションの計画に制約が生じたりする。
  • 地球への落下:ごくまれに、大型のデブリが大気圏に再突入し、燃え尽きずに地表に落下するケースがある。これにより、人や財産に被害が及ぶ可能性もゼロではない。

対策[編集]

宇宙デブリ問題への対策は、国際社会全体の喫緊の課題として認識されており、様々な取り組みが進められている。

  • デブリの発生抑制
    • 設計段階での対策人工衛星ロケットの設計段階で、運用終了後にデブリとならないような工夫を盛り込む。例えば、燃料を使い切って爆発のリスクを低減したり、衛星を運用終了後に意図的に大気圏に再突入させて燃え尽きさせたりする「デブリ化防止対策」が挙げられる。
    • 宇宙活動に関する国際的なガイドラインの遵守国連の「宇宙空間の平和的利用委員会」(COPUOS)などで採択された「宇宙デブリ低減ガイドライン」など、デブリの発生を抑制するための国際的なガイドラインを各国が遵守することが求められている。
  • デブリの監視・追跡
    • 地上からの観測:地上のレーダー光学望遠鏡を用いて、デブリの軌道を観測し、その位置情報を把握する。これにより、現役の人工衛星との衝突予測を行い、回避行動を計画する。
    • 宇宙からの観測:宇宙空間に観測衛星を打ち上げ、より正確にデブリを観測する研究も進められている。
  • デブリの除去
    • 受動的除去:デブリの軌道を制御し、大気圏に再突入させて燃え尽きさせる方法。例えば、デブリに抵抗を増やす装置を取り付けて、自然に落下する速度を早める方法などがある。
    • 能動的除去ロボットアームでデブリを捕獲したり、レーザーでデブリを破壊したり、あるいは宇宙網でデブリを捕らえたりするなど、様々な技術開発が国際的に進められている。ただし、能動的除去には技術的な困難さや多大なコスト、そして国際法上の課題も存在する。
    • 除去技術の開発欧州宇宙機関ESA)の「ClearSpace-1」ミッションや、日本宇宙航空研究開発機構JAXA)による「ELSA-d」などの実証実験が計画・実施されており、将来的なデブリ除去技術の確立が期待されている。

国際的な取り組み[編集]

宇宙デブリ問題は、特定の国や地域だけでは解決できない地球規模の課題であるため、国際協力が不可欠である。国連COPUOS宇宙機関間デブリ調整委員会IADC)、国際電気通信連合ITU)など、様々な国際機関が宇宙デブリに関する議論やガイドラインの策定を行っている。

特に、IADCは、主要な宇宙機関が集まり、デブリの監視・追跡情報の共有や、デブリ低減ガイドラインの策定など、具体的な国際協力の推進役を担っている。

豆知識[編集]

  • 宇宙デブリの総質量は、推定で1万トン以上にも及ぶと言われている。
  • 地球を周回する数ミリメートル以下の微小なデブリは、人工衛星の表面に小さなクレーターのような損傷を与えることがある。これを「微小デブリ衝突」と呼び、宇宙服や宇宙船の表面の点検で確認されることがある。
  • ロシアの人工衛星「コスモス2251号」とアメリカのイリジウム衛星「イリジウム33号」が2009年に衝突した事故は、史上初の本格的な人工衛星同士の衝突として知られ、大量のデブリを発生させた。
  • 宇宙デブリの除去技術には、静電牽引磁気牽引といったユニークなアイデアも研究されている。

関連項目[編集]