幡掛正浩

幡掛 正浩（はたかけ せいこう、1913年7月26日 - 2006年1月14日）は、神職。元伊勢神宮少宮司。葦津珍彦（神道思想家）の義弟。幡掛大輔（クボタ社長）の父。

経歴

福岡県遠賀郡島郷村大字蜑住（現・北九州市若松区蜑住）の戸明神社社家に生まれる。1931年福岡県立東筑中学校（現・福岡県立東筑高等学校）四年修了。1934年第五高等学校文科乙類卒業。京都帝国大学文学部哲学科で宗教学を学ぶ。五高2年時に田中哲夫（陸軍士官学校46期生）と知り合い、1934年の士官学校事件（十一月二十日事件）では京大の先輩の北原勝雄とともに「如意岳（通称大文字山）の山中に草庵を結び、東京・士官学校の同志からの連絡をひたすらに待つて」いたという。1937年に京大の国家主義団体「清明会」幹事となり、京大神道青年会、京大報功会を結成。清明学舎を創設し、学生運動を指導。天野貞祐教授の著書『道理の感覚』（岩波書店、1937年）に反戦反軍思想があるとして、原理日本社主幹の蓑田胸喜、京大工学部出身の園田新吾らとともに糾弾。

1938年3月京都帝国大学文学部哲学科卒業。内務省神社局嘱託。1939年4月に北原勝雄の推薦により藤田松二教授の第二の助手として、建国大学講師に就任。1940年4月帰国。帰国前に葦津耕次郎の娘と結婚。1941年11月に義兄の葦津珍彦とともに神職養成のため学塾「葦牙寮」を創設、寮長。1942年3月に皇道社総裁・今泉定助の「天之御中主神、天照大神、天皇」の三位一体説を載せた皇道社機関誌『皇道発揚』2月号が発禁となると、葦津とともに今泉説を支持し、今泉説を批判する宮内省掌典職祭事課長・星野輝興の学説を糾弾。頭山満、今泉定助、高山昇、葦津、幡掛の連名で皇典講究所と神祇院に質問書を提出。のち星野は依願免官（神典擁護問題）。日本大学皇道学院講師も務めた。

1944年10月応召を受け佐世保港外相浦海兵団に入団。1945年3月特別解除の命により退団。小磯内閣で情報局総裁秘書、東久邇宮内閣で国務大臣秘書として、緒方竹虎の秘書を務める。終戦時には秘書として迫水久常内閣書記官長を支える。終戦時の和平判断のため葦津とは「約六年間、義絶状態」にあった。

1947年4月に西田廣義、賀部泰臣、北原重登とともに兄弟文庫を設立、同文庫代表。戸明神社宮司、福岡県立若松高等学校教諭を経て、1953年9月神宮司庁教化局教学司。1955年7月神宮禰宜、会計、庶務、大麻課長、文教部長。1963年10月教化局教学司。1974年8月神宮教学研究員、教学研究室長。神社本庁講師・教学委員も務めた。二条弼基神宮大宮司の死去に伴い、1985年10月に前少宮司・慶光院俊が大宮司、幡掛正浩が少宮司に就任。1990年11月の天皇・皇后の神宮参拝を最後に神宮少宮司を退任し、黒住教の学事顧問に就任。1999年1月に「不良大学」発足、自宅前に直江兼続の詩文を揮毫した詩碑を建立（2009年に黒住教本部のある岡山市の神道山に移築）。2006年1月14日死去、92歳。

人物

• 神道教学の第一人者。『神道学』第14号（1957年8月）に発表した「神学小論――特に天皇・国家・神道の関係に就て」で「神道は天皇と深い関係にあるどころのさわぎはなく、天皇をその信仰の真唯中の座に於て擁する宗教である、と言はねばならぬ」と主張した。同論文は大きな反響を呼び、同誌第15号（1957年11月）は同論文に対する批判号として特輯され、西高辻信貞、小林健三、三潴信吾、桜井勝之進、小野祖教、安津素彦の6名による批判・感想が掲載された。1982年12月の第一回神社本庁神道教学研究大会では小野祖教と組織神学をめぐって神学・教学論争を行った。
• 書評誌『読書人』（東京堂、1941-1944年）で雑誌月評や新著月評（教育）を担当した。1944年時点で大日本言論報国会会員、日本大学皇道学院教授、葦牙寮主宰だった。
• 戦後に兄弟文庫を主宰し、機関誌『ひもろぎ』（1951年創刊。1954年の第15号で休刊。1956年に復刊第16号を刊行）、石田毅文『崇高なる者の歌――聖薄伽梵歌要頌解説』（1950年）、葦津珍彦『皇位継承と祖宗の神器憲法調査会資料』（1962年）、井上孚麿『ポツダム宣言に所謂デモクラシーと憲法・国体』（1964年）、兄弟文庫同人編集委員編『志猶存す――兄弟文庫の四十年』（1987年）などを刊行した。保田與重郎は幡掛の著書『花 相似たるも――愛惜の人びと』（兄弟文庫、1967年）に跋文を寄せている。保田は月刊雑誌『祖国』を始めた頃に若松市で兄弟文庫を経営する幡掛らを知り、十数年後に幡掛と初対面したという。
• 日本宗教学会、神道宗教学会、神道史学会等に所属。

著書

単著

• 『神宮大麻について』（兄弟文庫［兄弟文庫通信 別冊］、1962年）
• 『花 相似たるも――愛惜の人びと』（兄弟文庫、1967年）
• 『皇家第一の重事――式年遷宮の思想』（神社新報社、1973年）
• 『神国の道理』（日本教文社、1977年）
• 『道ある世ぞと――地鎮祭判決の拓いたみち』（全国神社総代会、1979年）
• 『食国天下のまつりこと』（同朋舎、1979年）
• 『私本 式年遷宮の思想――改訂「皇家第一の重事」』（神社新報社、1986年）
• 『僅存居残筆――美しいこととかなしいこと』（神宮司庁［神宮教養叢書 別冊］、1991年）
• 『幡掛正浩著作等目録』（幡掛正浩、19965）
• 『神社（神道）からのメッセージ――比較宗教の場で』（黒住教日新社、1996年）
• 『冰雪よりも厲し――美しいこととかなしいこと』（島津書房、1998年）
• 『みはしのさくら――残照襤褸先生』（春秋詩社、2000年）
• 『歳月老ゆ――ある魂の軌跡』（伊勢神宮崇敬会、2002年）

編著

• 『日本国家にとって「神宮」とは何か』（編著、伊勢神宮崇敬会［伊勢神宮崇敬会叢書］、1995年）
• 『伊勢を語る――その過去・現在・未来 皇大神宮御鎮座二千年奉祝記念シンポジウウム』（編、伊勢神宮崇敬会［伊勢神宮崇敬会叢書］、1996年）

歌集

• 『本間久に代遺歌集 玉の緒』（編、兄弟文庫、1948年）
• 『幡掛正次十年祭献詠 桃花集』（編、兄弟文庫、1954年）
• 『歌集 雁がね』（宮下書店、1954年）
• 『歌集 花宴』（幡掛正浩、1960年）
• 『歌集 杖』（幡掛正浩、1976年）
• 『歌集 花深処』（天理時報社、1987年）
• 『歌集 花深処 拾遺』（天理時報社、1994年）

訳書

• ポール・リシャル著、アラビンダ・ゴ－シュ英訳 『黎明の亜細亜』（内外維新研究所［内外維新叢書］、1959年）
• ポール・リシャル『白日下の亜細亜』（兄弟文庫、1959年）

関連文献

• 神宮司庁編『度會神道大成 後篇』（神宮司庁［大神宮叢書］、1957年／臨川書店、1970年／吉川弘文館、2009年）※阪本健一との共編。
• 日本大学今泉研究所編『今泉定助先生研究全集 第1巻』（日本大学今泉研究所、1969年）
• 『神宮・明治百年史（上巻・中巻・下巻・補遺）』（神宮司庁文教部、1968-1971年）
• 南山宗教文化研究所編『神道とキリスト教――宗教における普遍と特殊』（春秋社［Nanzan symposium］、1984年）
• 黒住宗晴『心を語る――黒住教教主対談集』（日本文教出版、1985年）
• 神宮司庁編『神宮・明治百年史（上・下）』（神宮文庫、1987-1988年）
• 現代神道研究集成編集委員会編『現代神道研究集成（第八巻）神道教学研究編』（神社新報社、1999年）
• 現代神道研究集成編集委員会編『現代神道研究集成（第十巻）神道と日本文化』（神社新報社、2000年）
• 『幡掛正浩先生偲び草』（不良大学、2007年）