F6F (航空機)

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グラマン F6F ヘルキャット (Grumman F6F Hellcat) は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国グラマン社が開発し、アメリカ海軍が運用した空母艦載用の戦闘機である。太平洋戦線において、対日本海軍零戦の主力として活躍し、アメリカ海軍の制空権確保に大きく貢献した。

概要[編集]

F6F ヘルキャットは、グラマン社が開発したF4F ワイルドキャットの後継機として、より強力な機体として設計された。特に零戦に対する優位性を確立することを目指し、堅牢な構造、強力な武装、そして高い防御力を兼ね備えていた。愛称の「ヘルキャット (Hellcat)」は、「地獄の猫」を意味し、その獰猛な性能を表す。

開発[編集]

F6Fの開発は1941年中旬に開始され、グラマン社の社内名称G-50として進行した。最初の試作機XF6F-11942年6月26日に初飛行した。当初はライト R-2600-10エンジン(1,700馬力)を搭載していたが、より強力なプラット・アンド・ホイットニー R-2800-10エンジン(2,000馬力)への換装が決定され、このエンジンを搭載したXF6F-31942年7月30日に初飛行した。この改良型は海軍から高い評価を受け、直ちに大量生産が命じられた。

F6F-3の量産型は1942年10月に初飛行し、1943年初頭には実戦部隊への配備が始まった。試作機の初飛行から実戦配備までわずか18ヶ月という異例の速さであった。

設計[編集]

F6Fは、F4Fワイルドキャットの設計思想を継承しつつ、全体的に大型化、強力化が図られている。

  • 主翼:グラマンのトレードマークである「グラマン式折畳み機構」を採用し、空母のエレベーターや格納庫での運用効率を高めている。
  • エンジン:主力のF6F-3およびF6F-5は、2,000馬力級のプラット・アンド・ホイットニー R-2800 ダブルワスプ空冷二重星型エンジンを搭載し、高い出力と信頼性を確保した。
  • 武装:主に6挺の12.7mm M2ブローニング機関銃を主翼に装備し、各銃400発、計2,400発の弾薬を搭載した。後期型の一部(F6F-5Nなど)では、内側2挺の12.7mm機関銃を20mm機関砲に換装したものもあった。また、主翼下にはロケット弾(HVARまたはタイニーティム)や爆弾(最大2,000ポンド)を搭載可能で、戦闘爆撃機としても運用された。
  • 防御力:212ポンド(約96kg)のコックピット装甲、防弾ガラス製の風防、自己密閉式燃料タンク(250USガロン、約950リットル)などを装備し、高い生存性を誇った。これは、F4Fでの経験を元に、パイロットの生還を最優先する設計思想に基づいている。

運用[編集]

F6Fは、1943年9月1日マーカス島攻撃で初めて実戦投入された。アメリカ海軍空母ヨークタウン」所属のVF-5川西H8K飛行艇を撃墜したのが最初である。

その後の太平洋戦争において、F6Fは零戦に対抗するアメリカ海軍の主力戦闘機として大いに活躍した。特に1943年11月23日から11月24日にかけてのタラワ上空での航空戦では、F6Fが零戦30機を撃墜したとされる(F6Fの損害は1機)。1943年11月11日ラバウル空襲では、F6FとF4Uコルセアが日本機と終日交戦し、約50機を撃墜した。

F6Fは、捕獲された零戦52型との模擬空戦で、全高度において零戦より高速であり、14,000フィート(約4,300m)以上では上昇率も優位であることが判明した。低速での旋回性能では零戦に劣るものの、F6Fの堅牢な機体と大馬力エンジン、そして防御力は、格闘戦を避け一撃離脱戦法を重視するアメリカ海軍の戦術と相まって、極めて高い戦果を挙げた。

F6Fによる空中戦での撃墜数は5,156機に達し、これは第二次世界大戦におけるアメリカ海軍の空対空勝利の実に75%を占める。キルレシオ(撃墜対被撃墜比率)は19:1という驚異的な数値を記録した。

1944年にはマリアナ沖海戦において多数の日本機を撃墜し、アメリカ海軍のパイロットからは「マリアナの七面鳥撃ち」と称された。

第二次世界大戦後も、F6Fは予備役部隊などで運用が続けられ、一部は標的機(F6F-5K)に改造されてクロスロード作戦などの核実験に使用された。また、朝鮮戦争でも無人攻撃機として使用された記録がある。1946年には、ブルーエンジェルスの初代使用機としても採用された。最終的に1956年にアメリカ海軍から退役した。

派生型[編集]

  • XF6F-1:最初の試作機。ライト R-2600-10エンジン搭載。
  • XF6F-2:XF6F-1にターボチャージャー付きライト R-2600-16エンジンを搭載した機体。後にプラット・アンド・ホイットニー R-2800-21に換装。
  • XF6F-3:プラット・アンド・ホイットニー R-2800-10エンジン搭載の試作機。量産型の原型。
  • F6F-3:初期量産型。単座戦闘機。英国では「ガネットMk.I」後に「ヘルキャットMk.I」と呼称。
  • F6F-3E:夜間戦闘機型。AN/APS-4レーダーを右主翼のフェアリングに搭載。
  • F6F-3N:夜間戦闘機型。新型のAN/APS-6レーダーを右主翼のフェアリングに搭載。
  • F6F-5:後期量産型。F6F-3の改良型で、エンジンカウリングの再設計、防弾風防の統合、新しいエルロン、尾翼の強化など空力的な改善が施された。これにより、急降下速度や引き起こし制限が緩和された。
  • F6F-5N:夜間戦闘機型。F6F-5をベースにAN/APS-6レーダーを搭載。一部は20mm機関砲2門と12.7mm機関銃4門を装備。英国では「ヘルキャットN.F. Mk.II」と呼称。
  • F6F-5P:写真偵察機型。少数機が後部胴体にカメラを搭載するよう改造された。
  • XF6F-6:F6F-5をベースに、より強力な2,100馬力のプラット・アンド・ホイットニー R-2800-18Wエンジンと4翅プロペラを搭載した試作機。量産には至らなかった。
  • F6F-3K/F6F-5K:無線操縦の標的機型。

性能・主要諸元 (F6F-5)[編集]

  • 乗員: 1名
  • 全長: 10.24 m (33 ft 7 in)
  • 全幅: 13.06 m (42 ft 10 in)
  • 全高: 4.01 m (13 ft 1 in)
  • 翼面積: 31.0 m² (334 ft²)
  • 空虚重量: 4,190 kg (9,238 lb)
  • 最大離陸重量: 6,991 kg (15,415 lb)
  • エンジン: プラット・アンド・ホイットニー R-2800-10W ダブルワスプ空冷二重星型エンジン 1基
    • 出力: 2,000 hp (1,500 kW) (水噴射時2,200 hp)
  • 最大速度: 611 km/h (380 mph) (高度7,130m)
  • 巡航速度: 278 km/h (173 mph)
  • 航続距離: 1,753 km (1,090 mi)
  • 実用上昇限度: 11,369 m (37,300 ft)
  • 上昇率: 14.2 m/s (2,800 ft/min)
  • 武装:
    • 固定武装: 12.7mm M2ブローニング機関銃 × 6挺 (各400発)
    • 爆弾: 最大2,000 lb (907 kg)
    • ロケット弾: 5インチ HVARロケット弾 × 6発 または 11.75インチ タイニーティムロケット弾 × 2発

豆知識[編集]

F6Fは、その堅牢な構造と高い防御力から、パイロットからは「タンク(戦車)」とも呼ばれた。 F6Fは、グラマン社が「時計製造」と揶揄されるほど、簡素で信頼性の高い設計を重視して開発された。これにより、生産性、整備性、そして実戦での修理の容易さが非常に高かった。 第二次世界大戦中、グラマン社はF6Fをピーク時には1時間に1機という驚異的なペースで生産し、総計12,275機が製造された。

関連項目[編集]