VI号戦車ティーガーI型 重戦車

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ティーガーI(ティーガー ワン、ドイツ語: Tiger I)は、第二次世界大戦中にドイツ国防軍が開発・使用した重戦車である。正式名称はVI号戦車ティーガー(Panzerkampfwagen VI Tiger)。制式番号はSd.Kfz. 181。その強力な攻撃力と防御力から、連合軍兵士からは「ティーガー恐怖症」と呼ばれるほどの畏敬の念を抱かせた。

開発[編集]

第一次世界大戦後、ヴェルサイユ条約によって軍備を制限されたドイツは、再軍備宣言以降、急速な軍備拡張を進めた。1930年代後半には、当時の主力戦車であったIII号戦車IV号戦車では対処できない、より強力な戦車への需要が高まった。特に1941年バルバロッサ作戦ソビエト連邦T-34KV-1と遭遇したことは、ドイツ軍に新たな重戦車の開発を強く促した。

これ以前より、ポルシェ社ヘンシェル社にそれぞれ重戦車の開発が命じられていた。ポルシェ社が開発したVK45.01 (P)、通称「ポルシェティーガー」は、電動駆動方式を採用していたが、複雑な機構と生産性の問題から不採用となった。一方、ヘンシェル社が開発したVK45.01 (H)が採用され、これが後にティーガーIとして制式化されることとなる。

生産[編集]

ティーガーIの生産は1942年8月に開始され、1944年8月までに合計1,347両が製造された。生産は主にヘンシェル社のカッセル工場で行われた。ティーガーIは非常に複雑な構造を持ち、高精度な部品を多く必要としたため、生産効率は決して高くなかった。また、熟練工の不足や、連合軍による空襲も生産に影響を与えた。

設計[編集]

ティーガーIは、当時のドイツの技術の粋を集めて設計された。

車体[編集]

車体は溶接構造で、厚い均質圧延装甲板で構成されていた。正面装甲は100mm、側面および後部は80mmと、当時としては極めて重厚な防御力を持っていた。これにより、多くの対戦車砲弾に対して高い抗堪性を示した。

砲塔[編集]

砲塔も重装甲で、正面100mm、側面80mm、後面80mmの装甲を有していた。砲塔内部には、主砲である8.8 cm KwK 36 L/56、そして副武装のMG34機関銃が装備された。

武装[編集]

  • 主砲8.8 cm KwK 36 L/56クルップ社によって開発されたこの戦車砲は、もともと対空砲として開発された8.8 cm FlaKを戦車用に転用したもので、その長砲身から放たれる徹甲弾は、連合軍のほとんど全ての戦車を遠距離から撃破することが可能であった。
  • 副武装MG34機関銃 ×2。車体前方と砲塔にそれぞれ1丁ずつ装備された。

機関[編集]

初期生産型にはマイバッハHL210 P45 V型12気筒液冷ガソリンエンジンが搭載されたが、後に高出力のマイバッハHL230 P45 V型12気筒液冷ガソリンエンジンに換装された。このエンジンは700hpを発揮し、57トンという車重を動かすのに十分な出力を有していた。

足回り[編集]

足回りは、千鳥配列のオーバーラップ転輪とトーションバー・サスペンションを採用していた。この方式は、接地圧を分散させ、不整地での走行性能を向上させる効果があった一方で、泥や雪が詰まりやすく、整備に手間がかかるという欠点も抱えていた。

戦歴[編集]

ティーガーIは、1942年9月にレニングラード近郊のシニャーヴィノの戦いで初めて実戦投入された。その後、東部戦線北アフリカ戦線イタリア戦線西部戦線など、あらゆる戦線で活躍した。

ティーガーIは、その強力な武装と重装甲により、数倍の数の連合軍戦車を相手に優位に戦うことができた。特に遠距離からの正確な射撃能力は、連合軍戦車兵に大きな脅威を与えた。しかし、その一方で、複雑な構造ゆえの機械的信頼性の低さ、燃料消費量の多さ、戦略的な機動性の欠如といった問題も抱えていた。特に、その重い車重は、橋梁の通過を困難にし、戦略的な展開を制約する要因となった。

1945年5月のドイツ降伏まで、ティーガーIはドイツ軍の重戦力の中核を担い続けた。

派生型[編集]

ティーガーIの直接的な派生型は少ないが、その車体やコンポーネントを流用した車両がいくつか存在する。

後継としては、より改良されたティーガーIIVI号戦車ティーガーII、通称ケーニヒスティーガー)が開発された。

豆知識[編集]

  • ティーガーIの愛称「ティーガー」(Tiger)は、ドイツ語で「トラ」を意味する。
  • ティーガーIは、その圧倒的な存在感から、当時のプロパガンダにも利用され、ドイツの軍事力を象徴する存在として描かれた。
  • ミハエル・ヴィットマンオットー・カリウスといった著名な戦車エースたちは、ティーガーIを駆って多大な戦果を挙げたことで知られる。
  • ティーガーIの主砲8.8cm KwK 36 L/56は、もともと対空砲として設計されたものであったため、高い初速と貫徹力を誇った。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • ヴァルター・シュピールベルガー『ティーガー重戦車 1942-1945』大日本絵画、1997年。ISBN 978-4-499-22668-3
  • マイク・アスキュー『ティーガーI戦車事典』大日本絵画、2010年。ISBN 978-4-499-23030-7
  • 広田厚司『ティーガーI戦車パーフェクトガイド』イカロス出版、2017年。ISBN 978-4-8022-0338-7