ノースロップ F-89 スコーピオン

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

ノースロップ F-89 スコーピオンは、ノースロップ社が開発し、アメリカ空軍で運用された双発・全天候型の迎撃戦闘機である。その特徴的な機体形状と強力な兵装、そして初期のジェット戦闘機としては異例なほどの長期間にわたる運用実績を持つ。

開発経緯[編集]

第二次世界大戦終結後、アメリカ合衆国ソビエト連邦との冷戦構造に突入し、ソ連の長距離爆撃機による本土攻撃の脅威に直面した。これに対抗するため、アメリカ空軍は従来の昼間戦闘機や限定的な夜間戦闘能力しか持たない機体では不十分と判断し、全天候下で敵爆撃機を迎撃できる新型機の開発を急務とした。

1945年、アメリカ陸軍航空軍(後のアメリカ空軍)は、XP-89計画として全天候型迎撃機の要求仕様を提示した。これに対し、ノースロップ社は、P-61ブラックウィドウで培った夜間戦闘機の開発経験を活かし、全翼機技術の研究を進めていたものの、最終的にはよりオーソドックスな双胴機レイアウトに近い設計案を提出した。この競争にはカーチスダグラスロッキードなども参加したが、1946年にノースロップ社の設計案が採択され、試作機2機の開発契約が結ばれた。

試作機の名称はXP-89とされ、1948年8月16日に初飛行した。開発中に様々な技術的課題に直面し、特にジェットエンジンの高出力化に伴う機体構造の強化や、全天候飛行を可能にするための複雑なレーダーシステムの統合が求められた。

機体特徴[編集]

F-89は、特徴的な細長い胴体と、主翼中央よりやや下部に吊り下げられた2基のアリソン J35ターボジェットエンジンが目を引く機体である。初期のジェット機としては大型に属し、胴体内部には広大な燃料タンクが収められ、長時間の滞空能力を有していた。

主翼は薄く、後退角はほとんどない直線翼であった。これは、当時のジェットエンジン出力では遷音速域での飛行が困難であったことと、低速での安定性や離着陸性能を重視した結果である。水平尾翼は垂直尾翼の中ほどに配置されたT字尾翼を採用している。

乗員はパイロットとレーダー迎撃士官(RIO)の2名で、並列複座配置のコクピットに搭乗した。これは、複雑なレーダー操作や航法を分担することで、全天候迎撃任務の効率を高めるためであった。

派生型[編集]

F-89は様々な派生型が開発され、それぞれ異なる任務や能力が付与された。

  • XP-89:試作機。2機が製造された。
  • F-89A:最初の量産型。限定的な数のみ生産され、主に運用試験に供された。機首に20mm機関砲を装備。
  • F-89B:A型からの改良型。レーダーやアビオニクスが改良された。
  • F-89C:エンジンを換装し、主翼の構造が強化された型。初期型では主翼のフラッター問題が発生したため、この型で改善が図られた。
  • F-89D:F-89の主要生産型であり、最も多く配備された型。機首の機関砲が撤去され、代わりに主翼端にロケットポッドが装備された。このポッドにはマイティ・マウス空対空ロケット弾が搭載され、最大104発を発射可能であった。これは、高速で接近する爆撃機に対し、広範囲にわたる弾幕を張ることを目的とした。この型からレーダーも大幅に改良され、自動追尾能力が向上した。
  • F-89H:D型にAIM-4ファルコン空対空ミサイルの運用能力を付与した型。主翼端のロケットポッドが大型化され、ファルコンミサイルを最大6発、またはファルコンミサイルとロケット弾を混載して搭載可能となった。ミサイル誘導のための新型レーダーも搭載された。
  • F-89J:核弾頭を搭載可能なAIR-2ジーニー非誘導空対空ロケット弾の運用能力を付与した型。核兵器の運用を前提としたため、機体の構造強化や専用の火器管制システムが搭載された。この型は、冷戦期の核抑止戦略において重要な役割を担った。ジーニーは機体下部に搭載された。
  • DF-89A/B:標的曳航機型。

運用[編集]

F-89スコーピオンは、1950年代から1960年代半ばにかけて、主にNORADの隷下でアメリカ本土防空任務に就いた。特にD型以降は、その強力なロケット弾装備により、ソ連の爆撃機編隊に対する有効な迎撃手段として期待された。

極寒の地での運用も想定されており、翼内には除氷装置が装備されていた。また、ジェットエンジン特有のエンジントラブルが頻発した初期のジェット機の中では、比較的信頼性が高い機体として評価された。

しかし、音速を超える性能を持つ超音速ジェット機の登場や、より高性能なミサイルの開発が進むにつれて、F-89は徐々に陳腐化していった。特に、F-101ブードゥーF-102デルタダガーF-106デルタダートといった新型迎撃機が配備されるにつれ、F-89は第一線から退き、州兵航空隊などに移管された。

最後のF-89は1969年に退役し、その任務を終えた。総生産機数は約1,000機に上るとされる。

豆知識[編集]

  • F-89の愛称である「スコーピオン(サソリ)」は、その細長い胴体と、機首下部に突き出たレーダードームがサソリの尾に似ていることから名付けられたと言われています。
  • D型に搭載された「マイティ・マウス」ロケット弾は、非誘導のロケット弾であり、広範囲に弾幕を張ることで命中率を上げようとするものでした。これは、当時の火器管制技術の限界を示すものでもありました。
  • J型に搭載されたAIR-2ジーニーは、空対空ミサイルとしては世界で初めて核弾頭を搭載したものです。実弾の発射実験も行われ、成功を収めました。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 『世界の傑作機 No.108 ノースロップ F-89 スコーピオン』文林堂、2005年。
  • ジェーン年鑑 航空宇宙]]』(各年版)、ジェーン・デフェンス・ウィークリー。