B-52 ストラトフォートレス
B-52 ストラトフォートレス(英語: B-52 Stratofortress)は、アメリカのボーイング社が開発した長距離戦略爆撃機である。その愛称「ストラトフォートレス」は、「成層圏の要塞」を意味する。冷戦期の核抑止戦略の要として開発され、登場から70年以上が経過した現在でも、近代化改修を重ねながらアメリカ空軍の主要な爆撃機として運用され続けている。
概要[編集]
B-52は、ソビエト連邦の脅威に対抗するための長距離核攻撃能力を確保する目的で開発が開始された。初期の設計では直線翼のターボプロップエンジン機が検討されたが、最終的には後退翼と8基のジェットエンジンという、当時としては画期的な設計が採用された。この設計は、高高度・高速での侵攻能力を重視したものであった。
初飛行は1952年4月15日。最初の量産型であるB-52Aは1954年に初飛行し、1955年3月に戦略航空軍団に配備が開始された。以降、B-52は様々な派生型が開発され、合計744機が製造された。特に最終生産型であるB-52Hは、エンジンをターボファンエンジンに換装し、航続距離と燃費性能が大幅に向上したことで、現在も主力として運用されている。
開発経緯[編集]
第二次世界大戦終結後、アメリカ陸軍航空軍(後にアメリカ空軍として独立)は、ソビエト連邦との潜在的な紛争に備え、長距離爆撃機の必要性を認識していた。初期の研究は1946年に開始され、当初はB-36の後継機として、最大速度480km/h、航続距離16,000kmの性能を持つ機体が求められた。
当初ボーイングは、直線翼のターボプロップ爆撃機、モデル462を提案したが、これは当時のジェットエンジンの急速な発展を鑑み、再検討を迫られた。特に、1947年のXB-47の初飛行は、後退翼ジェット機の実用性を示し、B-52の設計にも大きな影響を与えた。
1948年10月には、ボーイングの設計チームは、後退翼と8基のジェットエンジンを搭載する設計案、モデル464-35を提示。これは陸軍航空軍の要求を満たすものとされ、1949年にはXB-52およびYB-52の試作機2機の製造が承認された。開発は順調に進み、XB-52は1952年4月15日に初飛行を果たした。
機体と特徴[編集]
B-52は、その巨大な機体と8基のエンジンが特徴である。初期のA型からG型まではプラット・アンド・ホイットニー J57ターボジェットエンジンを搭載していたが、最終生産型のH型ではプラット・アンド・ホイットニー TF33ターボファンエンジンに換装された。この変更により、燃費効率と航続距離が大幅に向上した。
主翼は大きな後退角を持ち、高高度での高速飛行に適している。翼下には4基のエンジンポッドが左右に2基ずつ配置されており、それぞれ2基のエンジンを内蔵している。また、主翼の先端には、着陸時に姿勢を安定させるための小型の補助輪(アウトトリガーギア)が格納されている。
兵装は当初、機体内部の爆弾倉に核爆弾を搭載することを主眼としていたが、運用中に conventional bomb(通常爆弾)の搭載能力も強化された。特に、ベトナム戦争では、多数の通常爆弾を搭載し、絨毯爆撃に投入された。近年では、巡航ミサイルの搭載能力も付与され、長距離からの精密攻撃が可能となっている。
乗員は当初6名(機長、副操縦士、航法士、レーダー航法士、電子戦士官、銃手)であったが、G型以降は後部銃座の廃止に伴い5名となった。
主要な派生型[編集]
B-52は、その長期間の運用の中で様々な派生型が開発された。
- B-52A:最初の生産型。3機製造。
- B-52B:戦略航空軍団に初めて配備された実戦型。偵察能力を持つRB-52Bも存在した。
- B-52C:燃料搭載量を増強し、航続距離を延伸。
- B-52D:通常爆弾の搭載能力を強化した型。ベトナム戦争で多用された。
- B-52E:航法・爆撃システムの改良型。
- B-52F:新型エンジン(J75)を搭載した型。
- B-52G:燃料容量を大幅に増強し、航続距離を延伸。後部銃座のリモート操作化。
- B-52H:TF33ターボファンエンジンを搭載し、燃費と航続距離が向上。現在も運用されている最新型。
戦歴[編集]
B-52は、冷戦期を通じて核抑止の重要な役割を担った。常に空中待機体制を維持し、ソビエト連邦への即時報復攻撃能力を示威した。
- ベトナム戦争:B-52の本格的な実戦投入はベトナム戦争であった。特にラインバッカー作戦では、北ベトナムへの大規模な絨毯爆撃を実施し、その破壊力を見せつけた。
- 湾岸戦争:1991年の湾岸戦争では、通常爆弾による精密攻撃や、空中発射巡航ミサイルの発射プラットフォームとして運用された。
- アフガニスタン紛争、イラク戦争:これらの紛争でも、B-52は長距離からの精密攻撃や、地上部隊への近接航空支援に投入された。
現在も、B-52は「継続的な爆撃機プレゼンス」の一環として、世界各地に展開し、有事の際の即応体制を維持している。
今後の展望[編集]
B-52Hは、その登場から長い年月が経過しているにもかかわらず、現在も運用が継続されており、今後も2050年代まで運用される見込みである。これは、機体の堅牢な設計と、度重なる近代化改修によって、最新の兵装やシステムに対応できる柔軟性を持っているためである。
主な近代化改修としては、新型エンジンの換装、アビオニクスの更新、兵装搭載能力の拡充などが計画されている。これにより、B-52は、B-2 スピリットやB-21 レイダーといった新型爆撃機とともに、アメリカ空軍の爆撃機戦力の一翼を担い続けることとなる。
豆知識[編集]
- B-52の愛称「ストラトフォートレス」は、B-17 フライングフォートレスやB-29 スーパーフォートレスといったボーイング製爆撃機の伝統を受け継ぐものである。
- B-52は、その長大な航続距離と滞空時間の長さから、空中給油なしで世界一周飛行を成功させた実績を持つ。
- B-52のコックピットは非常に広く、初期の型では「空飛ぶマンション」とも評された。
- 映画『博士の異常な愛情』では、核攻撃を行うB-52が登場し、冷戦期の恐怖を象徴する存在として描かれた。
関連項目[編集]
- 戦略爆撃機
- アメリカ空軍
- ボーイング
- 冷戦
- 核抑止
- B-17 フライングフォートレス
- B-29 スーパーフォートレス
- B-2 スピリット
- B-21 レイダー
- KC-135 ストラトタンカー (B-52の空中給油機として運用)
参考書籍[編集]
- 『世界の傑作機 No.155 B-52 ストラトフォートレス』文林堂、2013年。
- 青木謙知『軍用機 ウェポン・システム事典』イカロス出版、2021年。
- 『航空ファン増刊 世界の戦略爆撃機』文林堂、各号。