社会主義国家

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社会主義国家(しゃかいしゅぎこっか、英語: Socialist state)とは、社会主義指導イデオロギーとして掲げ、社会主義の実現を目指す国家、あるいはその政治体制を指す。一般的には、マルクス・レーニン主義を基盤とした一党独裁制を採り、生産手段社会化(国有化、協同組合化など)を推し進め、計画経済を採用する国家を指すことが多い。しかし、その定義や具体的な形態は多様であり、歴史的変遷を経てきた。

概要[編集]

社会主義国家という概念は、19世紀に勃興した社会主義思想が、具体的な国家形態として現れた20世紀以降に広く用いられるようになった。その嚆矢は、1917年ロシア革命によって成立したソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)である。ソ連は、ウラジーミル・レーニンが提唱した前衛党によるプロレタリアート独裁の理論に基づき、ボリシェヴィキ(後のソビエト連邦共産党)が唯一の指導政党として国家を運営した。

社会主義国家の主な特徴としては、以下の点が挙げられる。

  • 指導イデオロギーとしての社会主義:国家の全ての政策決定や社会運営の基本理念として、社会主義(特にマルクス・レーニン主義)が据えられる。
  • 生産手段の社会化土地工場鉱山などの主要な生産手段が私有財産から国有または協同組合所有へと移行される。
  • 計画経済:市場の需給原理ではなく、国家が策定する経済計画に基づいて、生産、流通、消費が管理される。
  • 一党独裁制:原則として共産党労働者党など、特定のが国家を指導し、他の政治勢力の存在は認められないか、極めて限定的である。
  • プロレタリアート独裁マルクス主義の理論に基づき、労働者階級(プロレタリアート)が支配階級となり、ブルジョワジーに対する独裁を行うとされる。

しかし、これらの特徴は全ての社会主義国家に一律に当てはまるわけではなく、国や時代によってその運用には差異が見られた。例えば、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国では自主管理社会主義が、中華人民共和国では社会主義市場経済といった独自の路線が採られた。

歴史[編集]

黎明期とソ連型社会主義の確立[編集]

社会主義国家の歴史は、1917年ロシア革命に始まる。革命によって帝政ロシアが倒れ、ボリシェヴィキが政権を掌握。1922年にはソビエト社会主義共和国連邦が成立した。ソ連は、ヨシフ・スターリンの時代に農業集団化工業化を強行し、強大な中央集権的な国家を築き上げた。このソ連をモデルとした体制は、「ソ連型社会主義」と呼ばれ、後に多くの社会主義国家に影響を与えた。

冷戦期の拡大と多様化[編集]

第二次世界大戦後、東ヨーロッパ諸国、東ドイツ中華人民共和国朝鮮民主主義人民共和国ベトナム民主共和国などが次々と社会主義国家の道を歩んだ。これらの国々は、ソ連の影響下に置かれたり、あるいは独自の革命を通じて成立したりと、多様な経緯を辿った。

この時期、社会主義国家は、アメリカ合衆国を中心とする西側諸国と対立する東側諸国として、冷戦の主要なアクターとなった。しかし、その内部では、ソ連からの独立性を志向する動きも見られた。例えば、ユーゴスラビアヨシップ・ブロズ・チトーは、ソ連の支配を拒否し、非同盟運動を主導した。また、中華人民共和国毛沢東は、ソ連の修正主義を批判し、中ソ対立を招いた。

改革と崩壊[編集]

1980年代後半に入ると、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長によるペレストロイカグラスノストに代表される改革の動きが始まった。しかし、これらの改革は、それまでの体制の矛盾を露呈させ、かえってソビエト連邦の崩壊を招くことになった。1989年ベルリンの壁崩壊を契機として、東ヨーロッパ諸国では次々と民主化革命が発生し、社会主義政権が打倒された。

1991年のソ連崩壊により、多くの社会主義国家が姿を消したが、中華人民共和国ベトナム社会主義共和国ラオス人民民主共和国キューバ共和国朝鮮民主主義人民共和国など、現在も「社会主義国家」を自称する国は存在する。これらの国々の中には、経済的な自由化を進める一方で、共産党による一党支配を維持する社会主義市場経済のような独自の道を歩む国もある。

評価と課題[編集]

社会主義国家の歴史は、その理念と現実のギャップ、そして多様な試行錯誤の歴史でもある。

肯定的な評価としては、識字率の向上、医療・教育の無償化、完全雇用など、国民の社会権の保障に一定の成果を上げた点が挙げられることがある。また、急速な工業化と経済成長を実現した国も存在する。

一方で、否定的な評価としては、人権抑圧言論統制政治的自由の制限秘密警察による監視、計画経済の非効率性による物不足、環境破壊などが指摘される。特に、スターリン主義文化大革命のような極端な事例では、多くの人命が失われた。

現在の社会主義国家を自称する国々も、経済格差の拡大、腐敗問題、環境問題など、新たな課題に直面している。

豆知識[編集]

  • 社会主義国家が掲げる「社会主義」の概念は、カール・マルクスの思想を基盤としているが、実際の社会主義国家の多くは、マルクス・レーニン主義という、レーニンが発展させた理論に基づいている。
  • 社会主義国家の多くは、国旗に鎌と槌(労働者と農民の団結を象徴)や赤い星(革命を象徴)などのシンボルを用いていた。
  • 「鉄のカーテン」という言葉は、冷戦期に西側諸国と東側諸国を隔てていた政治的・軍事的な境界線を指す比喩表現として用いられた。
  • 社会主義国家では、国家による文化・芸術の統制が行われることが多く、プロパガンダとしての役割が重視された。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 猪木武徳『冷戦の終焉』中央公論新社〈中公新書〉、1991年。
  • 加藤勢津子『ソ連型社会主義とは何か』岩波書店〈岩波新書〉、2000年。
  • 吉岡桂子『現代中国の政治と経済』有斐閣、2018年。