勤務間インターバル
勤務間インターバル(きんむかんインターバル)とは、労働において、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保することをいう。
欧州連合では1993年(平成5年)の労働時間指令以来、24時間ごとに連続11時間以上の休息時間を労働者に与えることが加盟国の義務とされている[1]。日本では2019年(平成31年)4月から労働時間等の設定の改善に関する特別措置法により事業主の努力義務とされているが、確保すべき時間数や対象者、導入に当たっての留意事項は法令上示されていない[2][3]。
厚生労働省の就労条件総合調査によれば、制度を導入している企業の割合は2025年(令和7年)1月時点で6.9%であり[4]、政府は2024年(令和6年)8月に閣議決定した「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で、2028年(令和10年)までに労働者数30人以上の企業のうち導入企業割合を15%以上とする目標を掲げた[5]。2025年1月には厚生労働省の労働基準関係法制研究会が、義務化を視野に入れた法規制の強化について検討する必要があるとする報告書を公表した[3]。
制度の内容[編集]
厚生労働省は勤務間インターバル制度を、終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものと説明している。確保の方法としては、翌日の始業時刻を繰り下げる運用のほか、ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないこととする方法が挙げられている[2]。政府の数値目標では、就業規則または労使協定等で一定時間以上の休息時間を設けることを定めているものを制度の導入として数える[5]。
インターバル時間を11時間とする例が多い理由について、労働基準関係法制研究会の報告書は労働政策研究・研修機構が2024年(令和6年)5月に公表したフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ合衆国を対象とする調査を引き、ドイツでは「職場にいる時間が労働や休憩を含めて12時間程度、通勤に1時間前後かかるとして、労働者の実際の自由時間が11時間程度になる」という考え方から連続休息時間が設けられたと説明されていること、労働時間指令の立案過程では12時間とする案も示されたが、2交代制の引継時間が確保できなくなるとの経営側の批判があったこと、その後インターバル時間が11時間に戻されたことを紹介している[3]。
同報告書は、既に制度を導入している日本企業の制度設計や諸外国の制度をみると「様々な適用除外が設けられた上で制度が運用されている」とし、インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置については、健康観察や面接指導のような事後のモニタリングではなく、代償休暇など労働からの解放を確保するものが望ましいとの考え方が示されたと記している[3]。
欧州連合[編集]
この規定は1993年11月23日の指令93/104/EC第3条で導入され[1]、上記引用のとおり2003年(平成15年)の指令2003/88/EC第3条に引き継がれている。厚生労働省は、加盟国が1日24時間につき最低連続11時間の休息時間の確保を義務化している一方で、「勤務形態の特殊性等から様々な業務において適用除外がある」と説明している[5]。
各国の状況[編集]
ドイツの労働時間法(Arbeitszeitgesetz)第5条は、1日の労働時間の終了後に連続11時間以上の休息時間を労働者に与えなければならないと定める。病院その他の医療・介護施設、飲食店・宿泊施設、運輸業、放送、農業・畜産では休息時間を最大1時間短縮できるが、短縮した場合は暦月内または4週間内に他の休息時間を12時間以上に延長して埋め合わせることが求められる[6]。
イギリスの1998年労働時間規則(The Working Time Regulations 1998)第10条は、労働者は使用者のために働く24時間ごとに連続11時間以上の休息期間を与えられる権利を有すると定め、若年労働者(young worker)については12時間以上としている[7]。
韓国では、弾力労働時間制を3か月から6か月以内の期間で適用する場合、1か月を超える期間で選択労働時間制(フレックスタイム制)を適用する場合、運送業等の特例業種など、特定の制度の適用時に限って勤労基準法(第51条の2、第52条、第59条)により労働日間の11時間の連続休息の付与が義務づけられている。雇用労働部は2023年3月に発表した労働時間制度改編案で、これを制度の適用対象にかかわらず実施する「三重の健康保護措置」の一つとして示したが、同案の発表後に各界から異論が出て、政府は同案の再検討に入った[8]。
日本[編集]
導入状況[編集]
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によれば、令和5年1月1日現在、勤務間インターバル制度の導入状況別の企業割合をみると、「導入している」が 6.0%(令和4年調査 5.8%)、「導入を予定又は検討している」が 11.8%(同 12.7%)、「導入予定はなく、検討もしていない」が 81.5%(同 80.4%)となっている。また1企業平均間隔時間は10時間20分(同 10時間22分)となっている。勤務間インターバル制度の導入予定はなく、検討もしていない企業について、導入予定はなく、検討もしていない理由(複数回答)別の企業割合をみると、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が 51.9%(令和4年調査 53.5%)と最も高くなっている。また、「当該制度を知らなかったため」の全企業に対する企業割合は 19.2%(同 17.1%)となっている。[9]。
2025年(令和7年)調査では、「導入している」が6.9%(令和6年調査5.7%)、「導入を予定又は検討している」が13.8%(同15.6%)、「導入予定はなく、検討もしていない」が78.7%(同78.5%)となり、1企業平均勤務間隔時間は10時間51分(同10時間40分)であった。導入予定はなく検討もしていない企業の理由(複数回答)では「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」が57.3%と最も多く、「当該制度を知らなかったため」は全企業に対して15.7%であった[4]。
| 企業規模 | 導入している | 導入を予定又は検討している | 導入予定はなく、検討もしていない |
|---|---|---|---|
| 1,000人以上 | 20.1% | 24.8% | 55.0% |
| 300〜999人 | 9.6% | 17.3% | 72.0% |
| 100〜299人 | 7.5% | 15.3% | 76.9% |
| 30〜99人 | 6.1% | 12.5% | 80.8% |
2024年(令和6年)の大綱は、週労働時間40時間以上の雇用者のうち週60時間以上の雇用者の割合が高い産業の多くで導入企業割合が低く、令和5年調査では「宿泊業、飲食サービス業」が2.3%、「建設業」が1.5%であること、企業規模が小さくなるほど導入割合が低くなることを課題として挙げた。他方、同大綱は、実際の終業時刻から始業時刻までの間隔が11時間以上空いている労働者の状況別の企業割合は「全員」が31.1%、「ほとんど全員」が38.5%で、実質的に11時間の休息時間を確保している企業の割合は約7割になるとしている[5]。
産業別の規制[編集]
自動車運送業においては自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)により、休息期間の確保が義務付けられている。同基準は2022年(令和4年)12月23日に改正され、2024年(令和6年)4月1日から適用されている[10]。改正後の基準は、貨物自動車運送事業(トラック)、一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー。隔日勤務を除く)およびバスの運転者について「勤務終了後、継続十一時間以上の休息期間を与えるよう努めることを基本とし、休息期間が継続九時間を下回らないものとすること」と定めている(貨物自動車運送事業では、一定の場合に1週間について2回まで休息期間を継続8時間とすることができる)。改正前の基準は「勤務終了後、継続八時間以上の休息期間を与えること」であった[11][12]。
導入事例[編集]
厚生労働省が示した資料[13]によれば、法改正前から導入している企業として、ユニ・チャーム、本田技研工業、KDDI、フレッセイ、TBCグループが挙げられている。インターバルの時間数は、8~12時間の範囲で設定されることが多く、また実際にはトラブル発生などの緊急対応により、インターバルが取得できないようなケースの発生も想定し、例外的取り扱いを定めることもある。
義務化に向けた議論[編集]
2024年(令和6年)8月2日に閣議決定された大綱は、労働者数30人以上の企業のうち、勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を2028年(令和10年)までに5%未満とし、制度を導入している企業割合を同年までに15%以上とする数値目標を定め、「勤務間インターバル制度の導入率が低い中小企業への導入に向けた取組を推進する」とした[5]。
厚生労働省の労働基準関係法制研究会は2025年(令和7年)1月の報告書で、働き方改革関連法による時間外・休日労働の上限規制が月を単位とするものであるのに対し、日々の生活を送る上でのワーク・ライフ・バランスの確保が必要であると整理した。同報告書は、日本の努力義務が「概念的な内容にとどまり、勤務間インターバルの時間数や対象者、その他導入に当たっての留意事項等は法令上示されていない」と指摘し、導入企業割合が令和5年1月時点で6.0%にとどまることを踏まえ、「抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要がある」とした[3]。
求める制度の内容としては、11時間の確保を原則としつつ適用除外や代替措置を柔軟に定める考え方、11時間より短い時間としつつ柔軟な対応を絞る考え方、経過措置を設ける考え方が並べられ、義務化の度合いについても労働基準法による強行的な義務とする考え方、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法等で義務付けまたは配慮を求める規定を設ける考え方、労働基準法で就業規則の記載事項として位置付け行政指導により普及を図る考え方、現行の努力義務規定を具体化する考え方が示され、「様々な手段を考慮した検討が必要」と結ばれている[3]。
法学の立場からは、水島郁子(Mizushima Ikuko)が、労働者の健康確保に資する規制は最長労働時間規制と労働解放時間規制であるとして、休日規制の見直しとあわせて勤務間インターバル制度の導入を提案している[14]。
時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)[編集]
厚生労働省は2026年(令和8年)度、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」として、勤務間インターバル制度の導入に取り組む中小企業事業主を支援する助成金を実施している。同省は同制度を、生活時間や睡眠時間の確保を通じて健康保持や過重労働の防止を図るものとも説明している[15]。大綱は、一定以上の休息時間を設定して制度を導入する中小企業への助成金の活用、好事例の収集、導入・運用マニュアルの作成と周知、シンポジウムの開催等を通じて導入を促すとしている[5]。
効果と課題[編集]
厚生労働省は、一定のインターバル時間を確保することで従業員が十分な生活時間や睡眠時間を確保できると説明している[2]。大綱は、制度の必要性を感じていない企業に対する取組として、制度の導入が労働者の健康の確保に資することに加えて「人材確保にもつながるなどのメリットがある」ことを訴求するとしている[5]。
統計分析では、永井恵子(Nagai Keiko)が社会生活基本調査の個票データを用いて、性別以外に勤務形態・学歴・職業が勤務間インターバルの長さと関連し、勤務間インターバルが短くなるほど健康状態が悪くなる確率が高くなり、通勤時間を加味するとその傾向が強まると報告した[16]。
労働安全衛生総合研究所の池田大樹(Ikeda Hiroki)らは、2022年2月に日勤労働者13,306人を対象に実施したウェブ調査で、勤務間インターバルと睡眠時間の組み合わせを分析し、11時間未満の短いインターバルと6時間以上の睡眠、および15時間の十分なインターバルと6時間未満の睡眠の組み合わせで、十分なインターバルと通常の睡眠を基準とした場合より職業性ストレス簡易調査票による高ストレス判定のオッズ比が有意に高かったと報告した。他方、病気欠勤では短いインターバルと短時間睡眠の組み合わせでオッズ比が有意に低く、同論文はインターバルが短い労働者が忙しさから休みを取れない可能性を挙げている。また、勤務間インターバル制度によってインターバルが確保されても睡眠時間が短ければ健康リスクが生じる可能性を指摘している[17]。
池田は2026年の総説で、制度によって勤務間インターバルが確保できれば労働者の健康確保だけでなく安全や生産性の向上にもつながる可能性があるとしたうえで、課題として「同制度により勤務間インターバルの量は保証されても、質や規則性は保証されない」ことを挙げ、インターバル中の睡眠が短い場合や仕事の連絡がある場合の健康への影響、不規則なインターバルが不規則な睡眠につながることを紹介した[18]。久保智英(Kubo Tomohide)は、勤務間インターバル制度とつながらない権利を産業疲労研究の視点から論じ、これらが実効性のあるものになるためには「職場特性を踏まえた導入・運用が求められる」と述べている[19]。
導入予定がなく検討もしていない企業では「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」との回答が最も多く[4]、労働基準関係法制研究会の報告書は、2023年(令和5年)調査で同じ回答が51.9%を占めた点に留意が必要であるとしている[3]。
脚注[編集]
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関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 勤務間インターバル制度 - 厚生労働省
- 時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース) - 厚生労働省