イスラエル国防軍の戦車 ティラン5

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ティラン5(Tiran 5)は、イスラエル国防軍(IDF)が運用したソビエト連邦製のT-54/55戦車を改修した主力戦車である。

概要[編集]

六日戦争(1967年)や第四次中東戦争(1973年)などの中東戦争において、イスラエル国防軍はエジプト、シリア、ヨルダンといった周辺アラブ諸国から多数のソビエト連邦製兵器を鹵獲した。これにはT-54およびT-55主力戦車も含まれており、これらの車両は「ティラン」(Tiran)の名称でイスラエル国防軍に編入された。

当初、鹵獲されたT-54/55は、ソ連製のD-10T 100mmライフル砲を搭載したまま運用された。これらの車両は「ティラン4」(T-54を改修)および「ティラン5」(T-55を改修)と分類された。しかし、イスラエル国防軍は西側製の兵器体系に合わせた改修を進め、ティラン5はロイヤル・オードナンス L7 105mm施条砲への換装をはじめとする大幅な近代化改修が施された。この改修により、ティラン5はイスラエル国防軍の戦力として一定期間運用され、特に予備役部隊において重要な役割を果たした。

開発と改修[編集]

イスラエル国防軍が大量のT-54/55戦車を鹵獲したのは、特に1967年の六日戦争であった。これらの車両は、ソ連製の装備体系とは異なるイスラエル国防軍の兵站システムに適合させるため、以下のような改修が行われた。

  • 主砲の換装:最大の特徴は、ソ連製のD-10T 100mmライフル砲を、西側諸国の標準的な戦車砲であるロイヤル・オードナンス L7 105mm施条砲へ換装した点である。これにより、ショット・カルM48パットンといった他のイスラエル主力戦車との弾薬の共通化が図られ、補給の効率化が実現した。
  • 機銃の変更:ソ連製のPK機関銃に代わり、ブローニングM2重機関銃FN MAG機関銃といった西側製機関銃が搭載された。特に砲塔上には、車長用と装填手用のM2重機関銃が追加されることが多かった。
  • エンジンと変速機の改修:一部の車両には、より強力なエンジンへの換装や、トランスミッションの改善が行われた。これにより、機動性の向上が図られた。
  • 外部装備の追加:燃料タンク、弾薬庫、工具箱などの外部装備がイスラエル独自の設計のものに交換されたり、追加されたりした。特に砲塔後部には大型の収納ラックが追加されることが多かった。
  • 通信機器の換装:ソ連製通信機器から、イスラエル国防軍標準の通信機器へ換装された。
  • 防御力の強化:一部の車両には、増加装甲が装着されたり、サイドスカートが追加されたりするなど、防御力の向上が図られた。

これらの改修により、ティラン5は単なる鹵獲兵器ではなく、イスラエル国防軍の要求に合わせた独自の戦車として生まれ変わった。

運用[編集]

ティラン5は、1960年代後半から1980年代にかけてイスラエル国防軍で運用された。当初は、主力戦車部隊の補充として、また予備役部隊の装備として使用された。特に消耗戦争や第四次中東戦争では、実戦投入された記録も存在する。

その後、メルカバ戦車の登場や、既存のマガフ(M48/M60パットン)およびショット・カル(センチュリオン)戦車のさらなる近代化改修が進むにつれて、ティラン5は第一線から退き、訓練用車両や予備車両として用いられるようになった。

1980年代には、多くのティラン5が退役し、一部は海外に売却された。特に南レバノン軍レバノン陸軍といった親イスラエル勢力に供与された例がある。また、一部の車両は装甲兵員輸送車や戦闘工兵車などの特殊車両に改造された。

派生型[編集]

  • ティラン4:鹵獲したT-54を改修した型。初期は100mm砲のまま運用されたが、後に105mm砲に換装されたものもある。
  • ティラン5:鹵獲したT-55を改修した型。最も多く改修が行われ、105mm砲への換装や各種西側装備の搭載が行われた。
  • ティラン6イスラエル国防軍内部での識別名称。ごく少数のT-62が鹵獲された際に「ティラン6」と呼称されたとされるが、大規模な改修・運用は行われなかった。
  • アチザリット:退役したT-54/55の車体をベースに、主砲を撤去し、大幅な装甲強化とエンジン換装を行った重装甲装甲兵員輸送車。ティランシリーズの運用経験が、アチザリットの開発に活かされた。

豆知識[編集]

  • ティラン戦車の名称は、シナイ半島南端に位置するティラン海峡に由来するという説があるが、公式な言及はない。
  • イスラエル国防軍は、鹵獲したソ連製戦車の運用に際して、徹底的な分析と研究を行った。これにより、ソ連戦車の弱点や特性を把握し、自国の戦車開発や対戦車戦術に活かしたと言われている。
  • ティラン5の砲身を覆うサーマルジャケットは、見た目の特徴の一つだが、これは改修時に追加されたものではなく、元々のT-55の装備である。しかし、イスラエルによる改修で砲身に様々なセンサーやマウントが追加され、独特の外観を呈するようになった。

関連項目[編集]

参考書籍 (国内)[編集]

  • 齋木伸生 著 『イスラエル軍戦車メカニズム』 2004年 グランドパワー別冊
  • 福島直純 著 『世界の戦車パーフェクトBOOK』 2011年 学研パブリッシング