グラマン X-29

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グラマン X-29(Grumman X-29)は、グラマン社が開発した実験的な航空機である。その最も顕著な特徴は、極端な前進翼と、従来の水平尾翼の代わりに胴体前方に配置されたカナード翼の組み合わせであった。この機体は、革新的な空力設計、複合材料の使用、およびフライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムの統合を通じて、高機動性と超音速性能を追求した。

開発[編集]

X-29の開発は、アメリカ国防高等研究計画局DARPA)が主導する「高機動航空機技術」(HiMAT)プログラムの一環として始まった。このプログラムの目的は、次世代の戦闘機に適用可能な新しい技術を検証することであった。1970年代後半に研究が開始され、1981年にグラマンがX-プレーン計画の契約を獲得した。

X-29は、既存の航空機の部品を流用することで、開発コストを抑える試みがなされた。例えば、主脚はF-16 ファイティング・ファルコンから、前脚はF/A-18 ホーネットから流用された。エンジンは、ゼネラル・エレクトリック F404-GE-400ターボファンエンジンが搭載された。

機体の設計には、不安定な空力特性を持つ前進翼を安定させるため、先進的なフライ・バイ・ワイヤ飛行制御システムが不可欠であった。このシステムは、毎秒40回以上、機体の姿勢を補正し、不安定な設計を人為的に安定させることを可能にした。

設計[編集]

X-29の最大の特徴である前進翼は、従来の後退翼とは逆方向に翼が取り付けられている。これにより、翼の空力中心が後方に移動し、亜音速域での高揚力特性と、超音速域での造波抵抗の低減が期待された。しかし、前進翼は翼のねじれを増大させる傾向があり、従来の金属材料では構造的な問題が生じる可能性があった。この問題を解決するため、X-29の主翼には、軽量かつ高剛性な炭素繊維強化プラスチックCFRP)などの複合材料が広く採用された。

また、X-29は、主翼の前にカナード翼を配置する「カナード翼」配置を採用していた。この組み合わせは、機体の空力制御をより細かく行うことを可能にし、高迎え角での優れた制御性を実現した。尾部には、垂直尾翼のみが配置され、水平尾翼は存在しなかった。

運用[編集]

X-29は合計2機が製造された。初号機(シリアル番号82-0003)は1984年12月14日に初飛行した。2号機(シリアル番号82-0049)は1989年に初飛行した。両機は、NASAドライデン飛行研究センター(現在のアームストロング飛行研究センター)とアメリカ空軍の共同で、広範な飛行試験プログラムに投入された。

飛行試験では、X-29の不安定な設計が、フライ・バイ・ワイヤシステムによって効果的に制御されることが実証された。また、前進翼の空力特性、特に高迎え角での優れた失速特性と、超音速飛行時の性能が評価された。X-29は、音速を超える飛行も実施し、その性能は設計目標を達成したと評価された。

飛行試験プログラムは1992年に終了し、X-29は退役した。この機体から得られたデータは、将来の戦闘機の設計に大きな影響を与えたと考えられている。

現状[編集]

現在、X-29初号機はアメリカ合衆国オハイオ州デイトンにある国立アメリカ空軍博物館に、2号機はカリフォルニア州エドワーズ空軍基地にあるアームストロング飛行研究センターにそれぞれ展示されている。

豆知識[編集]

  • X-29の設計は、その特異な外見から「逆さまの翼」を持つ飛行機としてしばしば言及された。
  • X-29は、現代のステルス機の設計に繋がるラダーレス飛行制御の概念も検証していた。
  • 不安定な機体を制御するために、X-29のフライ・バイ・ワイヤシステムは毎秒40回以上の制御入力を行っていた。これは当時のコンピュータ技術の限界に挑戦するものであった。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 米国国防総省. (年不明). 『X-29 Advanced Technology Demonstrator』. (出版者不明).
  • Jane's All the World's Aircraft. (毎年出版). (出版者不明).