自走砲 SU-122)
SU-122(露: СУ-122)は、第二次世界大戦中にソビエト連邦で開発・製造された自走砲である。T-34中戦車の車体をベースに、122mm榴弾砲を搭載していた。
開発[編集]
独ソ戦開戦後、ソビエト連邦はドイツ軍の強力な戦車や防御陣地に対抗するため、対戦車能力と歩兵支援能力を兼ね備えた自走砲の開発を急務としていた。従来の牽引式火砲では、移動や展開に時間がかかり、戦場の機動戦に対応しにくいという問題があったためである。
1942年、ソビエト連邦国防人民委員部は、既存の戦車の車体を利用した自走砲の開発を指示した。この要求に対し、ウラル重機械工場(UZTM、ウラルマッシュ)は、当時量産されていたT-34中戦車の車体を利用し、そこにML-20 152mm榴弾砲を搭載したSU-152の開発と並行して、M-30 122mm榴弾砲を搭載した自走砲の開発を進めた。M-30は、当時赤軍の標準的な野戦榴弾砲であり、その弾薬の供給体制も確立されていたため、効率的な生産が見込まれた。
開発は急速に進められ、1942年10月には試作車が完成した。当初の名称は「GAZ-71」であったが、後に「SU-122」と改められた。テストの結果、122mm榴弾砲の火力は、当時のドイツ軍の戦車や防御陣地に対して十分有効であることが確認されたれた。また、T-34のコンポーネントを流用することで、生産性の高さも評価された。
設計[編集]
SU-122は、T-34中戦車の車体をベースに、密閉式の戦闘室を設けている。車体前部に大きく張り出した戦闘室には、ML-20S 122mm榴弾砲が搭載された。この榴弾砲は、原型であるM-30 122mm榴弾砲を車載用に改良したものである。
戦闘室の装甲厚は、前面45mm、側面45mm、後面45mmであった。これはT-34の車体とほぼ同等の防御力であり、当時のドイツ軍の対戦車砲に対しては限定的な防御力しか持たなかった。しかし、SU-122は主に歩兵支援や陣地攻撃を目的としていたため、十分な装甲と見なされた。
乗員は5名で、車長、砲手、装填手2名、操縦手で構成されていた。主武装の122mm榴弾砲は、榴弾や対戦車榴弾(HEAT弾)を発射することができた。特にHEAT弾は、装甲貫徹能力が高く、重装甲のドイツ戦車に対しても有効であった。しかし、SU-122には副武装が装備されておらず、近接防御は乗員の携帯火器に頼るしかなかった。
機動性については、T-34と同じV-2-34ディーゼルエンジンを搭載しており、最高速度55km/hと、当時の自走砲としては良好な機動力を有していた。これにより、歩兵部隊との連携や、戦線の迅速な移動が可能となった。
運用[編集]
SU-122は、1942年末から量産が開始され、1943年初頭には実戦に投入された。主に自走砲連隊に配備され、歩兵部隊の直接火力支援や、敵の防御陣地の破壊に用いられた。
初めて大規模に投入されたのは、1943年のクルスクの戦いである。ここでは、ソ連軍の反攻作戦において、ドイツ軍のティーガーI重戦車やパンター中戦車に対する有効な対抗手段としても期待された。SU-122の122mm榴弾砲は、HEAT弾を使用することでこれらの重装甲戦車にもダメージを与えることができたが、その命中精度や発射速度の問題から、純粋な対戦車戦闘においては限定的な成功に留まった。しかし、その強力な榴弾による制圧射撃は、歩兵部隊の進撃を大きく支援した。
SU-122は、その後の独ソ戦においても、東部戦線の様々な戦場で活躍した。特に、都市部での戦闘や要塞攻略において、その大口径榴弾の威力は絶大な効果を発揮した。しかし、戦闘室が密閉されているため、乗員の視界が制限されるという欠点も指摘された。また、副武装がないため、敵歩兵の接近を許した場合に脆弱であった。
総生産数は、1944年に生産が終了するまでに、1,150輌以上が製造された。SU-122の成功は、ソ連における自走砲開発の基礎となり、後のSU-85やSU-100といった駆逐戦車の開発にも影響を与えた。
バリエーション[編集]
- SU-122M:SU-85の車体を流用し、砲を前方にオフセットした試作車両。量産には至らず。
- SU-122-54:戦後のIS-3重戦車シャーシをベースに開発された、同名の自走砲。本稿のSU-122とは直接的な関連はない。
豆知識[編集]
SU-122の「SU」は、ロシア語で「自走砲」を意味する「Са́мохо́дная артиллери́йская устано́вка」(Samokhodnaya artilleríyskaya ustanóvka)の頭文字に由来する。続く「122」は、搭載している砲の口径(122mm)を示している。本車は、SU-76やSU-85など、ソ連自走砲シリーズの先駆けとなった車両の一つである。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- Zaloga, Steven J. (1984). Soviet Tanks and Combat Vehicles of World War Two. Arms and Armour Press. ISBN 0-85368-606-8.
- ソ連戦車史研究会編 (2007). 『ソ連軍戦闘車両大図鑑』. 大日本絵画. ISBN 978-4-499-22941-2.