M142 ハイマース 高機動ロケット砲システム

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M142 高機動ロケット砲システム(M142 High Mobility Artillery Rocket System、略称: HIMARS、ハイマース)は、アメリカ合衆国が開発した自走式多連装ロケットシステムである。軽量かつ高い機動性を特徴とし、迅速な展開と精密な火力支援能力を提供する。

概要[編集]

HIMARSは、MLRS(Multiple Launch Rocket System)ファミリーの一員として開発された。MLRSがM270履帯式車体を使用するのに対し、HIMARSはより軽量なFMTV(Family of Medium Tactical Vehicles)中型戦術車両の6輪シャーシを基にしている。これにより、輸送機による空輸が可能となり、戦略的・戦術的な展開能力が大幅に向上した。

HIMARSは、1個のロケットポッドを搭載し、M270 MLRSが搭載する2個のポッドの半分の火力を持つ。しかし、その軽量性により、C-130 ハーキュリーズなどの輸送機で運搬できるため、迅速な展開が求められる現代の紛争において非常に有効な兵器となっている。射撃管制システムはM270 MLRSと共通化されており、高い相互運用性を持つ。

開発経緯[編集]

HIMARSの開発は、1990年代後半にアメリカ陸軍の要求に基づき、ロッキード・マーティン社によって開始された。当時のアメリカ陸軍は、より軽量で空輸可能な精密誘導兵器システムを求めていた。これにより、迅速な展開が可能となり、グローバルな紛争に対応できる能力の獲得を目指した。

2000年に最初のプロトタイプが製造され、試験が開始された。HIMARSは、MLRSの技術を応用しつつ、より小型で機動性の高いプラットフォームに統合することに成功した。2005年に初期運用能力を獲得し、アメリカ陸軍に配備が開始された。その後、アメリカ海兵隊にも採用され、各国への輸出も積極的に行われている。

特徴[編集]

HIMARSの主な特徴は以下の通りである。

  • 高い機動性: FMTVのシャーシを使用することで、オンロード・オフロード双方で高い機動性を発揮する。また、最高速度は85 km/hに達する。
  • 空輸能力: C-130 ハーキュリーズ輸送機による空輸が可能であり、迅速な戦略的展開が可能である。これにより、遠隔地への迅速な戦力投射能力を提供する。
  • 精密誘導能力: GMLRS(Guided Multiple Launch Rocket System)弾薬を使用することで、GPS誘導による精密な攻撃が可能である。これにより、目標に対する命中精度が向上し、付随的被害を低減できる。
  • 多種類の弾薬に対応: GMLRSロケット弾(M30/M31)、ATACMS(Army Tactical Missile System)ミサイル(M39/M48/M57)など、様々な弾薬を発射できる。現在、次世代精密打撃ミサイルであるPrSM(Precision Strike Missile)の運用能力も付与される予定である。
  • 迅速な再装填: ロケットポッドはモジュール化されており、専用の再装填車両やクレーンを使用することで、迅速な弾薬交換が可能である。
  • 人員削減: M270 MLRSが4名であったのに対し、HIMARSの乗員は3名であり、運用効率が向上している。

運用国[編集]

HIMARSは、アメリカ合衆国とその同盟国で広く運用されている。

実戦での使用[編集]

HIMARSは、アフガニスタン紛争、シリア内戦、そして2022年ロシアのウクライナ侵攻など、複数の紛争地域で実戦投入されている。特にウクライナにおいては、その高い機動性と精密誘導能力が評価され、ロシア軍の補給線、司令部、弾薬庫などに対する精密攻撃に大きな効果を発揮している。ウクライナ軍のHIMARS運用は、現代戦における精密火力支援の重要性を改めて示した事例として注目されている。

豆知識[編集]

HIMARSは、"High Mobility Artillery Rocket System"の頭文字を取ったもので、その名の通り「高機動性のロケット砲システム」という意味である。また、ロケットポッドは使い捨てで、再装填は新しいポッドを積み込む形で行われるため、迅速な再展開が可能になっている。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Jane's Ammunition Handbook
  • Military Periscope
  • GlobalSecurity.org