F-80 シューティングスター
F-80は、ロッキード社が開発し、アメリカ陸軍航空軍(後にアメリカ空軍)で運用された初期のジェット戦闘機である。愛称は「シューティングスター(Shooting Star、流星)」。第二次世界大戦末期に開発され、実戦配備された最初期のジェット戦闘機の一つであり、その後のジェット戦闘機の発展に大きな影響を与えた機体として知られる。
開発経緯[編集]
F-80の開発は、第二次世界大戦中の1943年、ドイツやイギリスにおけるジェット機開発の情報を得たアメリカ合衆国が、これに対抗する国産ジェット戦闘機の必要性を認識したことに始まる。当時、アメリカの航空機メーカーはまだジェットエンジンの開発経験が浅く、ロッキード社のケリー・ジョンソン率いるスカンクワークスが中心となって開発が進められた。
当初、イギリスから供給されたデ・ハビランド ゴブリンエンジンを搭載する計画であったが、開発の途中でより強力なゼネラル・エレクトリック製のGE J33エンジンに変更された。試作機であるXP-80は1944年1月8日に初飛行を成功させ、その性能は当時のレシプロ戦闘機を遥かに凌駕するものであった。
しかし、エンジンの供給遅延や機体の改良に時間を要し、量産型のP-80Aが部隊配備されたのは第二次世界大戦終結直前の1945年8月以降となったため、終戦までに実戦参加する機会はなかった。
構造と特徴[編集]
F-80は、直線翼を持つ単座のジェット戦闘機であり、当時のジェット機としては一般的な機体構造であった。空気取り入れ口は胴体両側面に設けられ、エンジンは胴体中央部に配置されていた。
主な特徴としては、以下の点が挙げられる。
- 堅牢な構造:初期のジェット機でありながら、堅牢な構造を持ち、高い信頼性を誇った。
- 良好な操縦性:レシプロ機からの転換が比較的容易な、良好な操縦特性を有していたとされる。
- 武装:機首に12.7mm機関銃を6門装備し、初期のジェット機としては十分な攻撃力を持っていた。後に、ロケット弾や航空爆弾の搭載も可能となった。
- 増槽:航続距離を延長するため、翼端に増槽を装備することが可能であった。これは、その後のジェット戦闘機の標準的な装備となった。
運用と実戦[編集]
F-80は、当初P-80として制式採用されたが、1948年にアメリカ空軍が独立組織となった際に、戦闘機を表す記号が「P」(Pursuit)から「F」(Fighter)に変更されたことに伴い、F-80と改称された。
本格的な実戦投入は、1950年に勃発した朝鮮戦争においてである。F-80は、初期の航空戦においてMiG-15などのソ連製ジェット戦闘機と交戦したが、直線翼であるF-80は、後退翼を持つMiG-15に対して速度性能で劣勢に立たされた。この経験が、アメリカ空軍における後退翼機の開発を加速させる要因となった。
しかし、F-80はジェット戦闘機としての基本的な能力に加え、対地攻撃機としても有効に活用された。地上支援任務において、搭載能力と信頼性を活かして多くの戦果を挙げた。また、写真偵察機型のRF-80や、複座練習機型のT-33 シューティングスターも開発され、特にT-33は世界中で広く運用されたベストセラー機となった。
派生型[編集]
- XP-80:試作機。
- P-80A:初期量産型。後にF-80Aに改称。
- P-80B:エンジンの換装など改良が施された型。後にF-80Bに改称。
- P-80C:最終生産型。エンジンをJ33-A-35に換装し、性能が向上した。後にF-80Cに改称。
- RF-80:偵察機型。
- F-14 (航空機)|QF-80:無人標的機型。
- T-33 シューティングスター:複座練習機型。F-80をベースに開発された。
主要諸元(F-80C)[編集]
- 乗員: 1名
- 全長: 10.49 m (34 ft 5 in)
- 全幅: 12.19 m (40 ft 0 in)
- 全高: 3.43 m (11 ft 3 in)
- 翼面積: 22.07 m² (237.5 sq ft)
- 空虚重量: 3,799 kg (8,379 lb)
- 最大離陸重量: 7,646 kg (16,856 lb)
- エンジン: アリソン J33-A-35 ターボジェットエンジン ×1
- 推力: 24.0 kN (5,400 lbf)
- 最大速度: 933 km/h (580 mph)
- 航続距離: 2,052 km (1,275 mi)
- 実用上昇限度: 14,200 m (46,500 ft)
- 上昇率: 29.8 m/s (5,870 ft/min)
- 武装:
- 固定武装: 12.7mm機関銃 ×6門
- ハードポイント: 翼下2箇所、最大907 kg (2,000 lb)の爆弾またはロケット弾を搭載可能
豆知識[編集]
- F-80は、アメリカ初の量産型ジェット戦闘機である。
- 冷戦初期において、アメリカ空軍の主力戦闘機として重要な役割を担った。
- T-33練習機は、その優れた基本設計と信頼性から、世界中の空軍で長期間にわたって運用された。
- 朝鮮戦争におけるMiG-15との交戦経験は、アメリカの航空機開発に大きな影響を与え、F-86 セイバーの開発を促進する要因となった。
- ロッキード社のテストパイロット、ミロ・バーナムがXP-80で初飛行を行った。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 『世界の傑作機 No.108 ロッキード F-80 シューティングスター』文林堂、2005年。
- 『世界の航空機 1950年版』イカロス出版、2000年。
- 『航空ファン別冊 航空自衛隊50年史』文林堂、2004年。