M4シャーマン
M4シャーマン(M4 Sherman)は、第二次世界大戦中にアメリカが開発・製造した中戦車である。その堅牢な設計、高い生産性、そして多岐にわたる派生型により、連合国軍の主力戦車として幅広く運用された。
開発と生産[編集]
M4シャーマンの開発は、先行するM3中戦車の主砲が車体側面に装備され、全周旋回砲塔を持たないという運用上の欠点を克服するために開始された。1941年2月に設計が始まり、同年9月には最初の試作車であるM4A1が完成した。
生産は、既存の自動車工場や鉄道車両工場など、多数の企業で行われた。これにより、M4シャーマンは短期間で大量生産が可能となり、終戦までに約5万両近くが生産された。これは、第二次世界大戦における単一の戦車モデルとしては、ソビエト連邦のT-34に次ぐ生産数である。
設計と特徴[編集]
M4シャーマンは、火力、機動力、防御力のバランスが取れた設計となっていた。
武装[編集]
初期のM4シャーマンは、75mm M3戦車砲を主武装としていた。この砲は、対歩兵榴弾(HE弾)と徹甲弾(AP弾)の両方を使用でき、汎用性が高かった。しかし、戦争が進むにつれてドイツ軍の新型戦車(ティーガーI、パンターなど)の重装甲に対抗するため、より強力な76mm M1戦車砲や、イギリス製の17ポンド砲(シャーマン ファイアフライ)を搭載する型も開発された。副武装として、車体前部に1丁のブローニングM1919重機関銃と、砲塔上部に1丁のM2重機関銃が搭載された。
装甲[編集]
M4シャーマンの装甲は、車体前面が傾斜装甲を採用しており、弾道の偏向効果を狙っていた。初期生産型では溶接構造や鋳造構造が混在していたが、後期型では溶接構造が主流となった。乗員の保護を強化するため、湿式弾薬庫や追加装甲の装着も行われた。
機動力[編集]
エンジンには、航空機用の空冷星形エンジンやディーゼルエンジン、さらには複数基の自動車用エンジンを組み合わせたものなど、様々なタイプが採用された。HVSS(水平渦巻ばね懸架装置)やVVSS(垂直渦巻ばね懸架装置)といった懸架装置により、不整地での走行性能も確保されていた。最高速度は約35~48km/hと、当時の戦車としては平均的な性能であった。
主要な派生型[編集]
M4シャーマンはその生産数の多さから、様々な派生型が開発された。
- M4:初期生産型。
- M4A1:鋳造車体を持つ初期型。
- M4A2:ディーゼルエンジン搭載型。
- M4A3:ガソリンエンジン搭載型で、後期型の主力となった。
- M4A3E8(イージーエイト):HVSSサスペンションと76mm砲を搭載した最終生産型の一つ。
- M4A4:クライスラー社製のマルチバンクエンジン搭載型。
- M4A5:カナダで生産されたラム巡航戦車の名称。
- M4A6:試作型。
- シャーマン ファイアフライ:イギリス軍が17ポンド砲を搭載した改修型。強力な対戦車能力を持った。
- M32戦車回収車:戦車回収型。
- M4指揮戦車:砲を撤去し、通信機器を強化した指揮型。
- M4A3R2DD:DD戦車、水陸両用戦車。
戦歴[編集]
M4シャーマンは、第二次世界大戦の全ての主要戦線で運用された。北アフリカ戦線、イタリア戦線、西部戦線、そして太平洋戦線において、連合国の主力として活躍した。
当初はドイツ国防軍のIII号戦車やIV号戦車に対して優位に立っていたものの、後に登場したティーガーIやパンターといった重戦車・中戦車に対しては、その火力と装甲で劣勢に立たされることもあった。しかし、M4シャーマンの圧倒的な生産数と、優れた信頼性、そして部隊の練度により、連合国軍は数的優位を保ち、最終的な勝利に貢献した。
第二次世界大戦後も、朝鮮戦争や中東戦争など、様々な紛争で運用され続けた。一部の国では21世紀初頭まで現役で使用されていた記録もある。
豆知識[編集]
- M4シャーマンの「シャーマン」という愛称は、南北戦争で活躍したウィリアム・T・シャーマン将軍にちなんでイギリス軍が命名したものであり、アメリカ軍が公式に命名したものではない。
- 車内は比較的広く、乗員からは好評だった。
- 湿式弾薬庫の導入により、誘爆による火災の危険性が大幅に減少した。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- Zaloga, Steven J. Sherman Medium Tank 1942–45. Osprey Publishing, 1993. ISBN 978-1855322967
- Fletcher, David. Sherman Tank Production, 1941–45. Osprey Publishing, 2021. ISBN 978-1472847926
- グランドパワー別冊「M4シャーマン戦車」(ガリレオ出版)