センチュリオン (戦車)
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センチュリオン (英語: Centurion) は、第二次世界大戦末期にイギリスで開発された戦車である。大戦後のイギリス陸軍における主力戦車として運用されただけでなく、その堅牢な設計と高い汎用性から、世界各国に輸出され、長期間にわたり運用された傑作戦車として知られる。
開発経緯[編集]
第二次世界大戦中、イギリス軍の戦車は、巡航戦車と歩兵戦車という二つの系統に分かれて開発されてきた。しかし、大戦が進むにつれて、両者の境界は曖昧になり、より高性能で汎用的な「ユニバーサル戦車」の必要性が認識され始めた。
センチュリオンの開発は、1943年にイギリス軍需省が提示した「A41」という要求仕様に基づいて始まった。この要求は、それまでのイギリス戦車が抱えていた装甲防御力、火力、機動性の不足を解消し、ドイツのティーガーIやパンターといった重戦車に対抗できる性能を持つことを目指していた。
初期の設計では、QF 17ポンド砲を主砲とし、分厚い装甲と高い信頼性を持つことが重視された。1944年には最初の試作車が完成し、終戦間際の1945年4月には、ベルリンへ進撃するイギリス軍部隊に6輌の試作車「センチュリオンMk.I」が実戦評価のために送られたが、直接戦闘に参加することはなかった。
特徴[編集]
センチュリオンは、その後の主力戦車の基礎となる多くの特徴を備えていた。
- 強力な火力:初期のQF 17ポンド砲から、より強力なQF 20ポンド砲、そして最終的には世界中の西側諸国で標準となったロイヤル・オードナンス L7 105mmライフル砲へと主砲が換装されたことで、常に最前線の火力を維持した。
- 重厚な装甲:鋳造砲塔と溶接車体を組み合わせた堅牢な装甲は、防御力において当時のトップクラスに属した。特に砲塔前面の装甲厚は、第二次世界大戦期の戦車と比較しても非常に厚いものであった。
- 信頼性の高い走行装置:ホーストマン方式のサスペンションは、複雑な地形でも安定した走行性能を発揮し、高い信頼性を誇った。また、エンジンや変速機も改良が重ねられ、稼働率の高さに貢献した。
- 高い拡張性:センチュリオンは、設計段階から将来的な改良や改修を念頭に置いていたため、新型の主砲やエンジン、補助装備などを容易に搭載することが可能であった。この高い拡張性こそが、センチュリオンが長期間にわたって運用された最大の理由の一つである。
バリエーション[編集]
センチュリオンは、その長い生産期間と運用期間の中で、様々な改修が加えられ、数多くの派生型が生み出された。
- センチュリオン Mk.I:最初の量産型。QF 17ポンド砲を搭載。
- センチュリオン Mk.II:砲塔の改良が行われたタイプ。
- センチュリオン Mk.III:主砲をより強力なQF 20ポンド砲に換装した主力型。センチュリオンの評価を確立したタイプであり、最も多く生産された。
- センチュリオン Mk.5:QF 20ポンド砲を搭載。M1919機関銃を装備。
- センチュリオン Mk.5/1:Mk.5に増加装甲が追加されたタイプ。
- センチュリオン Mk.5/2:Mk.5にロイヤル・オードナンス L7 105mmライフル砲を搭載したタイプ。
- センチュリオン Mk.6:Mk.5/2に改良が加えられたタイプ。
- センチュリオン Mk.7:燃料搭載量が増加されたタイプ。
- センチュリオン Mk.8:砲塔の改良が行われたタイプ。
- センチュリオン Mk.9:Mk.7にL7 105mm砲を搭載。
- センチュリオン Mk.10:Mk.8にL7 105mm砲を搭載。最終生産型の一つ。
- センチュリオン Mk.11:Mk.6/2にL7 105mm砲を搭載。
- センチュリオン Mk.12:Mk.9にL7 105mm砲を搭載。
- センチュリオン Mk.13:Mk.10にL7 105mm砲を搭載。
特殊車両[編集]
- センチュリオン 架橋戦車 (AVLB):架橋装置を搭載したタイプ。
- センチュリオン 装甲回収車 (ARV):故障車両の回収を目的としたタイプ。
- センチュリオン 工兵戦車 (AVRE):工兵任務に特化したタイプ。障害物除去用の装備を搭載。
運用国[編集]
センチュリオンは、その高い性能と汎用性から、世界中の西側諸国で運用された。
イギリス :イギリス陸軍の主力戦車として長期間運用された。
オーストラリア :ベトナム戦争で実戦投入された。
カナダ
デンマーク
エジプト :中東戦争でイスラエル国防軍のセンチュリオンと交戦。
インド :印パ戦争で実戦投入。
イスラエル :「ショット」の名称で大規模な改修が行われ、第三次中東戦争、第四次中東戦争などで活躍。
ヨルダン
オランダ
ニュージーランド
シンガポール
スウェーデン :「Strv 81」、「Strv 101」、「Strv 102」、「Strv 104」などの名称で運用。
スイス
南アフリカ共和国 :「オリファント」として大規模な改修が行われ、現在も運用されている。
実戦での活躍[編集]
センチュリオンは、その長期間の運用の中で、様々な紛争や戦争で実戦を経験した。
- 朝鮮戦争:イギリス陸軍のセンチュリオンMk.IIIが投入され、国連軍の主要な戦車として活躍した。その重装甲と火力は、T-34/85などのソ連製戦車に対して優位性を示した。
- ベトナム戦争:オーストラリア陸軍のセンチュリオンMk.5が投入され、ジャングルでの戦闘や拠点防衛に貢献した。
- 中東戦争:イスラエル国防軍の「ショット」として、第三次中東戦争や第四次中東戦争で活躍した。特に第四次中東戦争のゴラン高原の戦いでは、シリア軍のT-55やT-62を相手に多大な戦果を挙げ、その性能と乗員の練度の高さが証明された。南アフリカのオリファントもアンゴラ内戦で活躍した。
- 印パ戦争:インド軍のセンチュリオンとパキスタン軍のM48パットンが交戦し、センチュリオンが優位に立ったとされる。
豆知識[編集]
- センチュリオンは、元々「巡航戦車」と「歩兵戦車」のギャップを埋める「ユニバーサル戦車」というコンセプトで開発されました。このコンセプトは、後の「主力戦車」という概念の礎となりました。
- スウェーデンが運用したセンチュリオンは、非常に寒冷な気候に対応するために、様々な独自改修が施されました。特に、Strv 104は、イスラエルで開発されたショット・カルと同様の改良が加えられています。
- 南アフリカのオリファントは、現在でも運用されているセンチュリオンの最も近代的な派生型の一つです。エンジン換装や火器管制装置の近代化など、大幅な改修が施されています。
- センチュリオンは、その頑丈な構造から、戦車以外の様々な用途にも転用されました。例えば、スウェーデンではStridsvagn 103(Sタンク)の開発に際し、センチュリオンのサスペンションを流用した試作車両が作られました。
関連項目[編集]
- 主力戦車
- イギリス陸軍
- QF 20ポンド砲
- ロイヤル・オードナンス L7
- ショット (戦車)
- オリファント (戦車)
- チャレンジャー2 (イギリスの現用主力戦車)
- ユニバーサル戦車
参考書籍 (国内)[編集]
- 齋木伸生 『世界の戦車パーフェクトBOOK』 コスミック出版、2021年。ISBN 978-4-7747-9208-8。
- 田中義夫 『世界のMBT開発と戦術』 大日本絵画、2006年。ISBN 978-4-499-22923-0。
- 月刊PANZER編集部 『世界の戦車 FILE』 ㈱アルゴノーツ、2021年。ISBN 978-4-910300-36-8。