つりかけ駆動方式
つりかけ駆動方式(-くどうほうしき)とは、鉄道車両の駆動方式の1つ。
概要[編集]
鉄道車両の駆動方式の中で主電動機を車軸と台車枠で支え、平歯車で動力を伝達する方式。歴史はかなり古く、日本で最初に導入された電車でも採用された。ノーズ・サスペンション方式とバー・サスペンション方式の2種類がある。
主な長所は以下の通り。
- 構造が簡素で製造コストも安い。
- 構成が最小限である。
逆に短所は以下の通りである。
- 車軸に主電動機の半分の重量がかかるため、高速運転にはあまり向かない。
- 主電動機は衝撃に耐えるために必然的に重量が嵩む。
- 注油を毎回するなどメンテナンスが煩雑。
- 歯車の遊びが大きく取られやすく、必然的に低回転・大トルク型モーターを採用する傾向がある。
- 結果歯車比も小さくなってしまう。
- そのため独特の重低音が響きやすい。
- 結果歯車比も小さくなってしまう。
これらは転がり軸受やゴム緩衝の導入により改善されているが、さすがにばね下重量は根本的に改善できていない。
記事名について[編集]
漢字表記は「釣り掛け」「吊り掛け」の2種類がある。どちらかが正式名称でどちらかが誤りというわけではないが、2004年にWikipedia記事「吊り掛け駆動方式」が立項されると、鉄道ピクトリアルの表記が「釣掛」から「吊掛」に変わる[1]などのウィキアリティが起きている。本項では無用の論争を避けるためあえて平仮名表記を用いる。ちなみにJIS規格用語ではひらがなの「つりかけ」で表記されている。
日本において[編集]
特徴[編集]
先述のように最初の電車はつりかけ駆動であり、以降この方式が主流となった。
しかし、先述の欠点から電車分野では特殊狭軌線を除いてカルダン駆動方式に代わられて衰退し、電車分野ではレトロニムな対象となっている。
一方、機関車や特殊狭軌ではつりかけ駆動方式が健在である、
電気機関車では、東武鉄道ED5050形電気機関車で整備が煩雑なクイル駆動や技術的な事情により国鉄のEF80やEF30でカルダン駆動が採用されたものの、前述以外は基本的にVVVFインバータ制御であっても電気式ディーゼル機関車を含めつりかけ駆動方式が採用されている。
また、特殊狭軌線(軽便鉄道)では、1960年代前半に半ば特殊狭軌専用化した垂直カルダン駆動方式を開発した神鋼電機が電車駆動装置事業から撤退し、他社への事業継承もなかったことから、つりかけ駆動方式に回帰し、1990年(平成2年)の近鉄277系電車が最後の新造車となった三岐鉄道の270系電車や、2015年に四日市あすなろう鉄道に移管された近鉄内部・八王子線の260系電車が最後となっている。
ちなみに、路面電車のリトルダンサーシリーズのタイプS、タイプL、タイプT2は機器流用での新造が可能である以上つりかけ駆動での新造も可能であるが、今のところ該当車両は存在しない。
なお、発電ブレーキや回生ブレーキは装備していないイメージが強いが、京阪の急行用路面電車や60型、80型、叡山電鉄の車両の他、他社では先述の遠州鉄道30形電車、箱根登山鉄道の旧型車などにわずかながら電制搭載の例が存在する。
界磁チョッパ制御、界磁位相制御、界磁添加励磁制御との併用事例はないが電機子チョッパ制御との併用は、国鉄EF67形電気機関車が回生ブレーキ併用で、山陽電気鉄道270形電車281号車が回生ブレーキのない力行のみの仕様で存在した。
歴史[編集]
日本国内では、1920年代中期につりかけモーターの国産化に成功した。1927年には電車用150kW型、1928年には電気機関車用225kW型の国産モーターが登場した。
しかし、カルダン駆動方式が浸透され始めると徐々に淘汰が進んだ。
ノーズ・サスペンション式では1978年の遠州鉄道30形電車が最後の新造となり、特殊狭軌線(軽便鉄道)以外では江ノ島電鉄1200形電車を最後ににつりかけ駆動方式の電車の新造は途絶えた。
その後、21世紀に入っても嵐電や筑豊電気鉄道においてつりかけ駆動のまま台車交換された事例が存在し、つりかけ台車としては最後の事例となった。
車体更新を含めたつりかけ駆動の新造車は函館市電7000形電車が最後である。
特殊狭軌線を除く大手私鉄路線では、2011年全廃の名鉄6750系電車が最後のつりかけ車となった。
JR旅客鉄道会社では、線区の特殊事情から、大川支線と本山支線に吊り掛け駆動の車両が残ったが、前者は1996年、後者は2003年に全廃された。JR化後にもやむを得ない理由でクモハ84がつりかけ駆動で登場しているが、1996年に全廃されている。
その他事例[編集]
海外ではクラス323や台湾鉄路管理局EMU500形電車、ポーランド国鉄EW60形電車の更新車のようにつりかけ駆動方式とVVVFインバータ制御を組み合わせた事例が多数存在する。その中でもEMU500は空気ばね式のボルスタレス台車を採用している。さらに、イギリスの場合は2020年の令和に入っても日立製でない車両を中心につりかけ式のVVVF車が製造されている[2]ものと思われる。
架空鉄道でも近年の車両に吊り掛け駆動方式はほとんど見られないが、中部高速鉄道では広軌や直流3000V電圧といった特殊規格が災いしてつりかけ駆動方式の電車が2022年現在でも投入されるという設定が公表されている。
関連動画[編集]
関連項目[編集]
脚注[編集]
- 注釈
- 出典
- ↑ 「鉄道ピクトリアル」目次データ
- ↑ この動画においてつりかけサウンドが確認されているが、動画内のクラス331は2017 - 20年に製造された。