日本語学
日本語学(にほんごがく、英: Japanese linguistics)は、日本語を研究対象とする学問分野である。日本語の音韻論、形態論、統語論、意味論、語用論、方言学、歴史言語学、社会言語学、心理言語学など、多岐にわたる側面から日本語を分析・記述する。
概要[編集]
日本語学は、日本における言語学研究の中核をなす分野であり、その歴史は古い。奈良時代の『万葉集』の訓読や仮名遣いの研究にまで遡ることができる。近現代においては、明治時代の文法研究を皮切りに、昭和時代には国語学として発展し、戦後、言語学の国際的な発展とともに、より科学的なアプローチが取り入れられるようになった。
日本語学の研究は、日本語そのものの構造や変遷を解明するだけでなく、日本語教育、機械翻訳、自然言語処理、言語病理学など、様々な応用分野にも貢献している。
主要な研究分野[編集]
日本語学は、以下のような多岐にわたる分野で研究が行われている。
- 日本語を母語としない人々への日本語の教授法や教材開発などを研究する分野。日本語学の知見が応用される。
日本語学の歴史[編集]
古代[編集]
日本語学の萌芽は、奈良時代の漢字による日本語表記の試みや、『万葉集』の訓読、正倉院文書などの古文献の解読に見られる。この時代には、音を写すための万葉仮名の使用と、その音韻的特徴への意識が芽生え始めたと言える。
中世[編集]
平安時代から鎌倉時代にかけては、仮名遣いの研究、特に定家仮名遣いに代表される歴史的仮名遣いの規範化が進められた。また、仏教の経典の読解を通じて、悉曇学などのインドの言語学の知識が導入され、日本語の音韻分析に影響を与えた。
近世[編集]
江戸時代には、国学の隆盛とともに日本語の研究が本格化する。契沖、賀茂真淵、本居宣長、富士谷御杖、鈴木朖らによって、上代特殊仮名遣の発見、助詞・助動詞の分類、活用の研究など、日本語の文法構造に関する多くの重要な知見が得られた。彼らの研究は、現代の日本語文法研究の基礎となっている。
近現代[編集]
明治時代になると、西洋の文法学が導入され、日本語の文法を西洋文法の枠組みで記述する試みが始まった。大槻文彦の『言海』、山田孝雄の『日本文法論』、橋本進吉の文法論などがこの時代の代表的な業績である。 昭和時代に入ると、時枝誠記の言語過程説など、独自の理論的アプローチも登場した。戦後は、チョムスキーの生成文法をはじめとする構造言語学、認知言語学など、様々な言語学理論が日本語研究に応用され、研究の多様化と深化が進んだ。
豆知識[編集]
- 日本語学という名称が一般的に使われるようになったのは、比較的最近のことで、それまでは「国語学」と呼ばれることが多かったんだ。
- 日本語のオノマトペ(擬音語・擬態語)は非常に発達しており、日本語学の中でも興味深い研究対象の一つであるんだ。
- 日本語の敬語は複雑で、海外の日本語学習者にとっては大きな壁となるが、日本語学ではその体系や運用について深く研究されているんだ。
関連項目[編集]
参考書籍 (国内)[編集]
- 大野晋、柴田武編『岩波講座 日本語 1-11』岩波書店、1976-1978年。
- 鈴木孝夫『日本語と外国語』岩波新書、1971年。
- 金田一春彦『日本語』岩波新書、1982年。
- 大津由紀雄『日本語と日本文化』新曜社、1998年。
- 山田孝雄『日本文法論』宝文館、1908年。