MiG-17
MiG-17(ミグ17、ロシア語: МиГ-17)は、ソビエト連邦のミコヤン・グレヴィッチ設計局が開発したジェット戦闘機である。NATOコードネームはフレスコ (Fresco)。
概要[編集]
MiG-17は、ソ連初の実用ジェット戦闘機であるMiG-15の発展型として開発された。MiG-15の基本的な機体設計を継承しつつ、遷音速域での性能向上を主眼に置いて改良が施されている。主な改良点としては、より後退角の大きい主翼の採用、胴体後部の延長、水平尾翼の大型化などが挙げられる。これにより、MiG-15で問題となっていた遷音速域での操縦安定性が大幅に改善された。
原型機であるI-330が1950年1月14日に初飛行し、1952年から量産が開始された。ソ連空軍だけでなく、ワルシャワ条約機構加盟国や第三世界の多くの国に供与・輸出され、ベトナム戦争など多くの紛争で実戦投入された。
開発[編集]
MiG-17の開発は、MiG-15が抱えていた高速域における操縦性の問題を解決するために開始された。MiG-15は優秀な亜音速機であったが、音速に近づくとマッハタックなどの現象が発生し、操縦が困難になるという欠点があった。
この問題を解決するため、ミコヤン=グレヴィッチ設計局はMiG-15の機体設計をベースに、より後退角の大きな主翼(翼端失速を防ぐため、翼根部分よりも外側部分の後退角が大きく設定されている)と、胴体後部の延長による面積比の改善を行った。これらの改修により、遷音速域での安定性が向上し、最高速度もMiG-15を上回るものとなった。
初期生産型では、MiG-15と同じクリモフ VK-1エンジンを搭載していたが、後期型ではアフターバーナーを装備したVK-1Fエンジンを搭載したMiG-17Fが登場し、上昇力や加速力が向上した。
バリエーション[編集]
- MiG-17(NATOコードネーム: フレスコA): 初期生産型。MiG-15のVK-1エンジンを搭載。
- MiG-17A(NATOコードネーム: フレスコA): MiG-17の改良型。エンジンの信頼性向上が図られた。
- MiG-17AS(NATOコードネーム: フレスコA): 空対空ミサイルR-3S(AA-2 アトール)の運用能力を付与された型。
- MiG-17F(NATOコードネーム: フレスコC): アフターバーナー付きのVK-1Fエンジンを搭載した主力生産型。MiG-17の最も多く生産されたタイプ。
- MiG-17P(NATOコードネーム: フレスコB): 全天候迎撃能力を持つレーダー搭載型。
- MiG-17PF(NATOコードネーム: フレスコD): レーダーとアフターバーナー付きエンジンを組み合わせた全天候迎撃型。
- MiG-17PM(NATOコードネーム: フレスコE): 空対空ミサイル運用能力を付与された迎撃型。
- MiG-17R(NATOコードネーム: フレスコA): 偵察機型。
- MiG-17UTI(NATOコードネーム: フレスコA): 複座練習機型。
ライセンス生産[編集]
- 瀋陽J-5(中国語: 殲-5): 中国でライセンス生産されたMiG-17の名称。MiG-17Fに相当する。
- PZL-Mielec Lim-5、Lim-6(ポーランド語: Lim-5、Lim-6): ポーランドでライセンス生産されたMiG-17の名称。Lim-5はMiG-17Fに、Lim-6はMiG-17PFに相当する。
運用国[編集]
MiG-17は、ソ連の友好国を中心に世界中で運用された。以下に主要な運用国を挙げる。
- ソビエト連邦
- アフガニスタン
- アルバニア
- アルジェリア
- アンゴラ
- ブルガリア
- カンボジア
- 中国
- コンゴ共和国
- キューバ
- チェコスロバキア
- 東ドイツ
- エジプト
- エチオピア
- フィンランド
- ハンガリー
- インドネシア
- イラク
- 北朝鮮
- リビア
- マダガスカル
- マリ
- モンゴル
- モロッコ
- モザンビーク
- ナイジェリア
- パキスタン
- ポーランド
- ルーマニア
- ソマリア
- 南イエメン
- シリア
- タンザニア
- ウガンダ
- ベトナム
- イエメン
実戦[編集]
MiG-17は、その運用期間中に数多くの紛争で実戦投入された。
- スエズ危機(1956年): エジプト空軍が運用。
- ベトナム戦争(1960年代 - 1970年代): 北ベトナム空軍が運用し、アメリカのより高性能な戦闘機、例えばF-4 ファントムIIなどに対して善戦したことで知られる。MiG-17は比較的低速ではあったものの、高い旋回性能と強力な固定武装により、近接航空戦でその真価を発揮した。
- 第三次中東戦争(1967年): エジプト空軍などが運用。
- 第四次中東戦争(1973年): エジプト空軍などが運用。
性能諸元 (MiG-17F)[編集]
- 乗員: 1名
- 全長: 11.26 m
- 全幅: 9.63 m
- 全高: 3.80 m
- 翼面積: 22.6 m2
- 空虚重量: 3,939 kg
- 最大離陸重量: 6,069 kg
- エンジン: クリモフ VK-1F ターボジェット × 1
- 推力: 33.1 kN (アフターバーナー使用時 36.3 kN)
- 最大速度: 1,145 km/h (高度 3,000 m)
- 航続距離: 1,080 km (外部燃料タンクなし)、1,670 km (外部燃料タンク使用時)
- 実用上昇限度: 16,600 m
- 上昇率: 65 m/s
- 翼面荷重: 268.5 kg/m2
- 推力重量比: 0.63
武装[編集]
豆知識[編集]
MiG-17は、当時の西側諸国の戦闘機と比較して、レーダーやミサイルの性能で劣る点があったが、優れた運動性能と強力な固定武装により、ベトナム戦争ではアメリカのF-4 ファントムIIなどの新鋭機に対しても互角以上の戦いを演じた。特に低空での格闘戦においては、MiG-17の旋回性能の高さがF-4の弱点を突き、多くの撃墜記録を残した。
関連項目[編集]
- MiG-15
- MiG-19
- F-86 セイバー
- ハインケル He 178 (MiG-17とは直接の関係はないが、初期のジェット機として)
参考書籍[編集]
- 『世界の傑作機 No.110 MiG-17 フレスコ』文林堂、2005年。
- 『MiG-15/17 フレスコ (世界の戦闘機)』グローバルアーク出版、2008年。