潜水艦イ-57降伏せず
『潜水艦イ-57降伏せず』(せんすいかんイごじゅうななこうふくせず)は、大石盛逸によって執筆され、1984年に光人社から出版された架空戦記小説である。
概要[編集]
第二次世界大戦末期、日本海軍の伊57潜水艦が、日本の降伏後も武装解除に応じず、単独で連合国軍との戦いを継続するという架空の物語を描いている。史実では伊号第五十七潜水艦は1944年に戦没しており、本作は史実改変フィクションの形をとっている。
物語は、日本の敗戦という絶望的な状況下で、なおも祖国のために戦い続けようとする乗組員たちの葛藤と、彼らが直面する困難が描かれる。彼らは、わずかな物資と情報の中で、連合国艦隊への抵抗を試みる。特に、潜水艦という閉鎖された空間における人間ドラマや、極限状態における士気の維持、そして「負けた戦い」を続けることの意味が深く掘り下げられている。
本作は、発表当時、多くの軍事小説ファンから注目を集め、架空戦記というジャンルを代表する作品の一つとなった。また、単なる戦闘描写に留まらず、戦争の悲惨さや、個人の信念と国家の命令との間の矛盾といったテーマも内包しており、読者に深い問いかけを投げかける作品としても評価されている。
主な登場人物[編集]
あらすじ[編集]
1945年8月、大日本帝国はポツダム宣言を受諾し、第二次世界大戦は終結した。しかし、太平洋を哨戒中の伊57は、その事実を知りつつも、徹底抗戦を主張する艦長小泉艦長の指揮の下、降伏を拒否する。
彼らは、わずかな補給品と残された魚雷で、占領軍として日本近海に進出してくるアメリカ海軍の艦艇を襲撃する。追撃をかわしながらの孤独な戦いの中、食料、燃料、魚雷は尽き、乗組員の疲労と士気は限界に達していく。日本本土では、人々が平和な日常を取り戻しつつあることを知った乗組員の中には、脱走を試みる者も現れる。
小泉艦長は、それでも戦いを止めようとしない。しかし、ついに機関が停止し、浮上を余儀なくされる。彼らの眼前に現れたのは、多数の連合国艦艇だった。絶望的な状況の中、小泉艦長は最後の決断を下す。
書誌情報[編集]
- 『潜水艦イ-57降伏せず』光人社、1984年。ISBN 4-7698-0249-X。
豆知識[編集]
- 本作は、架空の潜水艦が主人公であるにもかかわらず、当時の潜水艦の運用や技術に関する詳細な描写がなされており、作者の軍事知識の豊富さがうかがえる。
- 作品のテーマは「義戦」や「国家の終焉」といった重いものであるが、随所に挿入される人間ドラマが、物語に深みを与えている。
- 本作は、後に出版される多くの架空戦記小説に影響を与えたとされる。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 大石盛逸『潜水艦イ-57降伏せず』光人社、1984年。ISBN 4-7698-0249-X。