ソ連型社会主義
ソ連型社会主義(ソれんがたしゃかいしゅぎ、ロシア語: Советский социализм、英語: Soviet-type socialism)とは、ソ連において確立され、第二次世界大戦後に東欧諸国、モンゴル、北朝鮮、ベトナムなど、ソ連の影響下にあった多くの社会主義国に導入された社会主義の形態である。その特徴は、マルクス・レーニン主義を指導イデオロギーとし、共産党による一党独裁制、生産手段の国有化と計画経済、プロレタリアート独裁の概念に基づいた国家権力の集中などが挙げられる。
概要[編集]
ソ連型社会主義は、1917年のロシア革命によってボリシェヴィキが権力を掌握した後に、ウラジーミル・レーニンの指導の下で構築が始まった。1922年のソビエト社会主義共和国連邦の成立とともにその原型が形成され、ヨシフ・スターリンの時代に国家による農業の集団化と重工業化を推進する計画経済体制が確立されたことで、その特徴が明確になった。
この社会主義モデルは、階級闘争の終結と共産主義社会への移行を目指すという理論的根拠を持っていた。しかし、実際には秘密警察による監視社会、政治犯の収容を伴うグラグの存在、表現の自由や信教の自由の制限など、人権の抑圧が広く指摘されてきた。
ソ連型社会主義の経済システムは、五カ年計画に代表される中央集権的計画経済を基盤としていた。生産目標は国家によって厳格に定められ、市場メカニズムはほとんど機能しなかった。初期には急速な工業化を達成したが、次第に技術革新の停滞、消費者物資の不足、生産性の低下といった問題に直面するようになった。
歴史[編集]
レーニン時代[編集]
ソ連型社会主義の萌芽は、1917年の十月革命に遡る。レーニン率いるボリシェヴィキは、プロレタリア革命を成功させ、ソビエト政権を樹立した。初期には戦時共産主義と呼ばれる厳格な経済統制が敷かれたが、ロシア内戦による疲弊と飢饉により、1921年には限定的な市場経済を導入するネップ (新経済政策)へ転換した。この時期、プロレタリアート独裁の理念が掲げられ、ソビエト国家の基盤が形成された。
スターリン時代[編集]
レーニンの死後、ヨシフ・スターリンが権力を掌握し、ソ連型社会主義の体制は決定的なものとなった。1928年から開始された第一次五カ年計画では、農業の集団化と重工業化が強行された。この過程で富農(クラーク)は弾圧され、数百万人の餓死者を出したともされる。スターリン時代は、大粛清に代表される秘密警察による大規模な政治的抑圧と、個人崇拝が特徴であった。これにより、共産党の一党独裁と国家による全面的な統制が確立された。
冷戦期[編集]
第二次世界大戦後、ソ連型社会主義は東ヨーロッパ諸国、モンゴル人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国、ベトナム民主共和国などに拡大した。これらの国々はソ連の強い影響下に置かれ、衛星国とも呼ばれた。冷戦時代には、ワルシャワ条約機構と経済相互援助会議(コメコン)を通じて、軍事・経済両面でソ連を中心としたブロックが形成された。しかし、ハンガリー動乱(1956年)、プラハの春(1968年)など、ソ連型社会主義体制に対する反発も発生し、ソ連による軍事介入で鎮圧された。
改革の試みと崩壊[編集]
レオニード・ブレジネフ時代には、停滞の時代と呼ばれる経済停滞が深刻化した。ミハイル・ゴルバチョフは、1980年代後半にペレストロイカ(改革)とグラスノスト(情報公開)を掲げ、ソ連型社会主義の抜本的な改革を試みた。しかし、これらの改革はソ連邦の解体(1991年)と東欧革命(1989年)に繋がり、ソ連型社会主義体制はほとんどの国で崩壊した。現在、ソ連型社会主義の体制を維持しているのは、朝鮮民主主義人民共和国とキューバなどに限られる。
特徴[編集]
ソ連型社会主義の主な特徴は以下の通りである。
- マルクス・レーニン主義:カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの思想に、ウラジーミル・レーニンが加えた革命論と国家論を指導イデオロギーとする。共産党が唯一の前衛政党として国家と社会を指導する役割を担う。
- 共産党による一党独裁制:政治権力は共産党に集中し、他の政党は存在しないか、存在しても形式的なものに過ぎない。党の決定は国家の政策に直結し、党中央委員会が最高意思決定機関となる。
- 生産手段の国有化:工場、農地、銀行などの主要な生産手段は国家が所有し、私有財産は厳しく制限されるか、完全に廃止される。
- 中央集権的計画経済:国家計画委員会が経済活動の全てを計画・指令する。五カ年計画に代表される長期計画と、それを具体化した短期計画に基づき、生産目標、資源配分、価格などが決定される。市場メカニズムはほとんど導入されない。
- プロレタリアート独裁:労働者階級が国家権力を掌握し、ブルジョワジーなどの旧支配階級を抑圧するという理念。しかし実際には、共産党の独裁と同義となることが多かった。
- 思想統制とプロパガンダ:メディア、教育、芸術などは国家によって厳しく統制され、マルクス・レーニン主義に基づいた思想が国民に浸透させられた。国家プロパガンダが積極的に展開された。
- 国際共産主義運動の推進:ソ連はコミンテルンなどを通じて、世界革命を目指す国際共産主義運動を主導した。
評価[編集]
ソ連型社会主義に対する評価は、歴史家や政治学者、経済学者の間で大きく分かれている。
肯定的な評価としては、資本主義社会における貧富の格差や失業問題の解決を目指した点、初期の急速な工業化と識字率向上、医療・教育の無償化など、社会保障制度の充実を挙げることができる。また、第二次世界大戦におけるナチス・ドイツに対する勝利も、ソ連型社会主義の体制の下で達成されたと評価されることがある。
一方、否定的な評価としては、人権侵害、自由の抑圧、個人の尊厳の軽視、独裁政治、秘密警察による弾圧、経済の非効率性、環境破壊などが挙げられる。特にスターリン時代の大粛清やグラグにおける強制労働は、その残虐性から厳しく批判されている。また、計画経済の非効率性は、ソ連崩壊の主要な原因の一つとされている。
ソ連型社会主義国家一覧[編集]
過去および現在のソ連型社会主義国家(またはその強い影響下にあった国家)は以下の通り。
- ソビエト連邦(1922年 - 1991年)
- ポーランド人民共和国(1944年 - 1989年)
- ドイツ民主共和国(1949年 - 1990年)
- チェコスロバキア社会主義共和国(1948年 - 1989年)
- ハンガリー人民共和国(1949年 - 1989年)
- ルーマニア社会主義共和国(1947年 - 1989年)
- ブルガリア人民共和国(1946年 - 1990年)
- アルバニア社会主義人民共和国(1946年 - 1991年)
- ユーゴスラビア社会主義連邦共和国(1945年 - 1992年)
- モンゴル人民共和国(1924年 - 1992年)
- 朝鮮民主主義人民共和国(1948年 - 現在)
- ベトナム民主共和国 / ベトナム社会主義共和国(1945年 - 現在)
- ラオス人民民主共和国(1975年 - 現在)
- カンボジア人民共和国(1979年 - 1989年)
- 中華人民共和国(1949年 - 現在)
- キューバ共和国(1959年 - 現在)
豆知識[編集]
- ソ連型社会主義における「計画経済」は、経済学者フリードリヒ・ハイエクによって「知識の問題」を解決できないと批判された。彼によれば、中央計画者が全ての経済情報を把握し、効率的な意思決定を行うことは不可能である。
- 冷戦期、ソ連は宇宙開発競争でアメリカ合衆国と競い、スプートニク1号やユーリイ・ガガーリンによる初の有人宇宙飛行を成功させた。これらはソ連型社会主義の科学技術力を示すプロパガンダとしても利用された。
- ソ連型社会主義国の軍隊は、赤軍を範として組織され、政治将校制度が導入されていた。これは、軍隊の政治的忠誠を確保するための仕組みであった。
関連項目[編集]
- 社会主義
- 共産主義
- マルクス・レーニン主義
- ソビエト連邦
- 冷戦
- 計画経済
- 一党独裁
- 大粛清
- グラグ
- 東欧革命
- ソ連邦の解体
- 戦時共産主義
- ネップ (新経済政策)
- 五カ年計画
- 集団化 (ソ連)
- グラスノスト
- ペレストロイカ
- 民主集中制
- 人民民主主義