OV-10ブロンコ 軽攻撃機/観測機/前線航空管制機
ノースアメリカン OV-10 ブロンコ(North American OV-10 Bronco)は、アメリカ合衆国のノースアメリカン・アビエーション(後にロックウェル・インターナショナルに統合)が開発した双発ターボプロップの軽攻撃機・観測機である。その特徴的な双胴の設計は、短距離離着陸(STOL)性能と優れた視界を提供し、対ゲリラ戦や前線航空管制(FAC)任務において多大な貢献を果たした。
概要[編集]
OV-10は、1960年代初頭にアメリカ軍が求めていた軽武装偵察機(LARA:Light Armed Reconnaissance Aircraft)の要求に基づいて開発された。これは、ベトナム戦争のような低強度紛争において、ジェット戦闘機では対応が困難な対地攻撃や偵察任務、そしてヘリコプターの護衛、前線航空管制といった多岐にわたる任務を効率的にこなせる航空機が求められていたためである。
ノースアメリカン社は、この要求に対し、双胴式に主翼とエンジン、そして尾翼を配置し、中央にコックピットと貨物室を持つ独創的な設計を提案した。この設計は、後部貨物室へのアクセスを容易にし、兵員の輸送や物資の投下も可能にした。また、低速での安定した飛行性能と優れた視界は、地上部隊との連携や精密な対地攻撃に不可欠な要素であった。
ブロンコは、その頑丈な構造と高い survivability(生存性)も特筆される。双発エンジンのうち一方が停止しても飛行を継続できるほか、乗員保護のための装甲も施されていた。
開発[編集]
LARA計画は、1963年にアメリカ海軍が発出した要求に端を発する。この要求に対し、ベル・ヘリコプター、グッドイヤー、ヒューズ・エアクラフト、マーチン・マリエッタ、ノースアメリカン、グラマンといった複数の航空機メーカーが提案を行った。最終的に、ノースアメリカン社の提案が選定され、1964年8月に7機の試作機YOV-10Aの製造契約が結ばれた。
初飛行は1965年7月16日に行われ、その後の試験飛行で高い評価を得た。当初、海軍はOV-10の導入に積極的であったが、アメリカ空軍もその汎用性の高さに注目し、最終的には両軍での採用が決定した。空軍向けの機体はOV-10Aとして、海兵隊向けの機体はOV-10Aとしてそれぞれ生産された。
設計[編集]
OV-10の最大の特徴は、その双胴式の機体構造にある。中央胴体には2名の乗員がタンデムに配置されるコックピットと、最大で5名の武装兵員を収容できる貨物室が設けられている。主翼は高翼配置で、両翼端には垂直尾翼と水平尾翼を繋ぐように伸びる双胴が取り付けられ、その先端にエンジンナセルが配置されている。
主翼下にはハードポイントが設けられており、ロケット弾ポッド、ガンポッド、爆弾、増槽などを搭載することが可能である。また、固定武装として、胴体下部には4門のM60機関銃が装備されている。
低速での高い安定性と優れた操縦性は、不整地滑走路からの離着陸を可能にし、最前線での運用を可能にした。また、分解してC-130輸送機で空輸することも可能であり、迅速な展開能力も備えていた。
運用[編集]
OV-10ブロンコは、ベトナム戦争においてその真価を発揮した。アメリカ海兵隊は1968年から実戦配備を開始し、主に前線航空管制(FAC)任務、武装偵察、軽攻撃、ヘリコプター護衛などに使用した。その低速飛行能力と優れた視界は、樹木が密生したジャングル地帯での目標発見や友軍への精密な航空支援において非常に有効であった。
アメリカ空軍でもOV-10は活用され、同様の任務に加え、捜索救難(SAR)活動における目標指示などにも従事した。また、アメリカ海軍は特殊作戦支援のために少数を運用した。
ベトナム戦争終結後も、OV-10は世界各地で運用され続けた。フィリピン空軍は対ゲリラ作戦に、タイ空軍も国境警備などに使用した。ドイツ空軍は、標的曳航機としてOV-10Bを運用した。
湾岸戦争においても、少数のOV-10が前線航空管制任務に投入されたが、ジェット戦闘機が主流となる中、その役割は徐々に縮小していった。しかし、近年では低強度紛争におけるCOIN(対反乱)機としての価値が再評価され、一部の民間企業や政府機関によって運用されている例もある。
バリエーション[編集]
- YOV-10A:試作機。7機製造。
- OV-10A:初期生産型。アメリカ空軍と海兵隊向け。
- OV-10B:ドイツ空軍向け標的曳航機型。中央胴体に標的曳航装置を装備。
- OV-10C:タイ空軍向けOV-10A相当の輸出型。
- OV-10D:夜間・悪天候下での偵察・攻撃能力を向上させた発展型。機首にFLIR(前方監視赤外線装置)を装備。
- OV-10D+:OV-10Dのさらなる改修型。
- OV-10E:ベネズエラ空軍向けOV-10A相当の輸出型。
- OV-10F:インドネシア空軍向けOV-10A相当の輸出型。
- OV-10G:近年の改修計画において提案された型式。
- OV-10M:フィリピン空軍による独自の改修型。
- OV-10N:ベネズエラ海軍航空隊向け。
- OV-10P:フィリピン空軍向け。
- OV-10R:近代化改修計画で提案された型式。
- OV-10S:ドイツ空軍のOV-10Bを改装した型。
- OV-10X:近年、アメリカ海兵隊が検討していた新型COIN機計画の名称。
諸元 (OV-10A)[編集]
- 乗員: 2名
- 全長: 12.67 m
- 全幅: 12.19 m
- 全高: 4.62 m
- 翼面積: 29.1 m²
- 空虚重量: 3,127 kg
- 最大離陸重量: 6,552 kg
- エンジン: ギャレット T76-G-416/417 ターボプロップエンジン × 2
- 出力: 各715 hp (533 kW)
- 最大速度: 463 km/h
- 巡航速度: 343 km/h
- 航続距離: 2,224 km (フェリー時)
- 実用上昇限度: 7,620 m
- 上昇率: 11.8 m/s
- 固定武装: M60機関銃 4門 (7.62mm)
- ハードポイント: 5箇所 (主翼下各2箇所、胴体下1箇所)
- 搭載可能武装: 最大1,633 kg
- ロケット弾: ハイドラ70ロケット弾、ズーニーロケット弾
- 爆弾: Mk 82、Mk 83、Mk 84、クラスター爆弾
- ガンポッド: SUU-11/A (M134機関銃搭載)
- 搭載可能武装: 最大1,633 kg
豆知識[編集]
- OV-10は、その独特な形状から「ブロンコ」(野生の馬)という愛称がつけられた。
- ベトナム戦争では、パイロットたちはOV-10を「ライトニング・ボルト」(雷光)と呼ぶこともあった。
- アメリカ航空宇宙局(NASA)は、高高度観測や研究のために改造されたOV-10を運用している。
- かつて、カリフォルニア州の山火事消火活動において、OV-10が空中消火のために使用されたことがある。
- 現在でも、特定の民間警備会社や政府機関がOV-10を運用しており、その堅牢性と低運用コストが評価されている。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 『世界の傑作機 No.108 ノースアメリカン OV-10 ブロンコ』文林堂、2005年。ISBN 978-4-89319-122-6。
- 『ミリタリー・エアクラフト No.119 世界の軍用機 2011-2012』イカロス出版、2011年。ISBN 978-4-86320-459-7。