裁量労働制

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裁量労働制(さいりょうろうどうせい)とは、実態に関わらず、あらかじめ決まった時間を働いたとみなす制度のことである。仕事の進め方や時間配分を労働者自らが決められるとされるが、一方で深夜や休日に働いた場合以外に割増賃金は支払われない。

この労働制には2種類の形態があり、新聞記者やシステムコンサルタントなど専門職の「専門業務型」は法令で対象となる仕事の種類が明示されている。企画や調査などを担う事務系の「企画業務型」は対象が具体的でなく、乱用の恐れがあるため、導入には本人の同意を必要とするなど手続きや要件が厳格である。

専門業務型裁量労働制は1987年(昭和62年)の労働基準法改正で創設され1988年4月に施行、企画業務型裁量労働制は1998年(平成10年)の改正で創設され2000年4月に施行された[1]。2023年(令和5年)3月に労働基準法施行規則と関係告示が改正され、2024年(令和6年)4月1日から、専門業務型における労働者本人の同意、両類型における同意の撤回手続、健康・福祉確保措置の拡充などが施行されている[2]。厚生労働省の就労条件総合調査(2025年1月1日現在)では、専門業務型を採用する企業の割合は2.1%、企画業務型は1.0%、適用を受ける労働者の割合はそれぞれ1.1%と0.3%である[3]。対象業務の範囲をめぐっては拡大を求める意見と健康確保の観点から慎重な意見があり、2018年(平成30年)には対象業務を追加する法案部分が根拠資料への疑義を受けて削除された[1][4]。

厚生労働省の裁量労働制実態調査(2019年10月31日現在)では、適用労働者の1週間の実労働時間は非適用労働者より長く、制度に満足と回答した割合は約8割であった[5]。制度の適用には、対象業務への該当、業務遂行の手段と時間配分に関する裁量の確保、労働者本人の同意、労働時間の状況の把握と健康・福祉確保措置などの要件があり、これらを欠く場合はみなしの効果は生じず、実際の労働時間に応じた割増賃金の支払義務が生じる[6][7]。

沿革[編集]

専門業務型裁量労働制は1987年(昭和62年)の労働基準法改正でフレックスタイム制などと併せて創設され、1988年4月1日に施行された[1][6]。1998年(平成10年)の改正では、事業の運営に関する事項の企画、立案、調査及び分析の業務を対象とする企画業務型裁量労働制が創設され、2000年(平成12年)4月1日に施行された。導入には事業場の労使委員会の決議が必要とされ、当初の要件は全会一致であった[8][6]。2003年(平成15年)の改正では、専門業務型の労使協定事項に健康・福祉確保措置と苦情処理措置が加えられ、企画業務型の決議の要件が委員の5分の4以上の多数に改められた[8][1]。

働き方改革関連法の検討過程では企画業務型の対象業務を追加する案が示されていたが、2018年(平成30年)、根拠資料とされていた2013年度の労働時間等総合実態調査のデータに疑義があるとの指摘を受け、安倍晋三首相は同年3月、裁量労働制に関する部分を法案から全面的に削除し、実態を把握し直した上で議論をやり直すとの判断を示した[1][4]。

厚生労働省は2019年(令和元年)10月31日現在を対象とする裁量労働制実態調査を実施し、これと「これからの労働時間制度に関する検討会」の2022年(令和4年)7月15日の報告書、労働政策審議会労働条件分科会の同年12月27日の報告に基づいて2023年(令和5年)3月30日に労働基準法施行規則の改正省令(令和5年厚生労働省令第39号)と関係告示(同省告示第115号)が公布され、2024年(令和6年)4月1日から施行された[1][9][10][7]。

見直しの議論[編集]

対象業務の範囲については、労働者が自律的・主体的に働けるようにする選択肢を広げる観点から拡大を求める意見と、長時間労働による健康への懸念等から拡大を行わないよう求める意見がある[1]。2022年12月の労働条件分科会の報告は、現行の対象業務の明確化と専門業務型への銀行・証券会社のM&Aアドバイザー業務の追加を適当とし、企画業務型の対象業務は追加されなかった[9][11]。

日本経済団体連合会は、2005年(平成17年)にホワイトカラーエグゼンプションの導入を提言した(#経団連の提言を参照)のに続き、2025年(令和7年)11月には、労働者の健康確保を大前提に労使で対象業務を決定できる仕組みの創設を主張している[12]。日本労働組合総連合会は2022年7月、対象業務範囲の拡大は長時間労働是正の流れに逆行するとして行うべきでなく、まずは現行制度を適正に運用することが必要であるとする談話を発表し[13]、同年12月の分科会報告に対しては、本人同意など適正な運用に関する措置が明記されたことを評価する一方、M&Aアドバイザー業務の追加は遺憾であるとした[11]。厚生労働省の労働基準関係法制研究会は2025年1月の報告書で、在宅勤務を対象とする新たなみなし労働時間制の案とこれに慎重な意見を併記し、健康確保の在り方を含めた継続的な検討が必要であるとした[14]。

安倍政権の裁量労働制における不適切データ処理問題の変遷[編集]

2018年に安倍政権は裁量労働制を主とした働き方改革関連法案を出そうとしたが、そのたびに発言が二転三転して問題化している。

  • 1月29日 - 裁量労働制で働く方の労働時間の長さは平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデーターもある。
  • 2月14日 - 精査が必要なデータを基に行った答弁を撤回するとともに、お詫び申し上げたい。
  • 2月20日 - 性格の異なる数値を比較したことは不適切だったが、調査結果自体が否定されるものではない。改めて労働調査を行なう考えはない。
  • 2月22日 - 希望する働き方ができる仕組みをつくっていくのが基本だ。厚生労働省はしっかりと法案の準備を進めてもらいたい。
  • 2月26日 - 精査している中でデータを撤回するのは不適切ではない。まずは精査することが大切だ。
  • 2月28日 - 国民に疑念を抱かせることになったのは誠に遺憾だ。きっちりと実態把握をしない限り、政府全体として前に進めない。相応の時間を要する。

制度の概要[編集]

専門業務型裁量労働制[編集]

労働基準法第38条の3に基づく制度で、業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があり、遂行の手段や時間配分の決定等について使用者が具体的な指示をすることが困難な業務として、厚生労働省令と告示で20業務が定められている[6][15][10]。新商品・新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、記事の取材・編集、公認会計士・弁護士などの業務が対象である[10]。導入には、対象業務、1日のみなし労働時間、健康・福祉確保措置、苦情処理措置、同意とその撤回の手続など10事項を定めた書面による労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出た上で労働者本人の同意を得る必要がある[10][15]。

企画業務型裁量労働制[編集]

労働基準法第38条の4に基づく制度で、対象業務は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、その性質上遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため使用者が具体的な指示をしないこととする業務である[6]。厚生労働省は、これら4要件をすべて満たす範囲で対象業務を決議する必要があり、ホワイトカラーの業務すべてが該当するわけではないと説明している[16]。導入には、労使同数の委員で構成する労使委員会を設置して委員の5分の4以上の多数により対象業務やみなし労働時間、健康・福祉確保措置などを決議し、決議を労働基準監督署長に届け出て、労働者本人の同意を得ることが必要である[6][15][16]。

みなし労働時間の効果と適用が続く規制[編集]

みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には36協定の締結が必要で、超える部分については割増賃金の支払いが必要となる[10]。休憩、休日、深夜業、年次有給休暇の規定も適用され、休日や深夜に労働した場合はみなし労働時間ではなく実際に働いた時間に応じた割増賃金を支払わなければならない[10]。また、労働安全衛生法第66条の8の3により、使用者は適用労働者についても労働時間の状況を把握する義務を負い、長時間労働で疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合には医師による面接指導を実施しなければならない[10]。

裁量労働制は労働時間規制の適用を除外する制度ではなく、実労働時間規制に代えてみなし時間による規制を許容する制度である。この点で、労働時間・休憩・休日の規定が適用されない管理監督者(第41条第2号)や、年収1,075万円以上などの要件の下で労働時間等の規定が適用されない高度プロフェッショナル制度(第41条の2)とは異なる[6][15][14]。

2024年の制度改正[編集]

裁量労働制実態調査の結果と検討会報告書と労働政策審議会労働条件分科会の報告を踏まえて2023年(令和5年)3月30日に労働基準法施行規則と関係告示が改正され、2024年(令和6年)4月1日から施行された[7][10]。専門業務型について、本人の同意を得ることと、同意しなかった労働者に不利益な取扱いをしないことが労使協定の必須事項となり、両類型について同意の撤回手続と記録の保存が必須事項となった[2][15]。健康・福祉確保措置についても、事業場の適用労働者全員を対象とする措置(終業から始業までの休息時間の確保、深夜業の回数の制限、労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用の解除など)と、個々の労働者の状況に応じて講ずる措置(面接指導、代償休日など)が示され、厚生労働省はそれぞれから1つ以上、特に適用解除の措置を実施することが望ましいとしている[10][9]。

企画業務型では、労使委員会の運営規程に賃金・評価制度の内容についての使用者からの説明に関する事項と開催頻度を6か月以内ごとに1回とすることを定めることが必要となり、労働基準監督署長への定期報告は決議の有効期間の始期から6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回に改められた[2][15]。改正前から導入していた事業場も、制度を継続するには協定または決議を改めて行う必要があるとされた[2]。専門業務型の対象業務には、銀行・証券会社における顧客の合併・買収に関する調査・分析等の業務(M&Aアドバイザーの業務)が追加され、20業務となった[10][11]。

適用の実態[編集]

厚生労働省の就労条件総合調査によると、2025年(令和7年)1月1日現在でみなし労働時間制を採用している企業の割合は15.8%、うち専門業務型裁量労働制は2.1%、企画業務型裁量労働制は1.0%である[3]。採用企業の割合は規模が大きいほど高く、常用労働者1,000人以上の企業では専門業務型8.7%である[3]。適用労働者の割合は専門業務型1.1%、企画業務型0.3%である。前年(2024年)の調査では、採用企業割合は専門業務型2.2%・企画業務型1.0%、適用労働者割合は1.4%・0.2%であった[3]。

厚生労働省が2019年(令和元年)10月31日現在について実施した裁量労働制実態調査では、適用労働者の1週間の平均労働時間数は45時間18分、1日の平均労働時間数は9時間0分で、非適用労働者の43時間2分、8時間39分より長かった[5]。1時間単位で回答した適用労働者のうち1週間の労働時間が60時間以上の者は8.4%であった[5]。業務の目的・目標・期限等を「上司に相談の上、自分が決めている」と答えた適用労働者は専門業務型47.8%、企画業務型57.4%であった[5]。制度の適用への満足度は「満足している」41.8%、「やや満足している」38.6%で約8割を占めた[5]。

「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書は、この調査結果と東京大学政策評価研究教育センター等が労働者の個人属性等を制御して行った回帰分析を踏まえ、適用労働者は概ね裁量をもって働いているとする一方、1日の平均実労働時間は適用労働者の方が若干長いこと、業務の遂行方法や時間配分、出退勤時間の裁量の程度が小さい場合には長時間労働となる確率や健康状態が悪くなる確率が高くなること、業務量が過大である等の場合には満足度が低くなることを総括している[1]。同じ回帰分析では、個人属性等を制御した場合、適用労働者の1週間の労働時間は非適用労働者より1.276時間長く、睡眠時間は0.04時間長く、年収は約13%高く、健康状態がよいと答える確率が高いという結果が示されており、報告書は、適用によって労働時間が著しく長くなる、処遇が低くなる、健康状態が悪化するといった影響があるとはいえないとしている[1]。同報告書は、専門業務型のうち本人同意を適用の要件としている事業場の適用労働者は実労働時間が週60時間以上となる確率が低く、労使委員会に実効性があるとの回答があった場合にも長時間労働となる確率が低いとも述べている[1]。

厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」では裁量労働制の対象者に関する労災補償の状況が年度別に集計されており、2025年度(令和7年度)の業務災害に係る支給決定件数は脳・心臓疾患が2件、精神障害が9件であった(法定要件を満たしていない事案を含む)[17]。

労使双方にとっての利点と留意点[編集]

「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書は、裁量労働制の趣旨を、健康確保と能力や成果に応じた処遇を可能としながら業務の遂行手段や時間配分等を労働者の裁量に委ねることにあると整理し、ふさわしい業務に適切に適用され適正な運用が行われれば労使双方にメリットのある働き方が実現できると述べている[1]。

使用者側[編集]

前述の裁量労働制実態調査では、制度を導入した理由(複数回答)として「労働者の柔軟な働き方を後押しするため」が専門業務型75.5%、企画業務型67.7%で最も多く、効率的に仕事を進めるための意識改革や能力発揮の促進が続いた(「残業代を削減するため」は12.9%と3.9%)[5]。専門業務型では、柔軟な働き方の後押しを理由に導入した事業場の85.6%が「効果があった」と回答している[5]。日本経済団体連合会は2025年(令和7年)11月の主張で、労働時間と成果が必ずしも比例しない仕事に従事する働き手には労働時間に比例した処遇が適しておらず、労働時間をベースとしない処遇との組み合わせを可能にする法制が必要だとしている[12]。

一方、厚生労働省の解説は、健康・福祉確保措置を講じたことをもって使用者が労働者の健康に関する安全配慮義務を免れるものではないとしている[10]。対象業務に該当しない業務に適用した場合などには、みなしの効果が認められない(後述)[7]。

労働者側[編集]

前述の裁量労働制実態調査では、適用労働者の約8割が制度の適用に満足し、働き方の認識(複数回答)では「時間にとらわれず柔軟に働くことで、ワークライフバランスが確保できる」50.4%、「仕事の裁量が与えられることで、メリハリのある仕事ができる」48.9%が上位であった[5]。労働政策研究・研修機構が2013年に行った労働者調査でも「満足」「やや満足」を合わせた割合は専門業務型で7割弱、企画業務型で8割弱であった[18]。

他方、同機構の調査で「やや不満」「不満」と答えた人の不満な点は「労働時間(在社時間)が長い」(専門業務型51.9%、企画業務型45.1%)、「業務量が過大」(49.4%、40.0%)、「給与が低い」(44.8%、31.1%)であった[18]。検討会報告書は、前述のとおり裁量の程度が小さい場合に長時間労働や健康状態の悪化の確率が高くなることに加え、始業・終業時刻の決定に係る裁量がないことが疑われるケースや、所定労働時間をみなし労働時間に設定しながら特別手当制度を設けていない事業場(専門業務型48.5%、企画業務型35.8%)がみられることを指摘する(ただし基本給の引上げで処遇を確保する場合もあるため、すべてが問題となるものではないとしている)[1][5]。同報告書は、労働者側との十分な協議がないまま残業代を削減する目的で導入され、裁量がない状態で長時間労働を強いられ、かつ低処遇といった運用は制度の濫用・悪用といえる不適切なものであり防止する必要があると述べている[1]。日本労働組合総連合会は、不適切な運用をなくすための厳格な指導監督の徹底を求めている[11]。

2024年4月施行の改正後は、前述のとおり本人の同意、不利益取扱いの禁止、同意の撤回手続、苦情処理措置と健康・福祉確保措置が協定・決議の必須事項とされ[15]、撤回を認めない旨の協定・決議をすることはできない[19]。

適正な導入・運用の要件[編集]

「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書は、制度の趣旨に沿った運用のために、自律的・主体的に働くことの選択と業務遂行の裁量を制度的に担保すること、労働者の健康と処遇の確保を徹底すること、労使が十分に協議しながら適正な運用の確保を継続的に図ることの3点を軸に据えた[1]。2024年4月施行の改正後について、厚生労働省が法令・指針・通達で示している要件と留意事項は次のとおりである。

対象業務への該当と裁量の確保[編集]

労働基準法第38条の3および第38条の4の「時間配分の決定」には始業と終業の時刻の決定も含まれるため、使用者から始業または終業の時刻のいずれか一方でも指示される業務は対象業務に該当しない[7]。通達は、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われることがあり、裁量が失われたと認められる場合には労働時間のみなしの効果は生じないとしている[7]。

本人同意と撤回[編集]

通達によれば、使用者は労働者ごとに、かつ協定または決議の有効期間ごとに本人の同意を得なければならず、同意を得る際には、制度の概要、同意した場合に適用される評価・賃金制度の内容、同意しなかった場合の配置と処遇を明示して説明することが適当とされている[7][19]。導入後の処遇等について十分な説明がなされなかったことなどにより同意が労働者の自由な意思に基づくものと認められない場合には、みなしの効果は生じないこととなる場合がある[7]。同意の撤回の手続は、申出先や申出の方法を明らかにして協定または決議で定める必要があり、撤回を認めない旨を定めることはできない[7][19]。

処遇と労働時間の状況の把握[編集]

厚生労働省は、みなし労働時間は対象業務の内容等を踏まえて適切な水準に設定し、手当の支給や基本給の引上げなどにより相応の処遇を確保することが必要であるとしており、通達は、所定労働時間相当では処理できない分量の業務を与えながら相応の処遇を確保しないことは制度の趣旨を没却するもので不適当であるとしている[10][7]。「労働時間の状況」の把握方法は労働安全衛生法第66条の8の3に基づく義務と同一であり、タイムカードやパーソナルコンピューターの使用時間の記録などの客観的な方法が必要で、自己申告による把握はやむを得ず客観的な方法により把握し難い場合に限られ、直行直帰であることだけを理由とする自己申告は認められない[19][10]。使用者は、把握した労働時間の状況に応じて協定または決議で定めた健康・福祉確保措置を講じなければならない[6]。同解説は、勤務間インターバルは高度プロフェッショナル制度の11時間以上、深夜業の回数制限は同制度の1か月4回以内を参考に設定すること、制度適用を解除する労働時間の基準は長くとも時間外・休日労働の合計が1か月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内の範囲とすることを示している[10]。適用を解除した労働者に再び制度を適用する際には、改めて本人の同意を得る必要がある[19]。

要件を欠く場合の効果と裁判例[編集]

みなしは、労使協定または決議で所定の事項を定め、労働者を対象業務に就かせたときに生ずるものであり[6]、通達は、時間配分の決定等に関する裁量が失われたと認められる場合や、同意が自由な意思に基づいてされたものと認められない場合にはみなしの効果は生じないとしている[7]。この場合、実際の労働時間に基づいて労働基準法第37条による時間外・休日・深夜の割増賃金を支払う義務が生ずる[6]。

専門業務型裁量労働制の適用が否定された事案として、システムエンジニアに制度を適用していたコンピューター会社に関するエーディーディー事件がある。京都地方裁判所の2011年(平成23年)10月31日判決に続き、大阪高等裁判所は2012年(平成24年)7月27日の判決で、労働者の作業は業務遂行の裁量性に乏しく労働基準法施行規則にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったとはいえないとして適用要件を満たしていないと判断し、未払時間外手当562万7087円と付加金300万円の支払を命じた(確定)[20]。同判決は、専門業務型裁量労働制を取り入れていたとしても使用者が労働者の心身の健康を損なわないよう注意する義務を負うことは否定されないとして、損害賠償責任も認めた[20]。対象業務に該当しない労働者への適用などについて労働基準監督署の是正勧告を受けた事例が2017年から2019年にかけて報道されている(#違法事案を参照)。


外部リンク[編集]

  1. ↑ a b c d e f g h i j k l m n “これからの労働時間制度に関する検討会 報告書(PDF)”. これからの労働時間制度に関する検討会(厚生労働省) (2022年7月15日). 2026年9月8日確認。
  2. ↑ a b c d “事業主の皆さまへ 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です(PDF)”. 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 (2023年3月). 2026年9月8日確認。
  3. ↑ a b c d “令和7(2025)年就労条件総合調査 結果の概況 労働時間制度(PDF)”. 厚生労働省 (2025年12月19日). 2026年9月8日確認。
  4. ↑ a b “第196回国会 参議院 予算委員会 第5号 平成30年3月2日(内閣総理大臣 安倍晋三 答弁)”. 国会会議録検索システム(国立国会図書館) (2018年3月2日). 2026年9月8日確認。
  5. ↑ a b c d e f g h i “「裁量労働制実態調査」の結果を公表します・裁量労働制実態調査の概要(第169回労働政策審議会労働条件分科会 資料No.2-2)(PDF)”. 厚生労働省労働基準局労働条件政策課 (2021年6月25日). 2026年9月8日確認。
  6. ↑ a b c d e f g h i j “労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)”. e-Gov法令検索. 2026年9月8日確認。
  7. ↑ a b c d e f g h i j k “労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の施行等について(裁量労働制等)(基発0802第7号)(PDF)”. 厚生労働省労働基準局長 (2023年8月2日). 2026年9月8日確認。
  8. ↑ a b “これからの労働時間制度に関する検討会報告書 参考資料①(第176回労働政策審議会労働条件分科会 資料No.3-3)(PDF)”. 厚生労働省 (2022年7月27日). 2026年9月8日確認。
  9. ↑ a b c “今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(第187回労働政策審議会労働条件分科会 資料No.1)(PDF)”. 厚生労働省 (2022年12月27日). 2026年9月8日確認。
  10. ↑ a b c d e f g h i j k l m n “専門業務型裁量労働制の解説(PDF)”. 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 (2024年3月). 2026年9月8日確認。
  11. ↑ a b c d “労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」に対する談話(事務局長談話)”. 日本労働組合総連合会 (2022年12月27日). 2026年9月8日確認。
  12. ↑ a b “労働時間規制に関する経団連の主張”. 日本経済団体連合会 (2025年11月10日). 2026年9月8日確認。
  13. ↑ “「これからの労働時間制度に関する検討会」報告に対する談話(事務局長談話)”. 日本労働組合総連合会 (2022年7月19日). 2026年9月8日確認。
  14. ↑ a b “労働基準関係法制研究会報告書(第193回労働政策審議会労働条件分科会 資料No.2)(PDF)”. 厚生労働省 (2025年1月21日). 2026年9月8日確認。
  15. ↑ a b c d e f g “労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)”. e-Gov法令検索. 2026年9月8日確認。
  16. ↑ a b “企画業務型裁量労働制の解説(PDF)”. 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 (2024年3月). 2026年9月8日確認。
  17. ↑ “別添資料3 業務災害に係る裁量労働制対象者に関する労災補償状況(令和7年度「過労死等の労災補償状況」)(PDF)”. 厚生労働省 (2026年7月15日). 2026年9月8日確認。
  18. ↑ a b “裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果(記者発表)(PDF)”. 労働政策研究・研修機構 (2014年6月30日). 2026年9月8日確認。
  19. ↑ a b c d e “令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A(PDF)”. 厚生労働省労働基準局 (2023年8月2日). 2026年9月8日確認。
  20. ↑ a b “労働基準判例検索 ID番号90017 エーディーディー事件(大阪高裁 2012年7月27日判決)”. 全国労働基準関係団体連合会. 2026年9月8日確認。