じゃりン子チエ

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じゃりン子チエ』は、はるき悦巳による漫画作品。

概要[編集]

大阪下町・西萩(釜ヶ崎がモデルであるとされる[1])を舞台に、家業のホルモン焼き屋を切り盛りする小学5年生の少女・竹本チエ、博打と喧嘩に明け暮れる無職の父親・テツを中心とする人々の日常を描いた人情コメディ漫画。はるき悦巳の代表作。大衆的な人気があり[2]、2015年時点で単行本の発行部数は3000万部を超える[3]。床屋や町中華、喫茶店などにもよく置かれている。第26回(1980年度)小学館漫画賞青年一般部門受賞。文庫版第1巻は第7回(2019年度)、文庫版最終巻である第34巻は第11回(2023年度)の大阪ほんま本大賞特別賞を受賞[4]

週刊漫画アクション』(双葉社)1978年10月12日号から1997年8月19日号に連載された。全786話。読み切り作品としてスタートしたが、好評を受け、1979年4月5日号の第13話から連載作品となった。『ルパン三世』(1967~1969年、『新ルパン三世』は1977~1981年)以後の『漫画アクション』を支えた。同誌は休刊の噂が出るたびに本作や『かりあげクン』(1980~2003年)、『クレヨンしんちゃん』(1990~2010年)といったヒット作が現れ、神風と言われた。2013年に双葉社はこのジンクスにあやかって新人漫画賞「双葉社カミカゼ賞」を開始した[5]

単行本は1979年から1997年に双葉社のアクションコミックスから全67巻で刊行された。文庫版は1998年から2004年に双葉文庫名作シリーズから全47巻で刊行された。長らく絶版だったが[6]、2019年から2024年に双葉文庫から全34巻で復刊された。また1981年から1983年にジュニア版の『じゃりン子チエ――チエちゃん奮戦記』がアクションコミックスから全15巻で刊行されている。コンビニコミックも刊行されている。

1981年に高畑勲監督により劇場アニメ化された(『じゃりン子チエ』)。1981年と1991年にテレビアニメ化された(第1期『じゃりン子チエ』、第2期『チエちゃん奮戦記 じゃりン子チエ』)。1981年に銀座みゆき座、1988年に関西芸術座[1]、2025年に大阪松竹座[7]など度々舞台化もされている。

2021年8月7日付の朝日新聞大阪本社版夕刊に本作とパインアメ(パイン株式会社)のコラボ広告が掲載され、連載終了以来24年ぶりとなる本作の描き下ろしマンガ「パインアメの巻」が掲載された[8][9]。2024年7月に刊行された文庫版最終巻である第34巻には新たな描き下ろし短編3本が収録された。

スピンオフ作品としてチエの飼い・小鉄を主人公にした『どらン猫小鉄』シリーズがある。

評価[編集]

井上ひさしは『朝日新聞』1980年5月26日付夕刊の文芸時評欄で「…ひっくりかえった仕掛けがこの作品の基本だ。大人よりも子どもが大人らしく、小鉄というチエの飼い猫が人間よりも人間らしく…」「…猫の目のように移りかわる視点が物語世界に奥行きを与えている」「全体が見晴らしのいい叙事詩」と評し、「徹底的な大阪弁と、あらゆる登場人物が常用する独白。はじめは読みにくいが、われわれはやがて馴らされて、ひとつひとつの独白に笑い出す。絵を地の文とみなせば、この作品は近来、出色の通俗・大衆・娯楽・滑稽小説のひとつと言い得よう、それもすこぶる実験的な。」と絶賛している[10]

津村喬は「『じゃりン子チエ』のチエは、美少女ではまったくないが、いま漫画で見ることのできる最も魅力的な少女の一人」と評している[11]

大岡昇平は『文学界』に連載した日記「成城だより」によると『じゃりン子チエ』を愛読していた。「「じゃりン子チエ」がスーパー・ウーマンの卵にて、知能と行動力にて、全篇を圧せること魅力あり。スーパーマンの後裔なるスーパー児童は数多し、いずれも抑圧願望実現が興味の原動力なれど、女子スーパーマンには女性らしきデリカシイを伴うので、魅力あり。」と評している[12]

鶴見俊輔は「私が昨年読んだ中でもっとも感動したのは、はるき悦巳の「じゃりン子チエ」で、これは男性作家の手になる理想女性漫画である」[13]、「あの漫画では、えらいのは女だけなんですよ。男は徹底的にだめなんです。まさに家の中に閉じこめられた米ソ原爆大国なんですよね。そういう意味で政治批判の書として読んでもなかなかおもしろい本です」と評している[14]

高畑勲は「準備にとりかかって原作を二読三読するうちに、すっかりチエファンになってしまって、さてどんな映画にしたらよいかわからなくなったんです。いくら読み返しても感心するばかりで、原作を改変したり、何かを捨てたりなんかとてもする気になれない。その上、はるきさんの原作はそのままで脚本、演出、コンテになっている。人物たちは的確な表情と演技をし、場面設定もかっちりできあがっている」と評している[15]

村上春樹は1981年のインタビューで「好きなマンガ」に「じゃりン子チエ」をあげている[16]

呉智英は現代マンガ史の第4期(1974~1978年)以後の特色として「笑いのマンガの中で、ストーリーとギャグが結合したものが各誌の人気作になるようになった」ことをあげ、「『じゃりン子チエ』もこうした作品であるが、その底にはかなり強い文学臭が流れている」と評している[17]。また、はるき悦巳を「現代マンガの重要な作家二〇人」の1人に選び、ユーモラスな登場人物、軽妙な大阪弁や柔らかな親しみやすい描線、20年以上前は当たり前に見られた懐かしい生活風景を想起させることが『じゃりン子チエ』の人気の秘密であると指摘している[18]

フィリップ・ポンスは「厳しさとセンチメンタリズムからなる悲惨主義的世界ではあるが、カリカチュアとみせかけて、大都会の貧民街に生きる人々の生活像が見事に描かれている」と評している[19]

斎藤環は「おたくよりむしろインテリ層に強くアピールする作品」だとし、TVアニメを「個人的に、もっとも思い入れが深い作品」と評している[20]

お笑いコンビ「霜降り明星」のせいやは本作の大ファンであることを公言している[21]

備考[編集]

  • 呉智英は『じゃりン子チエ』の明るさの底には暗さが漂っているとし、その理由は登場人物のテツが被差別部落民、チエの親友ヒラメが在日朝鮮人という市民社会の疎外者だからであろうと指摘している[18]斎藤環Twitterで「なんと呉智英氏が交流会に参加していたので漫画談義。「じゃりン子チエ」にひそむ同和問題を指摘した慧眼(『現代マンガの全体像』所収)を絶賛したら、発表当時かなり批判があった由。でも断言するけど、あの指摘抜きで『じゃりン子チエ』の本質は理解できないよ。あれこそが批評。」と述べている[22]関西じゃりン子チエ研究会(代表・菊池馨)[23]加賀谷真澄[1]は呉の説を否定している。
  • 児童労働賭博、未成年の飲酒・喫煙などの描写があり、「今なら毒親認定まちがいなし、大炎上必至の設定」といわれる[24]。2021年5月に大阪市のプロジェクトチームが『じゃりン子チエ』を活用したヤングケアラーの啓発を内部で検討していると報道され[25]、物議を醸した。
  • AKIRA』の登場人物マサルとタカシの名前は『じゃりン子チエ』の同名の登場人物からとられたという説がある。『おジャ魔女どれみ』の春風どれみ、『大家さんは思春期!』の里中チエには『じゃりン子チエ』のオマージュが含まれているという説がある。

メディアミックス作品[編集]

劇場アニメ[編集]

1981年4月11日初公開。上映時間110分。製作はキティ・ミュージック(現・ユニバーサルミュージック)、東京ムービー新社(現・トムス・エンタテインメント)。配給は東宝。監督は高畑勲

詳細は「じゃりン子チエ (映画)」を参照

テレビアニメ[編集]

1981年4月12日に関西テレビの演芸番組「花王名人劇場」枠で「アニメDEマンザイ じゃりン子チエ」が放送された。劇場アニメ『じゃりン子チエ』の宣伝番組。実写とアニメの合成映像を主としている。

1981年10月3日から1983年3月25日にテレビシリーズ第1期「じゃりン子チエ」がTBS系全国ネットで放送された。1話30分、全64話+SP1話。製作は毎日放送、東京ムービー新社。チーフプロデューサー(監督)は高畑勲。

1991年10月19日から1992年10月10日にテレビシリーズ第2期「チエちゃん奮戦記 じゃりン子チエ」が毎日放送と西日本の一部のテレビ局で放送された。1話30分、全39話。製作は東宝、東京ムービー新社、毎日放送。監督は横田和善

詳細は「じゃりン子チエ (テレビアニメ)」を参照

テレビゲーム[編集]

  • じゃりン子チエ ばくだん娘の幸せさがし(1988年7月15日、ファミリーコンピュータコナミ
    • 攻略本:ファイティングスタジオ編著『じゃりん子チエ必勝攻略法――ばくだん娘の幸せさがし』(双葉社[ファミリーコンピュータ完璧攻略シリーズ]、1988年)
  • 必殺パチンコステーションnow8 じゃりン子チエ(2001年3月15日、プレイステーションサン電子
  • SIMPLEキャラクター2000シリーズ Vol.04 じゃりン子チエTHE花札(2001年11月29日、プレイステーション、バンダイ

出典[編集]

  1. a b c 加賀谷真澄「『じゃりン子チエ』と釜ヶ崎――地域性が織りなす物語」『文学研究論集』26号、2008年1月
  2. 氷川竜介「『じゃりン子チエ(劇場版)』に見る高畑勲の映画構築術PDF」『アニメーション研究』21巻1号、2020年9月
  3. 「じゃりン子チエ」テレビアニメ第1期が初BD化 6月24日発売 アニメ!アニメ!、2015年4月24日
  4. 歴代受賞作 OsakaBookOneProject
  5. 中山淳雄「なぜ「クレヨンしんちゃん」はアジアで愛されるのか? 不朽のキャラクターを生んだ臼井儀人という作家の魅力」東洋経済オンライン、2025年7月4日
  6. 「じゃりン子チエ」なぜ時代超えて共感? 作者の直筆メッセージ NHKニュース、2023年4月20日
  7. じゃりン子チエ - 歌舞伎・演劇の世界 松竹株式会社
  8. じゃりン子チエ×パインアメ コラボが実現! パイン株式会社
  9. はるき悦巳が24年ぶりに「じゃりン子チエ」描き下ろし、「パインアメ」とのコラボで コミックナタリー、2021年8月8日
  10. 井上ひさし『ことばを読む』中央公論社、1982年、50頁
  11. 津村喬「週刊誌――群をぬく『アクション』」『月刊総評』第270号、1980年6月
  12. 大岡昇平「事故の夏――成城だより」『文学界』第34巻第10号、1980年10月
  13. 鶴見俊輔「漫画という言語」『鶴見俊輔集7 漫画の読者として』筑摩書房、1991年、78頁(初出は『京都新聞』1981年1月7日付夕刊)
  14. 桑原武夫編『創造的市民講座――わたしたちの学問 これからの日本を考えるために』小学館、1987年、377-378頁
  15. 高畑勲「チエに魅せられて」『マイアニメ』1981年5月号
  16. 高取英「幻想のアメリカ少年は中産階級の友が好きだった――僕たちの時代① 村上春樹インタビュー」『宝島』第9巻第11号(通巻第95号)、1981年11月
  17. 呉智英『現代マンガの全体像』双葉文庫、1997年、185頁(単行本は情報センター出版局より1986年に刊行)
  18. a b 呉智英『現代マンガの全体像』双葉文庫、1997年、279-282頁
  19. フィリップ・ポンス著、神谷幹夫訳『江戸から東京へ――町人文化と庶民文化』筑摩書房、1997年、311-312頁(原著は1988年刊行)
  20. 斎藤環『戦闘美少女の精神分析』ちくま文庫、2006年、206頁(単行本は太田出版より2000年に刊行)
  21. 霜降り明星・せいや「チエちゃんみたいな人が素敵。パートナーだったら良いな」第11回大阪ほんま本大賞特別賞受賞! 泣いて笑える名作コミック『じゃりン子チエ』最終巻記念特別インタビュー|インタビュー・対談 COLORFUL、2023年7月26日
  22. 2019年6月28日のツイート
  23. 関西じゃりン子チエ研究会『『じゃりン子チエ』の秘密』データハウス、1993年、9頁
  24. 立花もも「現代なら炎上必至!? 高畑勲も魅せられたあの『じゃりン子チエ』が笑って泣ける!【試し読み】」ダ・ヴィンチWeb、2019年10月8日
  25. 幼い介護者ヤングケアラー支援でじゃりン子チエ起用検討中 産経新聞、2021年5月30日

関連文献[編集]

  • 「劇画「じゃりン子チエ」のナウな読み方」(『週刊文春』第22巻第24号(通巻1088号)、1980年6月12日)
  • 小笠原信「「じゃりン子チエ」の家」(『思想の科学』7月臨時増刊号、1981年7月)
  • 副田義也『マンガ文化』(紀伊國屋書店、1983年)
  • 竹中労『人間を読む――必見・かい人21面相』(幸洋出版、1985年)
  • 左方郁子「「じゃりン子チエ」の猫――はるき悦巳論」(『思想の科学』第66号、1985年9月)
  • 竹中労構成・インタビュー「重信房子の半生記「妹へ」(2)「私はじゃリン子チエ」」(『サンデー毎日』第64巻第55号(通巻3559号)、1985年12月22日)
  • 三井マリ子、中嶋里美、坂本ななえ『女たちは地球人――叛乱のすすめ18章』(学陽書房、1986年)
  • 加藤幹郎『愛と偶然の修辞学』(勁草書房、1990年)
  • 柄谷行人「日本語の可能性について」(『広告批評』第161号、1993年5月)
  • 竹内オサム『漫画・まんが・マンガ』(青弓社[PCCブックス]、1998年)
  • 長尾剛『「じゃりン子チエ」という生き方――チエの強さ、テツの弱さ、ヨシ江の恐さ』(双葉社、1998年)
  • 奥本大三郎「じゃりン子チエの銀の匙」(『青春と読書』第33巻第7号(通巻260号)、1998年7月)
  • 鶴岡法斎『マンガロン――“70年代生まれ”の極私的マンガ評論集』(イースト・プレス、2000年)
  • 木全公彦、林公一『大人になった矢吹ジョー』(宝島社、2001年)
  • 呉智英『マンガ狂につける薬21』(メディアファクトリー[ダ・ヴィンチブックス]、2002年)
  • 関西じゃりン子チエ研究会『『じゃりン子チエ』の秘密 新装版』(データハウス、2007年)
  • じゃりン子チエ研究会編『人物大事典 チエ本――じゃりン子チエデータブック』(双葉社、2008年)
  • 影山明仁『名作マンガの間取り』(ソフトバンククリエイティブ、2008年)
  • 船所武志監修『ふるさと文学さんぽ 大阪』(大和書房、2012年)
  • 高芝麻子「言葉の来た道――心頭を滅却すれば火もまた涼し」、高芝麻子、遠藤星希、山崎藍、田中智行、馬場昭佳『とびらをあける中国文学――日本文化の展望台』(新典社[新典社選書]、2021年)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]