M8 75mm自走榴弾砲

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

M8 75mm自走榴弾砲(M8 75mm Howitzer Motor Carriage)は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で開発・生産された自走榴弾砲である。M5軽戦車の車体をベースに75mm榴弾砲を搭載したもので、主に歩兵部隊への火力支援を目的として運用された。

開発[編集]

1941年アメリカ陸軍は歩兵部隊への随伴火力支援を目的とした自走榴弾砲の開発を要求した。当時、アメリカ陸軍は榴弾砲を搭載した車両を保有しておらず、この要請は喫緊の課題であった。当初はM3中戦車の車体を流用したM7 105mm自走榴弾砲の開発が進められていたが、より小型軽量で機動力の高い車両も求められた。

これを受けて、M5軽戦車の車体をベースとした自走榴弾砲の開発が開始された。M5軽戦車は、M3軽戦車の改良型であり、信頼性の高いエンジンとサスペンションシステムを備えていた。主砲には、当時開発中であったM3 75mm戦車砲の短砲身型である75mm榴弾砲M2あるいはM3が選定された。この砲は、榴弾による制圧射撃に加え、対戦車榴弾(HEAT弾)も発射可能であり、ある程度の対戦車能力も有していた。

1942年4月、最初の試作車であるT47が完成した。T47はM5軽戦車の砲塔を撤去し、オープントップの大型砲塔に75mm榴弾砲を搭載した形式であった。試験の結果、機動性、火力ともに良好と評価され、同年9月にはM8 75mm自走榴弾砲として制式採用された。生産はゼネラルモーターズ傘下のキャデラック社によって行われ、1942年9月から1944年1月にかけて合計1,778輌が製造された。

設計[編集]

M8自走榴弾砲は、M5軽戦車の車体構成をほぼ踏襲している。車体前部に操縦席と副操縦席があり、中央部から後部にかけて戦闘室が配置された。戦闘室はオープントップ構造であり、防御は砲塔前面の44mmを筆頭に、車体前面38mm、側面25mmと軽戦車と同程度の装甲厚であった。

主武装である75mm榴弾砲M2またはM3は、M5軽戦車と共通の砲塔リングを持つ大型のオープントップ砲塔に搭載された。砲塔は360度旋回が可能であり、俯仰角は-8度から+40度であった。搭載弾薬は46発と比較的豊富であった。副武装として、砲塔後部に12.7mm M2重機関銃が装備され、対空・対人戦闘に用いられた。

エンジンはコンチネンタル社製のR-975-C1空冷星形9気筒ガソリンエンジンを搭載し、出力は340馬力であった。サスペンションは、M5軽戦車と同じくVVSS(垂直渦巻スプリングサスペンション)方式を採用しており、不整地での走行性能も優れていた。最高速度は整地で56 km/h、行動距離は160 kmであった。

運用[編集]

M8自走榴弾砲は、主にアメリカ陸軍機甲師団歩兵師団の偵察大隊、あるいは戦車大隊内の火力支援部隊に配備された。その任務は、敵の防御拠点に対する間接射撃による火力支援、歩兵部隊への直接射撃による支援、そして必要に応じて対戦車戦闘を行うことであった。

第二次世界大戦中、M8自走榴弾砲は北アフリカ戦線イタリア戦線ノルマンディー上陸作戦以降の西部戦線、そして太平洋戦線と、あらゆる戦域で広く運用された。特に、トーチカや陣地に対する直接射撃においては、その高い機動力と75mm榴弾の破壊力が有効であった。また、オープントップ構造は乗員の視界を確保し、状況認識に優れていたが、反面、上空からの攻撃や砲弾の破片に対する脆弱性も抱えていた。

しかし、戦車砲が大型化し、重装甲化が進むにつれて、M8の75mm榴弾砲では威力不足となる場面も増えていった。特にドイツ国防軍の重戦車に対しては、その限定的な対戦車能力では対応が困難であった。このため、後にはより強力なM7 105mm自走榴弾砲や、M4中戦車の車体を用いたM4 (105mm) 自走榴弾砲などがその役割を担うようになっていった。

第二次世界大戦後も、M8自走榴弾砲はフランス陸軍イギリス陸軍中華民国軍など、多くの国々に供与され、朝鮮戦争などでも使用された。一部の国では、1960年代まで現役で運用されていた記録もある。

バリエーション[編集]

  • T47:試作名称。
  • M8:量産型。75mm榴弾砲M2またはM3を搭載。
  • M8A1:M5A1軽戦車の車体を使用した改良型。主砲は75mm榴弾砲M3を搭載。生産後期に移行。

豆知識[編集]

  • M8自走榴弾砲は、その外見から「スチュアート・ハウイ(Stewart Howie)」という愛称で呼ばれることもあった。これは、ベースとなったM5軽戦車がイギリス軍で「スチュアート」と呼ばれていたことに由来する。
  • 一部のM8自走榴弾砲は、戦後、消防車や作業用車両に改造されて民間転用された例もある。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Zaloga, Steven J. (2013). *M3 & M5 Stuart Light Tank 1940–45*. Osprey Publishing. ISBN 978-1849089839.
  • Hunnicutt, R. P. (1992). *Stuart: A History of the American Light Tank, Volume 1*. Presidio Press. ISBN 978-0891414620.
  • Military History Online. "M8 75mm HMC". Military History Online. (最終閲覧日: 2025年6月15日)