グランドール (漫画)

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グランドール』(英語: Grand Dolls)は、宇宙人による地球侵略を題材とした手塚治虫のSF漫画作品。

概要[編集]

少年ブック』(集英社)において1968年1月号から同年9月号まで連載された。

アメリカ合衆国における赤狩りによる風潮を描いた小説『盗まれた街』(1955年ジャック・フィニイ)が本作の発想のヒントとなっている。この小説は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956年)、『SF/ボディ・スナッチャー』(1978年)、『ボディ・スナッチャーズ』(1993年)、『インベージョン』(2007年)とたびたび映画化、リメイク映画化されている。主人公自身が「自分も人形ではないか」と恐れるという設定は手塚によるオリジナルである。

本作が連載された1968年は日本において全学共闘会議(全共闘)による武装闘争が激しい時代でもあった。その反動から1970年代に入ると、学生たちの間に虚無的な気分が広がり、三無主義(無気力、無関心、無責任)、しらけ世代となるわけだが、本作はその時代を先取りしているとも言える。

あらすじ[編集]

中学生・宇津木哲男・通称「テッチン」は、ある日、帰宅途中で女の子が殺されているのを発見する。しかし、テッチンが交番に知らせに行き、警官と共に戻ってくると女の子の姿は消えていて、代わりに道には奇妙な人形が落ちていた。テッチンが人形を持ち帰り、壊れているところを修理すると、人形は死んでいたはずの女の子になった。葉子は自分が「グランドール」という人形で、テッチンもグランドールだと告げた。

人形のグランドールは、首をこすると人間や馬の姿になり、首に傷をつけると人形に戻るのだった。地球侵略を企む宇宙人によってグランドールは既に大量にばらまかれている。グランドールが化けた人間には、「他人の意見に従ってしまいがちな性格」という共通点があった(これはテッチンの性格にも該当した)。グランドールは人間社会に紛れ込んで普通の生活を送っているが、なんらかのデモを行っている時に宇宙人が発する電波を受けると、一斉に行動を起こし、暴動を起こさせせる。宇宙人は地球人同士が憎み合うような状況をつくりだそうとしていたのだった。そして、このやり方は中華人民共和国ベトナムで既に成功を収めているのだという。

テッチンは自分もグランドールかも知れないという不安を持ちながらも、新聞記者の父やグランドールである柏葉子と協力して宇宙人に戦いを挑む。

テッチンの母親も学校の先生もクラス委員も既にグランドールに取って代わられていた。テッチンは自分はグランドールではないと、自分の意志を鍛えるために空手部に入部し、主将の猿丸に鍛えてもらう。そして猿丸もグランドールと戦う仲間に加わった。

1ヶ月後にグランドールたちが大規模なデモを行うことを知ったテッチンたちは、このデモを阻止することを計画する。首に傷をつけると人形に戻る。このときの傷は針で突いたような傷でも良かった。そこでテッチンたちはデモ隊の中にミツバチの大群を落すことを思い付き、デモの当日に空からミツバチの養蜂箱を落とした。デモに参加していたグランドール、3000人ほどが人形に戻り、計画は阻止された。

テッチンと葉子は宇宙人の円盤の中へと案内される。円盤の中で宇宙人の「マスター」と話をするが、マスターはただのコンピューターであり、葉子こそが宇宙人であったのだ。葉子は地球人の一固体と接触するためにテッチンに近づき、またテッチンがグランドールであるということも嘘であった。テッチンは円盤を破壊して逃げ出した。

こうして宇宙人の侵略は阻止され、地球には平和が戻った。次の宇宙人の「マスター」が来るまでの間は。

登場人物[編集]

宇津木 哲男(うつぎ てつお)
通称「テッチン」。
主体性がなく、気弱であり人に意見することもない中学生。
哲男の父親
文化大革命の始まった1966年に中国に特派員として派遣され、翌年に強制退去となった。
文革のデモの後に奇妙な人形(後にグランドールの人形と判る)を拾い、帰国した際の空港近くのデモの後でも同様の人形を拾う。
柏 葉子(かしわ ようこ)
テッチンのクラスに転入してきた女生徒。テッチンが修理したグランドールである。
テッチンに助けられたということで、テッチンに協力するようになる。
本作のヒロインであるが、あらすじでも書かれているように「普通の女の子」ではない。手塚はもともと中性的なキャラクターや非人間的存在を魅力的な絵として表現することに長けていたのであるが、葉子もまた『W3ワンダー・スリー』のボッコ隊長(ウサギ型のヒロイン)に通じる非人間的ヒロインである[1]
猿丸(さるまる)
テッチンの通う学校の空手部主将。グランドールではなく、テッチンに協力する。
実家は養蜂を営んでいる。

脚注[編集]

  1. 鳴海丈 「人間ならざるもの、に愛を叫ぶ!」『「萌え」の起源 :時代小説家が読み解くマンガ・アニメの本質』 PHP研究所2009年。ISBN 978-4569709864

外部リンク[編集]