スペースシャトル・オービター

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スペースシャトル・オービター(英語: Space Shuttle orbiter)は、NASAスペースシャトル計画で使用された、再使用型の宇宙往還機である。その特徴的なデルタ翼と双垂直尾翼は、地球の大気圏内での飛行性能を確保し、ロケットのように垂直に打ち上げられ、航空機のように水平に着陸するという、当時の宇宙開発における画期的な運用を可能にした。

概要[編集]

スペースシャトル・オービターは、スペースシャトル全体の構成要素の一つであり、外部燃料タンク(ET)と固体ロケットブースター(SRB)と共に打ち上げられた。ETとSRBは使い捨てであったのに対し、オービターは再使用を前提として設計されており、複数回の宇宙飛行を行うことが可能であった。この再使用性は、宇宙へのアクセスをより安価かつ効率的にするというスペースシャトル計画の主要な目標の一つであった。

オービターの主な役割は、ペイロードの輸送、宇宙空間での科学実験の実施、人工衛星軌道への投入・回収、そしてISSへの人員および物資の輸送であった。貨物室(ペイロードベイ)は大型の宇宙構造物を搭載できる容量を持ち、カナダアームRMS)と呼ばれるロボットアームが装備されていた。

設計と構造[編集]

オービターは、その設計において航空宇宙工学の最先端技術が投入された。機体は主にアルミニウム合金製であり、極度の高温に耐えるための耐熱タイルとブランケットで覆われていた。これらの耐熱システムは、大気圏再突入時の2,000°Cにも達する熱から機体を保護する上で不可欠であった。

オービターは大きく分けて、以下の主要なセクションから構成されていた。

  • 前方胴体(フォワード・フューセラージ)コックピット居住区画、そして航法装置などが配置されていた。コックピットは操縦士、副操縦士、ミッションスペシャリストが搭乗し、飛行制御、システム監視、ペイロード操作などを行った。
  • 中間胴体(ミッド・フューセラージ):主にペイロードベイが収められていた部分である。大型の宇宙望遠鏡宇宙ステーションのモジュールなどを搭載することができた。
  • 後方胴体(アフター・フューセラージ):主要な推進システム、すなわち3基のSSME(Space Shuttle Main Engine)とOMS(Orbital Maneuvering System)エンジンが格納されていた。SSMEは打ち上げ時に使用され、OMSは軌道上での姿勢制御や軌道変更、大気圏離脱(デオービット)噴射に使用された。

主要オービター[編集]

スペースシャトル計画では、合計6機のオービターが製造された。そのうち5機が飛行可能な機体であり、1機は試験用の機体であった。

運用とミッション[編集]

スペースシャトル・オービターは、1981年のコロンビア号の初飛行から2011年のアトランティス号の最終飛行まで、30年間にわたり運用された。この間、合計135回のミッションが実施された。

主なミッション内容は以下の通りである。

  • ハッブル宇宙望遠鏡の展開と修理:地球軌道上に宇宙望遠鏡を展開し、その後の故障時には宇宙飛行士による船外活動で修理が行われた。
  • 国際宇宙ステーションの建設と補給:ISSの各モジュールやトラス構造を軌道上に運び、組み立てる上で不可欠な役割を担った。また、ISSへの宇宙飛行士の交代や物資の補給も行った。
  • 科学実験:微小重力環境下での物理学、生物学、医学などの多岐にわたる科学実験がペイロードベイやスペースラブモジュール内で行われた。
  • 軍事衛星の打ち上げ:初期には、アメリカ国防総省の依頼により、軍事衛星の打ち上げも行われた。
  • 地球観測ミッション:地球の気象気候変動地質調査などを目的とした観測機器が搭載された。

退役とその後[編集]

スペースシャトル計画は、2003年のコロンビア号事故と、それに続くコストと安全性の問題から、2011年にその歴史に幕を閉じた。残されたオービターは、それぞれアメリカ国内の博物館や科学センターに展示されている。

これらのオービターは、宇宙開発史における重要な遺産として、一般に公開されており、多くの人々に宇宙への夢と科学技術の進歩を伝えている。

豆知識[編集]

  • スペースシャトル・オービターの「スペースシャトル」という名称は、宇宙と地球の間を行き来する「シャトルバス」のような役割を果たすという意味合いが込められている。
  • オービターの耐熱タイルは、手作業で一枚一枚貼り付けられていた。その数は3万枚にも及ぶ。
  • オービターのコックピットには、航空機のような操縦桿ではなく、ジョイスティックに似た「ハンドコントローラー」が備えられていた。
  • 最も長い飛行ミッションは、コロンビア号によるSTS-80ミッションで、17日と15時間を超えた。

関連項目[編集]