中野正

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中野 正(なかの ただし、1912年9月28日 - 1985年2月1日)は、経済学者。法政大学名誉教授。

経歴[編集]

福岡県宗像郡生まれ[1]私立金光中学校中央大学専門部法律学科を経て[2]、1937年東北帝国大学法文学部経済学科に編入学。経済学科の同年の入学者には内藤知周一柳茂次浅野正明鎌田正三志賀金吾大島清(新潟高校中退)、大島清(小樽高商卒業)らがおり[3]、内藤、一柳、鎌田、中野、2人の大島らは傍系入学者(旧制高等学校卒業生ではない入学者)だった[4]。1940年東北帝国大学法文学部経済学科卒業。東洋経済新報社編集局員となるが、同僚の禰屋不二夫記者が石橋湛山主幹の京城支局への転勤命令を断り、9月9日付で退社。石橋のワンマンぶりに反発し、杉本俊朗、細野宰男(のち細野武男に改名)、遊部久蔵とともに9月13日付で退社した(のちに国松藤一も退社。連袂退社事件。)[5]東亜研究所所員(第三部)[6]、敗戦後は世界経済調査会嘱託を経て[7]、1948年法政大学経済学部教授(経済原論担当)。1956年同大学大学院社会科学研究科教授(兼担)[6]。1959年「価値形態論」で経済学博士(東北大学)[8]。1959-1960年オックスフォード大学ハイデルベルグ大学イェール大学に留学。1963-1965年法政大学経済学部長、大学院経済学科主任、大学基準協会専門教育委員会委員。1969-1970年法政大学常務理事(学務担当)。1970-1972年法政大学理事。1972年経済システム研究会を設立、代表。1978年法政大学名誉教授。長野経済短期大学学長、信越経済研究所所長、学校法人長野中央学園理事[6]。1985年2月1日に中野の自宅の土地を詐取しようとした者によって自宅から拉致監禁され、暴行を受けて殺害された[9]。2月8日に遺体が発見された[10]。1986年に東京地裁は主犯格の男に無期懲役、従犯の男に懲役6年、もう1人の従犯の男に懲役4年の有罪判決を言い渡した[11]

1986年に中野正先生追悼集刊行委員会(代表者:公文俊平)編『中野正先生追悼集』が森田企版(代表者:森田実)から刊行された。1987年に中野正著作集刊行委員会(公文俊平、竹内靖雄堀元杉浦克己吉沢英成)編『中野正著作集(全4巻)』が森田企版から刊行された(発売は日本評論社)。1988年に中野の蔵書を東北大学附属図書館が受け入れ、「中野文庫」が設けられた[12]

人物[編集]

末永茂喜の門下生[13]宇野弘蔵の直弟子[14]。主著に『価値形態論』(日本評論新社、1958年)、『産業循環論』(日本放送出版協会、1965年)がある[15]。『価値形態論』で宇野弘蔵の価値形態論やアリストテレスからヘーゲルにいたる「生成の論理」=弁証法の論理に基づきマルクス資本論』の価値形態論を検討した[16]。その後、宇野理論からもマルクス経済学からも離脱した。田中菊次は中野の業績を「マルクスの『資本論』に没入しつつ、宇野批判に向っていた第一の時期」「『価値形態論』の執筆過程のうちに、宇野理論の深さに覚醒し、それに近接した第二の時期」「宇野理論からも、さらに、マルクス経済学からも離脱した第三の時期」の大きく3つに分けている[17]公文俊平は中野が『産業循環論』のため「宇野シューレから破門に等しい処遇を受け、以前の同僚達から批判はおろか言及すらされなくなるという非道な仕打ちを受けられ」たと回想している[18]川上忠雄は「宇野先生を囲む合宿研究会で、中野先生が「破門」された後、つぎには私が叱られる番となった」と回想している[19]

鈴木鴻一郎の招請[20]で1956年度に東京大学経済学部講師、1957年から1965年度に同大学大学院社会科学研究科講師を兼担した。1960年度に東北大学経済学部大学院講師を兼担した[6]。本務校の法政大学大学院のゼミは東大との合併ゼミとなった。中野ゼミの受講者に法大の院生では石垣今朝吉石井英朗[21]、東大の院生では岩田弘降旗節雄[21]香山健一[22]坂本忠次[23]廣松渉[24]公文俊平[18]竹内靖雄[25]杉浦克己[26]堀元[27]吉沢英成[28]などがいる。鎌倉孝夫は公文俊平や公文道明らとともに中野の自宅でヘーゲル『論理学』を学んだと述べている[29]櫻井毅によると、岩田弘、降旗節雄、公文俊平が熱心に中野ゼミに出席しており、岩田の世界資本主義論は中野との交渉が発想の刺激になった可能性がある[20]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『価値形態論』(日本評論新社、1958年)
  • 『経済原論(Ⅰ・Ⅱ)』(未名社、1963-1968年)
  • 『金融政策に関する証言――経済学英書講読』(有信堂、1965年)
  • 『産業循環論』(日本放送出版協会、1965年)
  • 『古典恐慌論』(雄松堂書店、1969年)
  • 『『資本論』の問題点――教養としての経済学』(経済システム研究会、1972年)
  • 『中野正著作集(全4巻)』(中野正著作集刊行委員会編、森田企版、発売:日本評論社、1987年)
    • 「第1巻 価値形態論」
    • 「第2巻 産業循環論・古典恐慌論」
    • 「第3巻 『資本論』の問題点・地代論その他の論文」
    • 「第4巻 金融政策に関する証言,論文・時評・随想など」

編著[編集]

  • 『経済学の方法――末永茂喜教授還暦記念論文集』(玉野井芳郎大島清、田中菊次共編、日本評論社、1968年)

訳書[編集]

  • ボナア編『リカアドのマルサスへの手紙(上・下)』(岩波書店岩波文庫]、1942-1943年)
    • リカアドオ『マルサスへの手紙(上・下)』(岩波書店[岩波文庫]、1949年)
  • E.G.ウェイクフィールド『イギリスとアメリカ――資本主義と近世植民地(全3巻)』(日本評論社[世界古典文庫]、1948年)
  • リカアドオ『リカアドオのマカロックへの手紙』(岩波書店[岩波文庫]、1949年)
  • J.B.セー『恐慌に関する書簡』(日本評論社[世界古典文庫]、1950年)
  • ディヴィッド・リカアドオ著、ジェイムズ・ボナア、ジェイコブ・H.ホランダア編『リカアドオのトラワアへの手紙』(岩波書店[岩波文庫]、1955年)
  • 『マルクス・エンゲルス選集 第1巻 ヘーゲル批判』(城塚登、日高普川口武彦玉野井芳郎小島恒久、島崎讓、奥田八二近江谷左馬之介共訳、新潮社、1957年)
  • ステュアート『経済学原理(全3巻)』(岩波書店[岩波文庫]、1967-1980年)
  • デイヴィド・リカードウ著、P. スラッファ編、M.H.ドッブ協力『デイヴィド・リカードウ全集 第6-9巻 書簡集』(監訳、雄松堂書店、1970-1975年)
  • ロバート・ベーコン、ウォルター・エルティス『英国病の経済学――あまりにも生産者が少なすぎる』(公文俊平、堀元共訳、学習研究社、1978年)
  • デイヴィド・リカードウ著、P. スラッファ編、M.H.ドッブ協力『デイヴィド・リカードウ全集 第11巻 総索引』(堀経夫共訳、杉本俊朗監修、雄松堂出版、1999年)

出典[編集]

  1. 押金丈雄「弔辞」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、449-451頁
  2. 山本広治「中野正君の中央大学時代」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、251-255頁
  3. 大島清「「老実」無比のダルマさん――学生時代の内藤知周」、労働運動研究所編『内藤知周著作集――日本社会主義革命の探求』亜紀書房、1977年、490-495頁
  4. 鎌田正三「回想・畏友 大島清君」『帝京経済学研究』28巻1号(通巻34号)、1994年12月
  5. 細野雄三「父 細野武男のこと」『立命館百年史紀要』第11巻、2003年3月
  6. a b c d 中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、ⅰ-ⅱ頁
  7. 杉本俊朗「弔辞」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、457-459頁
  8. 価値形態論 CiNii Research
  9. 公文俊平「編者まえがき」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、ⅴ-ⅷ頁
  10. 中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、491頁
  11. 公文俊平「編者あとがき」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、509-513頁
  12. 主要特殊文庫紹介 東北大学附属図書館
  13. 鈴木喜久夫「中野先生の恐慌理論」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、43-51頁
  14. 国松藤一「対照的だった彼と私」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、263-268頁
  15. 時永淑「中野経済学の原点にふれて」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、73-80頁
  16. 降旗節雄「中野正の経済学の性格について」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、99-116頁
  17. 田中菊次「中野さんの『資本論の問題点』の問題性」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、53-63頁
  18. a b 公文俊平「終生の師」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、146-148頁
  19. 川上忠雄「学成りがたし」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、291-294頁
  20. a b 櫻井毅岩田弘の世界資本主義論とその内的叙述としての経済理論PDF」『武蔵大学論集』第62巻第1号、2014年7月
  21. a b 石垣今朝吉「あれから三十年」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、194-198頁
  22. 香山健一「弔辞」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、461-463頁
  23. 坂本忠次「中野先生を偲ぶ」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、181-185頁
  24. 廣松渉「アインマール・イスト……」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、171-175頁
  25. 竹内靖雄「中野先生に献杯する文」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、155-159頁
  26. 杉浦克己「中野正先生の『産業循環論』に学ぶ」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、35-41頁
  27. 堀元「弔辞」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、467-469頁
  28. 吉沢英成「最後の、そして偉大な……」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、131-141頁
  29. 鎌倉孝夫「形態の実体化の論理――中野正『価値形態論』の問題点」、中野正先生追悼集刊行委員会編『中野正先生追悼集』森田企版、1986年、25-34頁