シコルスキー H-19A チカソー

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シコルスキー H-19 チカソー(Sikorsky H-19 Chickasaw)は、シコルスキー・エアクラフト社が開発した多目的ヘリコプターである。その堅牢性と汎用性により、軍用および民間において広く運用された。愛称の「チカソー」は、ネイティブ・アメリカンチカソー族に由来する。

開発[編集]

H-19の開発は、第二次世界大戦後のヘリコプター技術の進歩を背景に進められた。シコルスキー社は、より大型で多用途性のあるヘリコプターの需要に応えるため、社内名称シコルスキー S-55として開発に着手した。1949年11月10日に初飛行に成功。その革新的な設計は、特に前方配置のエンジンと、その後の整備性を考慮したレイアウトにあった。これにより、重心を最適化し、キャビンのスペースを最大化することに成功した。

設計[編集]

H-19は、単一のメインローターとテールローターを持つオーソドックスなヘリコプターの構成をとるが、その設計にはいくつかの特徴があった。エンジンは機体の前方に配置され、シャフトを介してメインローターを駆動する方式が採用された。この配置は、キャビンの床下を完全に貨物や兵員輸送のためのスペースとして利用することを可能にした。初期型ではプラット・アンド・ホイットニー R-1340星型エンジンを搭載し、後にはより強力なエンジンも搭載された。機体は全金属製で、堅牢な構造を持っていた。

運用[編集]

H-19は、その優れた性能と汎用性から、アメリカ軍の各軍種に採用された。

アメリカ陸軍[編集]

アメリカ陸軍では、主として兵員輸送、負傷兵の後送(MEDEVAC)、物資輸送などに用いられた。特に朝鮮戦争において、その価値を証明した。険しい山岳地帯や未舗装地での運用において、H-19は従来の輸送手段では困難だった任務を遂行し、多くの兵士の命を救った。陸軍での最終的な退役は1969年である。

アメリカ空軍[編集]

アメリカ空軍では、捜索救難(SAR)任務を中心に運用された。遭難したパイロットの救出や、僻地への物資投下など、その多様な任務に対応した。また、V.I.P.輸送にも用いられた。

アメリカ海軍・アメリカ海兵隊[編集]

アメリカ海軍およびアメリカ海兵隊では、対潜哨戒、輸送、捜索救難など、艦載ヘリコプターとしても運用された。限られた甲板スペースでの運用を考慮し、ローターブレードの折り畳み機構を持つ機体も存在した。

アメリカ沿岸警備隊[編集]

アメリカ沿岸警備隊では、海上での捜索救難、パトロールなどに活用された。

その他の国々[編集]

H-19は、アメリカのみならず、フランスイギリス日本カナダなど、世界中の多くの国々で運用された。自衛隊でも、その初期にH-19のライセンス生産型である川崎 KV-107(S-55を基にした機体)が導入された。

派生型[編集]

シコルスキー S-55シリーズは、多数の派生型が存在する。

  • XH-19:原型機。
  • H-19A:初期生産型。プラット・アンド・ホイットニー R-1340-57星型エンジン(600 hp)を搭載。アメリカ空軍向けの型式。
  • H-19B:エンジンをライト R-1300-3星型エンジン(700 hp)に換装した改良型。
  • H-19C:アメリカ海兵隊向け。
  • HO4S:アメリカ海軍およびアメリカ沿岸警備隊向けの型式。
  • HRS:アメリカ海兵隊向けの型式。
  • S-55:シコルスキー社による民間型。
  • H-19Dライト R-1300-3A星型エンジン(700 hp)を搭載した改良型。
  • WAS-55ウエストランド・エアクラフトによるライセンス生産型。
  • WS-55 シリーズ3:イギリス空軍および海軍で使用されたウエストランド製の改良型。

仕様 (H-19D)[編集]

  • 乗員: 2名
  • 乗客: 10名
  • 全長: 12.88 m
  • メインローター直径: 16.16 m
  • 全高: 4.09 m
  • 空虚重量: 2,177 kg
  • 最大離陸重量: 3,402 kg
  • エンジン: ライト R-1300-3星型エンジン 1基 (出力 700 hp)
  • 最大速度: 163 km/h
  • 巡航速度: 145 km/h
  • 航続距離: 652 km
  • 実用上昇限度: 3,260 m
  • 上昇率: 3.55 m/s

豆知識[編集]

  • H-19は、ヘリコプターが戦場で果たしうる役割を大きく広げた機体の一つである。その実用性と信頼性は、その後のヘリコプター開発に大きな影響を与えた。
  • その独特なエンジンの配置は、整備士にとって非常に作業しやすいものとして評価された。
  • H-19は、グレート・ブリテン島からアイルランドへの初のヘリコプターによる単独無着陸飛行を達成した機体でもある。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 『世界の傑作機 No.155 シコルスキーS-55/H-19』文林堂、2013年。
  • 『ミリタリー・エアクラフト・データファイル』イカロス出版、2009年。