スナック (日本の飲食業)
スナック(snack)とは、日本における主にアルコール飲料を提供する飲食業態の1つ。
概要[編集]
スナックとは日本独自の飲食、飲酒文化である[1]。
アジアの一部の国には、同様の業態の店があるが、日本には日本全国で約10万軒のスナックがあるとされ、各地に店があるのは、日本だけとも言える[1]。
日本において、スナックを統括する機関や団体が存在していなかったため、その全体像は長らく不明のままであった[2]。首都大学東京の谷口功一はスナック好きが高じ、2015年に「スナック研究会」を立ち上げ、様々な角度からデータを集めている[2]。
定義[編集]
日本において、アルコール飲料を提供する飲食業態、いわゆる「水商売」には居酒屋、バー、キャバクラなどがあるが、スナックもそういった水商売の1つと言える。しかしながら、明確な定義というものは存在しない[1]。
大まかにスナックを説明すると、以下のようになる[1]。
- 通常は「ママ」と呼ばれる女性店主が最低1人はいる。
- 店によってはアルバイトで女性を雇っていることもある。
- バーカウンター越しの接客が基本となる。
- ボックス席が設けられている店もあるが、従業員が同席することはない(接待行為になる)。同席した場合は風営法違反行為になる。
日本の法律的に言えば、スナックは風俗営業ではないため、接待行為が行えず、接客行為のみとなる。風営法によって、接待行為を行う従業員は18歳以上と定められているが、バーカウンター越しに接客行為を行うスナックの場合は、18歳未満でも働ける。しかし、勤務時間は夜の22時までとなる[3]。
なお、風俗営業1号許可を取得している店の場合は、接待行為も行える。
改正風営法[編集]
2025年6月28日に改正された風営法では、「接待行為」の明確化と規制の強化が行われており、以前は「接待行為」と見做されなかった以下のような行為も「接待」とみなされる可能性が高くなっている[4]。
- おしぼりを手渡しする。
- 客の隣に座って会話をする。
- 客のグラスに酒を注ぐ。
- 特定の客と過度に親密な会話を続ける。
上記は、以前ならばスナックにおける「自然なサービス」として接客行為と見做されていたが、風営法改正後は「接待行為」と見做され、許可が必要になる可能性ができている[4]。これ以外にも「客のタバコに火を点ける」「カラオケで客とデュエットする」「客と遊技やゲームを行う」も「接待行為」と見做される可能性があり、さらには客がカラオケを歌う際に手拍子を行っても「歓楽的な接待」とみなされる可能性もある[5]。
風営法に基づき、営業許可を取れば良いのであるが、そうなると今度は深夜0時までといった営業時間制限が発生する[4]。
無許可営業となった場合には、逮捕や最大3億円の罰金が科せられる可能性がある[5]。
歴史[編集]
第二次世界大戦後の日本でスタンディングバー(スタンドバー)と呼ばれるバーカウンターのみで座席の無い立ち飲みの酒場があった[1]。1964年東京オリンピックの開催にあたり、風俗浄化運動が起こり、前述のスタンディングバーなどが「不良が溜まってよくない」といった認識をされていたことから、都道府県条例が改正され、深夜営業の規制が厳しくなった[1]。この規制を回避するために食事、軽食を提供するようになったのがスナックの始まりである[1]。
1968年3月、パープル・シャドウズがシングル『小さなスナック』をリリース。同年9月には映画『小さなスナック』(松竹映画)が公開された[1]。
スナック好きとしても知られる玉袋筋太郎(お笑いコンビ浅草キッド)が会長となり、2014年に全日本スナック連盟が設立される。
店舗の状況[編集]
店舗数[編集]
前述の「10万軒」の数字は、谷口がNTTの電話帳登録内容から計上した数字である[2]。店を構えていても、固定電話を持たない事例も増えているため、実態は、もっと多いと推測されている[2]。
都道府県別の単純な総軒数では以下のようになる[2]。
しかし、人口比(人口あたりの店舗数)で見た場合、順位は以下のように大きく変わる[2]。
なお、対人口比では東京都、千葉県、埼玉県はそれぞれ44位、45位、46位と下位になり、総件数、対人口比のいずれでも奈良県は最下位となっている[2]。
全体的には「西高東低」の傾向があると言え、特に九州において圧倒的に人口比での店舗数が多い[2]。スナック研究会によるデータ分析では農漁村部のほうが人口あたりのスナックの数が多くなるという結果も出ている[2]。
市区町村別の人口あたりのスナックの数では、離島や周縁部で顕著に多いという傾向がある[2]。例えば、1700以上の全国の市区町村の中では、人口4000人弱の高知県奈半利町が全国5位であったり、沖縄県北大東村が全国8位となる[2]。
また、「スナックが多い街は犯罪が少ない」という分析もされており、「心理的に安心できる状態」≒社会的包摂(しゃかいてきほうせつ、ソーシャル・インクルージョン、英: social inclusion)にあるのではないかと推測されている[2]。
店名[編集]
スナック好きが高じて「スナッカー」というスナック検索サイトを開設した平本精龍の調査によれば、日本で最も多いスナックの店名は「さくら」(サクラ、Sakura、桜、櫻など読みが「さくら」も含む)である[6]。
以下、「あい」、「はな」、「ゆう」、「ひわまり」と続く[6]。
料金体系[編集]
以下は、一般的なスナックにおける料金制度であり、例外もある。
ほとんどが「セット料金」制となっている[6]。1時間とか2時間といった定められた時間内であれば、ハウスボトルのアルコール飲料は飲み放題となっている[6]。
これに加え、カラオケを利用すると1曲ごとに追加料金が発生する、延長料金が発生する、女性スタッフにおごると追加料金が発生するといった細かい料金システムは店によって異なる[6]。
また、店によっては10パーセント、20パーセントといったサービス料が徴収されることもある[6]。
ニュースナック[編集]
ニュースナックとは、スナックの従業員(ママ、スタッフ)や顧客の年齢層が若い店のことを指す[7]。
スナックの「ママ」が高齢女性(中には80歳代も)が多いのに比べ、ニュースナックでは20代から30代といったママも珍しくなく、同様に店で働く女性も若いことがニュースナックの一番の特徴に挙げられる[7]。
ニュースナックが増えてきた理由としては次の2点が考えられる[7]。
- 従来のスナックの経営者の高齢化によって、閉店が進んでいる。
- 飲食業で自分の店を持ちたいという若い女性は常にいて、閉店したスナック店舗を居抜きで使うことにより、開業資金が安く押さえられる。
2010年代以降、日本の景気が低迷しており、キャバクラで働いていた女性が独立してニュースナック業態の店をを開く女性も多い[7]。こういった女性はキャバクラ時代のノルマや指名制度から解放され、のんびりとした働き方を選ぶケースもある[7]。
脚注[編集]
- ↑ a b c d e f g h “オーシャンズ世代なら、スナックの逸話くらい語ってほしい”. OCEANS オーシャンズ (2017年2月6日). 2025年10月19日確認。
- ↑ a b c d e f g h i j k l 石原たきび (2017年2月12日). “オーシャンズ世代必読、「あっと驚く」スナックのトリビア”. OCEANS オーシャンズ. 2025年10月19日確認。
- ↑ “スナック、パブ、キャバクラの違いとは?”. TOWNWORKマガジン (2023年2月21日). 2025年10月19日確認。
- ↑ a b c “「日本のスナック文化」はどうなる? 「改正風営法」で行きつけの店が摘発される恐れも”. TABLO (2025年7月10日). 2025年10月19日確認。
- ↑ a b “「おしぼりを渡す」「隣に座り談笑」はNG スナック文化を揺るがす改正風営法”. ABEMA NEWS. p. 3 (2025年7月10日). 2025年10月19日確認。
- ↑ a b c d e f 石原たきび (2017年3月12日). “日本一多いスナックの店名、そして気になる「料金システム」は?”. OCEANS オーシャンズ. 2025年10月19日確認。
- ↑ a b c d e 石原たきび (2017年2月26日). “「ニュースナック」が増えているって知ってました?”. OCEANS オーシャンズ. 2025年10月19日確認。