海上自衛隊 救難飛行艇 US-2

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US-2は、新明和工業が開発し、海上自衛隊が運用する救難飛行艇である。US-1Aの後継機として開発され、不整地着水能力、航続距離、低速安定性などが大幅に向上している。

開発経緯[編集]

US-2の開発は、海上自衛隊が運用していたUS-1Aの老朽化に伴い、その後継機として計画された。US-1Aは優れた性能を持つ救難飛行艇であったが、機体の旧式化や、より長距離の捜索救難任務に対応できる能力が求められるようになっていた。

1996年にUS-1A改として開発がスタートし、新明和工業はUS-1Aの運用実績で培われた技術を基盤としつつ、最新の航空技術を導入して設計を進めた。主な改良点として、エンジン出力の強化、フライ・バイ・ワイヤシステムの導入、与圧キャビンの採用などが挙げられる。

最初の試作機(US-1A改)は2003年12月18日に初飛行に成功。その後、各種試験を経て2007年に「US-2」として制式採用され、海上自衛隊への部隊配備が開始された。

機体[編集]

US-2は、高いSTOL(短距離離着陸)性能と、荒れた海上での離着水能力を特徴とする。これらの能力は、遭難船舶や航空機からの救難要請に対し、迅速かつ安全に現場へ急行するために不可欠である。

機体構造[編集]

US-2は高翼単葉の大型飛行艇であり、機体は主にアルミニウム合金製である。耐腐食性を考慮した特殊な表面処理が施されている。艇体底部は波の影響を軽減するための特殊な形状をしており、優れた耐波性を発揮する。

エンジン[編集]

エンジンは、ロールス・ロイス製のAE 2100Jターボプロップエンジンを4基搭載している。各エンジンの出力は4,600馬力であり、US-1Aと比較して大幅に強化された。これにより、離水性能の向上と、より長距離の飛行が可能となった。また、プロペラは住友精密工業製のハミルトン・スタンダード社製R384プロペラを採用している。

飛行システム[編集]

フライ・バイ・ワイヤシステムが導入されており、操縦負荷の軽減と飛行安定性の向上が図られている。また、GPSや慣性航法装置(INS)といった最新のアビオニクスを装備し、悪天候下や夜間でも精密な航法を可能にしている。コックピットはグラスコックピット化されており、多数の多機能ディスプレイによって飛行情報が表示される。

救難装備[編集]

機体後部には大型のカーゴドアが設けられており、救助艇や救命具などの投下が可能である。機内には医療処置を行うためのスペースも確保されており、遭難者の収容後、応急処置を行うことができる。また、FLIR(前方監視赤外線装置)やサーチライトなどの捜索装備も充実している。

運用[編集]

US-2は、主に岩国航空基地に所在する第31航空群第71航空隊と、厚木航空基地に所在する第31航空群第71航空隊に配備され、日本の広大な排他的経済水域における捜索救難活動に従事している。

捜索救難活動[編集]

US-2は、洋上における船舶の遭難、航空機の墜落事故、離島などからの急患輸送など、多岐にわたる任務に対応している。特に、荒れた海象下でも着水できる能力は、他の航空機では対応が困難な状況での救難活動において、その真価を発揮する。

国際貢献[編集]

日本国内での任務に加え、US-2は海外での災害派遣や国際的な捜索救難活動においても貢献している。2011年東日本大震災では、洋上での捜索活動や物資輸送に活躍した。また、近年では海外からの購入検討もなされており、日本の航空技術の象徴としても注目されている。

派生型[編集]

US-2は基本的に救難任務に特化した単一の型式であるが、将来的な多用途展開も検討されている。

  • US-2i:インド海軍への輸出を目指した提案型。
  • US-2多用途型:輸送、哨戒、消防などの任務に対応する派生型の検討がなされている。

採用国[編集]

仕様[編集]

項目 性能
全長 33.46 m
全幅 33.15 m
全高 9.82 m
翼面積 140 m²
空虚重量 25,600 kg
最大離陸重量 47,700 kg
エンジン ロールス・ロイス AE 2100J ターボプロップエンジン × 4基
出力 4,600 shp × 4
最大速度 560 km/h (302 kt)
巡航速度 480 km/h (260 kt)
航続距離 4,700 km (2,500 nm)
実用上昇限度 7,300 m (24,000 ft)
乗員 11名 (操縦員2名、戦術航空士1名、機上整備員1名、救難員6名、航空医官1名)

豆知識[編集]

  • US-2は、世界で唯一、波高3mの荒れた海でも離着水が可能な飛行艇である。
  • 開発当初、その高い技術力から「魔法のじゅうたん」と称された。
  • US-2の機体は、新明和工業の徳島工場で製造されている。
  • US-2の名称は、「US-1の後継機」および「United States(アメリカ合衆国)への輸出を意識した2代目」という意味が込められていると言われている。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 『航空ファン』
  • 『世界の艦船』
  • 新明和工業 公式ウェブサイト