伊藤正義

伊藤 正義（いとう まさよし、1930年 - 2009年12月2日）は、能楽研究者。大阪市立大学、神戸女子大学名誉教授。

能の専門家。「六麓会」「神戸古典研究会」などで多くの若手研究者を育成した。また大阪能楽鑑賞会の企画や廃曲の復活上演などに協力した。中世文学研究の泰斗としても知られる。論文「中世日本紀の輪郭――太平記における卜部兼員説をめぐって」（『文学』第40巻10号、1972年）で『太平記』や『平家物語』、『古今集』『伊勢物語』の中世の注釈書や歌学書などに「日本紀」からの引用として出てくる日本神話の多くが『記紀』からの引用ではなく、平安期の日本紀講の記録や中世神道書に由来することを指摘した。このような『記紀』とは違う中世の神話を「中世日本紀」と名付けた。1980年代に入ってから阿部泰郎、伊藤聡、小川豊生、小峯和明、斎藤英喜、山本ひろ子らによって「中世日本紀」に関する本格的な研究が開始された。伊藤の「中世日本紀」論は中世文学をはじめ思想史、日本史、美術史、神道史などの研究者が中世神道を研究する契機となり、黒田俊雄の顕密体制論・権門体制論や網野善彦のアジール論とともに日本中世の研究に大きな影響を与えた。

経歴

神戸市生まれ。1954年京都大学文学部国文学科（国語国文学専攻）卒業。1960年同大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。1960年大阪市立大学文学部講師（非常勤）。1961年松蔭短期大学助教授。1966年松蔭女子学院大学助教授。1970年関西大学文学部助教授、1971年教授。1973年大阪市立大学文学部助教授、1976年教授。1992年神戸女子大学文学部教授。2004年退職。

日本芸術文化振興会専門委員、山片蟠桃賞審査委員、国文学研究資料館運営協議員、文化財保護審議会専門委員も務めた。1988年第10回観世寿夫記念法政大学能楽賞受賞。2003年兵庫県文化賞受賞。

2009年12月2日、肺癌のため死去、享年79歳。

著書

単著

• 『金春禅竹の研究』（赤尾照文堂、1970年）
• 『謡曲雑記』（和泉書院［和泉選書］、1989年）
  • 『謡曲入門』（講談社［講談社学術文庫］、2011年）
• 『伊藤正義中世文華論集（全6巻）』（片桐洋一、信多純一、天野文雄監修、和泉書院、2012-2022年）
  • 「第1巻 謡と能の世界（上）」（三木雅博、大谷節子編、2012年）
  • 「第2巻 謡と能の世界（下）」（関屋俊彦、稲田秀雄編、2013年）
  • 「第3巻 金春禅竹の研究」（樹下文隆、落合博志編、2016年）
  • 「第4巻 文学史と思想史の間」（阿部泰郎、寺島修一編、2022年）
  • 「第5巻 中世文華とその資料（上）」（黒田彰、西田正宏編、2020年）
  • 「第6巻 中世文華とその資料（下）」（小林健二、岡田三津子編、2021年）

編著

• 『鑑賞日本古典文学 第24巻 中世評論集――歌論・連歌論・能楽論』（福田秀一、島津忠夫共編、角川書店、1976年）
• 『風姿花伝――影印三種』（世阿弥［著］、表章共編、和泉書院［和泉書院影印叢刊］、1978年）
• 『日本庶民文化史料集成 第3巻 能』（表章、中村保雄共同責任編集、三一書房、1978年）
• 『和漢朗詠集古注釈集成（第1巻・第2巻上・第2巻下・第3巻）』（黒田彰、三木雅博共編著、大学堂書店、1989-1997年）
• 『版本番外謡曲集（1 三百番本・2 四百番本・3 五百番本・付解題 曲名索引）』（編、臨川書店、1990年）
• 『福王流古伝書集』（編著、和泉書院［研究叢書］、1993年）
• 『花傳――諸本対観』（編、和泉書院、2008年）

校注

• 『金春古傳書集成』（表章共校注、わんや書店、1969年）
• 『新潮日本古典集成 （第57・73・79回） 謡曲集（上・中・下）』（新潮社、1983-1988年、新装版2015年）

外部リンク

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