VI号戦車ティーガーII型 重戦車
ティーガーII(独: Panzerkampfwagen VI Ausf. B Tiger II)は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツで開発され、ドイツ国防軍が使用した重戦車である。「ケーニヒスティーガー(独: Königstiger)」の通称でも知られ、これは直訳すると「ベンガルトラ」を意味するが、英語圏では「キングタイガー(King Tiger)」とも呼ばれる。ドイツの戦車開発の集大成とも言える存在であり、その強大な武装と厚い装甲は連合国軍にとって脅威となった。
開発[編集]
ティーガーIの登場により、ドイツ軍は連合国軍に対して一時的な優位に立ったが、ソ連のT-34やKV-1などの新型戦車の出現により、ティーガーIを凌駕する次期主力重戦車の開発が急務となった。
ティーガーIIの開発は、ティーガーIの開発と並行して1942年から開始された。開発はポルシェとヘンシェルの両社に依頼され、それぞれ独自のデザイン案を提出した。ポルシェ案は「ティーガーIII」として開発が進められていたVK 45.02 (P)の改良型であり、ティーガー(P)で採用されたガソリンエンジン発電・電動モーター駆動方式を踏襲していた。しかし、この方式は信頼性に問題があり、量産には不向きと判断された。
一方、ヘンシェル案は、ティーガーIの改良型という位置づけで「VK 45.03 (H)」として開発が進められた。これは、パンターの開発で得られた傾斜装甲の技術を取り入れ、従来のドイツ戦車とは一線を画す防御力を持つことが特徴であった。最終的にヘンシェル案が採用され、1943年10月にヒトラーの承認を得て、「ティーガーII」として制式名称が与えられた。
初期生産型であるポルシェ砲塔搭載型は、ポルシェ社がティーガーII向けに設計した砲塔が、ヘンシェル社の車体に先行して製造されていたため、初期の50両に搭載されたものである。しかし、この砲塔は鋳造製であり、避弾経始の面で劣っていたため、すぐに改良型のヘンシェル砲塔に切り替えられた。
設計と特徴[編集]
ティーガーIIの最大の特徴は、その極めて厚い傾斜装甲と強力な主砲である。
装甲[編集]
車体前面は150 mm、砲塔前面は180 mmという厚さの装甲板を、それぞれ50度、10度の傾斜角で配置している。これにより、実質的な装甲厚はさらに増大し、当時のほとんどの対戦車兵器の攻撃を無効化することができた。側面や後面も80 mmと厚く、総合的な防御力は極めて高かった。しかし、装甲の厚さはそのまま車体重量の増大に繋がり、約70トンという破格の重量となった。
武装[編集]
主砲には、8.8 cm KwK 43 L/71が採用された。これは、ティーガーIの主砲である8.8 cm KwK 36 L/56をさらに長砲身化したもので、初速は大幅に向上し、当時の連合国軍のいかなる戦車に対しても有効な貫徹力を持っていた。特に徹甲弾(APCBC)使用時には、2,000 mの距離から150 mmの装甲を貫徹することが可能であった。
副武装として、車体前方の操縦手席右側と主砲と同軸にMG34機関銃またはMG42機関銃を各1挺装備した。
機動力[編集]
エンジンには、ティーガーIやパンターと共通のマイバッハ HL230 P30 液冷V型12気筒ガソリンエンジン(出力700 PS)を搭載した。約70トンという車体重量に対し、エンジンの出力は十分ではなく、整地での最高速度は41.5 km/hに留まり、不整地では15-20 km/h程度であった。また、燃料消費も激しく、行動距離は短かった。
足回りには、ティーガーIと同様にトーションバー・サスペンションを採用し、優れた不整地走行性能を実現した。また、大型の接地圧を低減するための履帯(幅800 mm)を装備していた。
実戦投入[編集]
ティーガーIIの本格的な実戦投入は、1944年のノルマンディー上陸作戦以降である。西部戦線では第503重戦車大隊や第506重戦車大隊などに配備され、ブラストの戦いやアルデンヌ攻勢などで活躍した。特にその強力な主砲と厚い装甲は連合国軍戦車にとって大きな脅威となり、有効な対抗手段が限られていたため、遭遇した連合軍兵士には強い心理的影響を与えた。
しかし、その圧倒的な性能とは裏腹に、その重さゆえの機動力の低さ、機械的な信頼性の低さ、そして生産数の少なさが運用上の大きな制約となった。特にエンジンやトランスミッションの故障が頻発し、戦略的な移動中に放棄された車両も少なくなかった。また、連合国軍の制空権下では、航空機による攻撃の格好の標的となり、破壊されることもあった。
東部戦線でも、1944年のヴィスワ=オーデル攻勢やバラトン湖の戦いなどで投入されたが、ソ連軍の物量に対し、個々の性能差を覆すには至らなかった。
終戦までに生産されたティーガーIIは492両に留まり、戦局を大きく左右するには至らなかった。しかし、その設計思想と性能は、後の冷戦期の戦車開発にも影響を与えたと言われている。
バリエーション[編集]
- ポルシェ砲塔型:初期生産の50両に搭載された砲塔。鋳造製で丸みを帯びた形状が特徴。
- ヘンシェル砲塔型:量産型に搭載された砲塔。圧延鋼板を溶接して作られており、避弾経始が考慮された傾斜装甲が特徴。
豆知識[編集]
- ティーガーIIの「ケーニヒスティーガー」という通称は、ドイツ語で「ベンガルトラ」を意味するが、英語圏では「キングタイガー」と翻訳され、この呼称が広く知られるようになった。
- ティーガーIIは、その開発段階で「ティーガーIII」という名称も検討されていた時期がある。
- ティーガーIIの重さゆえに、一般的な鉄道の貨物輸送では幅が広すぎて積載できないため、輸送時には外側の履帯を外して幅の狭い輸送用履帯に交換する必要があった。
- 戦争末期には、燃料不足と部品不足により、稼働可能なティーガーIIの数は著しく減少した。
- 現在、世界中に現存するティーガーIIは数えるほどしかなく、そのほとんどが博物館に展示されている。特に、フランスのソミュール戦車博物館に展示されている車両は、ほぼ完全に近い状態で保存されていることで有名である。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- グランドパワー編集部『ティーガーII重戦車』デルタ出版、1997年。ISBN 978-4-9900599-4-1。
- 齋木伸生『ティーガーII重戦車 (第二次大戦のドイツ軍用車両)』大日本絵画、2001年。ISBN 978-4-49922757-5。
- トム・イェンツ、ヒラリー・ドイル『ティーガーII 重戦車 1944-1945 (オスプレイ・ミリタリー・モデリング・マニュアル)』大日本絵画、2006年。ISBN 978-4-49922904-3。