Dropbox
Dropbox(ドロップボックス)は、アメリカのDropbox Inc.が提供するオンラインストレージサービスである。[1]
概要[編集]
他のオンラインストレージと比較し無料アカウントの容量が2GBで少ない。オンラインストレージとローカルにある複数のコンピュータ間でデータの共有や同期を可能とする。
製品とプラン[編集]
主な製品[編集]
ファイルの保存と同期に加えて、Dropboxは文書作成、ファイル送信、電子署名、検索などの製品を提供している[2]。
Dropbox Paperは、複数の利用者が同じ文書を同時に編集できる文書作成の製品で、2017年1月30日に21の言語で正式提供が始まった[3]。
Dropbox Transferは、共同作業を必要としないファイルを相手に送るための製品で、受信者はDropboxのアカウントを持たなくてもリンクからダウンロードできる[4]。Dropbox Signは、書類への署名の依頼と収集をオンラインで完結させる電子署名の製品で、同社は、書類を印刷・記入・スキャンして返送する手順を経ずに一連の処理をコンピューター上で行えると説明している[5]。
Dropbox Dashは、社内の各種サービスを横断して検索する人工知能を用いた製品で、2023年に発表され、2024年に法人向けのDash for Businessが加わった[6]。
分散したチームでの利用[編集]
同社は自社の製品群を、テレワークなど離れた場所で働くチームでの利用を前提に位置づけている。年次報告書では、事業の重点が「ファイルの同期を保つこと」から「チームの状態をそろえること」へ広がったと記載し、世界の企業が分散した環境に適応するなかで、分散したチームが優先順位を付け、情報を整理し、どこからでも作業を進められるようにする道具を提供しているとしている。同社はリモートないし分散した働き方への移行を長期にわたる変化と位置づけ、そこから生じる市場機会に対応できるかを事業上の要素として挙げている[2]。
プランの構成[編集]
Dropboxは、無料の枠と有料の定額制を組み合わせたフリーミアムの形態で提供されている。2026年9月時点の日本語のプラン一覧では、個人向けに無料のBasic(2ギガバイト)と1人用のPlus(2テラバイト)が、チーム向けに3人以上で利用するStandard(チーム全体で5テラバイト)とAdvanced(チーム全体で15テラバイト以上)が置かれ、大規模な組織向けのEnterpriseは個別の見積りとなっている。プランによって、削除したファイルを復元できる期間、1回に送れるファイルの容量、ランサムウェアの検知と復元、データの分類、シングルサインオンなどの管理向けの機能に違いがある[7]。ヘルプセンターの案内では、これらに加えてFamily、Professional、Essentials、Business、Business Plusといった名称のプランも用いられている[8][4]。
無料の容量は他の利用者を紹介することで増やすことができる。2024年12月時点の案内では、紹介した相手が登録してデスクトップアプリにサインインし、メールアドレスを確認すると双方に容量が加算され、Basicでは1人につき500メガバイト(上限16ギガバイト)、Plus・Family・Professionalでは1人につき1ギガバイト(上限32ギガバイト)である[9][10]。
管理機能[編集]
チーム向けのプランには、契約者の管理者が利用者のアカウントと設定をまとめて扱うための管理コンソールが用意されている[11]。管理者は、メンバーの追加方法(招待メールの個別送信と、LDAPなどの既存のディレクトリ構成と連携した自動追加)、チーム外の相手と共有できるかどうか、認証の方式を設定でき、認証では2段階認証の必須化や、チームのシングルサインオンの有効化を選べる[12]。
チームの操作記録(アクティビティログ)を外部のログ管理サービスに取り込む連携も各提供元から公開されており、Sumo Logicは利用状況のデータを取り込む専用アプリを、Datadogは同社マーケットプレイスで第三者ベンダー(Crest Data Systems)が提供するアクティビティログ取り込みの連携をそれぞれ文書で案内している[13][14]。
技術とインフラ[編集]
ソフトウェアと同期エンジン[編集]
Dropboxのサーバー側と当初のデスクトップアプリはPythonで書かれていた[15]。2012年にブラウザー側のコードがJavaScriptからCoffeeScriptへ書き直され[16]、2014年7月の技術ブログでは、性能を重視するバックエンドをPythonからGoへ移し、約20万行のGoのコードで基盤の主要な部分の移行を終えたとしている[17]。
デスクトップアプリでファイルの同期を担う部分(同期エンジン)は、2008年のベータ公開当時から使われてきたPython製のものが長く用いられていた。同社は約4年をかけてこれを一から書き直し、2020年3月にコード名「Nucleus」として全利用者への提供を完了したと公表した。NucleusはRustで書かれており、担当した技術者は、型システムによって複雑な前提条件を検査できる点が同期処理の複雑さを扱う助けになったと説明している[15]。
自社基盤への移行[編集]
Dropboxは創業から約8年間、利用者のファイルの本体をAmazon Web ServicesのAmazon S3上に保存していた(ファイルに関するメタデータは当初から自社のデータセンター内の自社の機器で管理していた)。同社は2013年夏から独自のストレージ基盤「Magic Pocket」の開発に着手し、約2年半をかけて自社で設計した機器と自社で書いたソフトウェアへの移行を進め、2016年3月時点でファイルの約9割を新しい基盤へ移したと『Wired』は報じた。同誌は、この基盤が数百ペタバイト規模のデータをAmazon S3上より効率よく保存することを目指した設計だと報じており、同社のエンジニアリング担当副社長アディティア・アガーワル(Aditya Agarwal)は同誌に対し、クラウド事業を慈善事業として営んでいる者はおらず、どこかに利益が乗っていると述べている[18]。
2025年12月期の年次報告書によれば、利用者データの9割超は同社が独自に構築した基盤に保存されており、データセンターのコロケーション設備はオレゴン州、テキサス州、バージニア州、パリ、ハンブルクに置かれている。残りの保存需要とサービスの提供の補助にはAmazon Web Servicesを併用しており、利用するAWSのデータセンターは米国、オーストラリア、欧州、日本にあって、コンテンツを保存する地域を利用者側の所在に合わせられるとしている[2]。
監視[編集]
Dropboxはサーバー側アプリケーションの監視(オブザーバビリティ)の仕組みを自社で開発している。2019年11月の技術ブログでは、監視システム「Vortex」を構築して2018年に監視と通知の仕組みを作り直し、その仕組みが1,000台の機器にまたがって稼働して6万件のアラートを継続的に評価していることが説明されている[19]。
対応プラットフォーム[編集]
2025年3月時点で、デスクトップアプリはパソコン向けの複数のOSに対応している[20]。モバイルアプリはAndroidとiOS(iPhoneおよびiPad)向けに提供され、端末の内蔵カメラで撮影した写真や動画を直接保存する機能や、指定したファイルをオフラインでも参照できるようにする機能が案内されている[21]。
歴史[編集]
創業とサービス開始[編集]
Dropboxは、マサチューセッツ工科大学の学生であったドリュー・ヒューストンが、USBメモリを繰り返し紛失した経験をきっかけに構想した[22]。ヒューストンは2007年5月にEvenflow, Inc.をデラウェア州で設立し、同社を運営主体としてDropboxの開発を始めた[23]。もう一人の共同創業者はアラシュ・フェルドーシである[22]。2007年夏にはYコンビネータのプログラムに参加してデモデーで製品を披露し[24]、セコイア・キャピタルが主導する120万ドルの転換社債による調達を経て、2008年10月には同じくセコイア・キャピタルが主導する600万ドルのシリーズA投資を受けた[25]。
サービスは2008年9月に正式に公開され[26]、社名は2009年10月にEvenflow, Inc.からDropbox, Inc.へ変更された[23]。
利用者の拡大[編集]
2011年10月には、Index Venturesが主導する2億5000万ドルのシリーズB投資を受けた[27]。登録利用者数は2013年7月に1億7500万人[28]、2016年3月に5億人に達し[29]、2021年12月31日時点では7億人を超えている[30]。
2013年には、モバイル向けの電子メールアプリMailboxを買収し、2014年には写真を閲覧・共有するアプリCarouselを公開した。2015年12月7日、同社は共同作業の分野に注力するとして両アプリの提供終了を発表し、Mailboxは2016年2月26日、Carouselは2016年3月31日に終了するとした[31]。
株式公開[編集]
Dropbox, Inc.は2018年2月23日、米国証券取引委員会にForm S-1を提出して株式公開を申請した[23]。
Class A普通株は2018年3月23日からNASDAQでティッカーシンボル「DBX」の下で取引を開始し、同日の終値は1株28.48ドルであった。公開手続は同年3月27日に完了し、公開価格は1株21.00ドル、引受手数料を差し引いた手取り額は追加取得分を含めて合計7億4660万ドルであった[32]。
上場後[編集]
2019年1月、Dropboxは電子署名サービスを手がけるHelloSignを2億3000万ドルの現金で取得した。VentureBeatはこれを当時判明していた同社最大の買収と位置づけている[33]。2020年10月、リモート勤務を基本とする勤務制度「Virtual First」を発表した(後述)[34]。2021年、社員の11パーセントに当たる人員をレイオフすると発表した[35]。
2026年5月26日、Dropboxはヒューストンが最高経営責任者を退き取締役会長(executive chairman)に就くこと、および最高製品責任者のアシュラフ・アルカルミ(Ashraf Alkarmi)が昇格して一定期間ヒューストンとともに共同最高経営責任者を務めた後に単独で最高経営責任者に就くことを発表した[22]。
企業と事業[編集]
業績[編集]
Dropbox, Inc.はフリーミアム型の事業モデルを採り、無料で使える容量つきのアカウントを提供したうえで、容量と機能を追加する有料の定額契約から収益を得ている。2025年12月期には売上の90パーセント超を利用者自身が申し込む経路(セルフサーブ)から得ており、同年に売上の1パーセントを超えた顧客はなかった[2]。売上高は2016年12月期の8億4480万ドルから2025年12月期の25億2100万ドルへ推移している[36]。
| 決算期 | 売上高[36] | 純利益[37] | 従業員数 |
|---|---|---|---|
| 2016年12月期 | 8億4480万ドル | — | — |
| 2017年12月期 | 11億680万ドル | — | 1,858人[23] |
| 2018年12月期 | 13億9170万ドル | — | 2,323人[32] |
| 2019年12月期 | 16億6130万ドル | — | — |
| 2020年12月期 | 19億1390万ドル | — | — |
| 2021年12月期 | 21億5790万ドル | 3億3580万ドル | 2,667人[30] |
| 2022年12月期 | 23億2490万ドル | 5億5320万ドル | — |
| 2023年12月期 | 25億160万ドル | 4億5360万ドル | — |
| 2024年12月期 | 25億4820万ドル | 4億5230万ドル | — |
| 2025年12月期 | 25億2100万ドル | 5億840万ドル | 2,113人[2] |
主要な事業指標として、同社は有料利用者数(有効な有料ライセンスを持つ利用者の数)と有料利用者1人あたりの平均収入(ARPU)を開示している。2025年12月31日時点の有料利用者数は1808万人、2025年12月期のARPUは138.91ドルであった。有料利用者は約180か国に所在する[2]。
Virtual First[編集]
Dropboxは2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対応して在宅勤務へ移行し、CNBCはこれを流行初期に仮想的な職場への移行を採り入れた最初期の企業の一つと位置づけている[38]。同社は2020年10月13日、この経験を踏まえた勤務制度「Virtual First」を発表し[34][30]、制度は2021年4月に正式に始まった[38][39]。
Virtual Firstでは、オフィス外での勤務が全従業員にとっての基本的な働き方であり、個人で行う業務の既定の場となる。オフィスは対面での協働と交流のための場「Dropbox Studios」として位置づけ直され、発表時点ではサンフランシスコ、シアトル、オースティン、ダブリンに設けることが示された。勤務時間については「非直線的な勤務日(non-linear workdays)」という考え方が採られ、時間帯の重なる部分に全員で共同作業を行う時間(コアコラボレーションアワー)を設け、それ以外は各従業員が自分で日々の予定を組み立てる。同社はこの制度の目的を、労働時間ではなく成果を重視することにあるとしており、実践から得た知見を「Virtual First Toolkit」として社外にも公開している[34][40]。2025年12月期のForm 10-Kでは、チームは年に数回対面で集まり、その場としてDropbox Studiosと、必要なときに使う空間を用いると説明されている[2]。
『タイム』は2022年8月の記事で、制度の下で従業員は勤務時間の少なくとも9割を仮想空間で働き、オフィスへは折々の集まりのために出向くと説明し、当時の従業員約2,700人にとってオフィスは日々の仕事場ではなくなったと記述した[39]。
制度の効果について、同社は自ら実施した調査の結果を公表している。2022年6月の報告によれば、2021年第4四半期の社内調査で回答者の81パーセントがコアコラボレーションアワーを少なくとも部分的に採り入れたと答え、採用面では求人1件あたりの応募者数がVirtual First導入前の1.7倍になり、2021年に採用した人材の5割超がサンフランシスコ、シアトル、ニューヨークといった従来の大都市圏の外に居住していた(導入前は約35パーセント)と同社は述べている[40]。
連携と提携[編集]
Googleとの連携は2019年4月9日に、Google Docs・Google Sheets・Google SlidesのファイルをDropbox内で作成・編集・共有できる機能のベータテストとして始まった。当初の対象は英語版のDropbox Businessの利用者に限られた[41]。
生成AIサービスとの連携も進められている。Dropbox Japanは2026年7月14日、AnthropicのClaudeとの連携を開始し、Claude向けのコネクターとClaude Cowork向け・Claude Code向けのプラグインを提供すると発表した。あわせて既存のChatGPTおよびGeminiとの連携も拡大されている[42]。
日本での展開[編集]
クライアントソフトウェアの日本語化は2011年4月に行われ、同月15日(現地時間)に公開された安定版v1.1.23で設定画面などのユーザーインターフェイスが日本語で表記されるようになった[43]。
日本法人のDropbox Japan株式会社は2014年9月に設立された。同年10月22日には共同創業者で最高経営責任者のドリュー・ヒューストンと最高執行責任者のデニス・ウッドサイド(Dennis Woodside)が来日して記者説明会が開かれ、ウッドサイドは日本の利用者数を800万人、日本が同社にとって3番目の海外拠点であるとし、企業向けのDropbox Businessの導入企業数を8万社と述べた[44]。
国内での販売は2023年時点でSB C&Sが法人向けの販売代理店を務め、同年9月には両社が、製品群に習熟した担当者による支援チームをSB C&S内に設置すると発表した[45]。国内の導入例としては、2020年9月に発表された戸田建設の事例がある。同社はDropbox Business Enterpriseを国内の全作業所を含む約5600人に導入し、工事現場でiPadから最新の図面や資料を参照でき、在宅勤務中や出張中にも事務所で使うデータへアクセスできるようになったと説明している[46]。
テレワークとDropbox Japan[編集]
新型コロナウイルス感染症の流行以降、Dropbox Japanは国内のテレワークに関する調査結果を継続的に公表している。2020年7月13日に発表した調査では、国内のナレッジワーカー1000人のうちテレワークを実施していた回答者は40.2パーセントだった[47]。2022年7月に公表した「ニューノーマルの働き方(Future of Work)調査」では、国内の20歳から69歳の男女1500人のうちリモートワークを活用している回答者が30パーセントだった。同じ発表の場では、日本法人が前述のVirtual Firstについても説明し、出社する場所を「オフィス」と呼ばずにDropbox Studiosと呼んで同期的な共同作業を行う場と位置づけていることを紹介した[48]。
2020年7月13日の記者説明会には一般社団法人日本テレワーク協会の事務局長が出席し、同協会が在宅勤務中の事務局スタッフ間の情報共有にDropboxを用いた事例を紹介した[49]。
市場と競合[編集]
Dropboxは、Google ドライブ、Boxなど類似の機能を持つオンラインストレージと競合している。『フォーチュン』は2016年3月の記事で、これらが同様の機能を提供していることを競合の要因として挙げ、Googleなどの大手はファイルの共有と保存の事業を他の収益源で支えることもできると指摘した[29]。2025年12月期の年次報告書でDropboxは、クラウドストレージの分野ではAmazon、Apple、Google、Adobeなどの製品と、コンテンツの共同編集の分野ではAtlassian、Salesforce傘下のSlack、Googleなどの製品と競合していると記載している[2]。
評価[編集]
初期のDropboxは技術系媒体の賞に選ばれている。TechCrunchが主催するCrunchiesでは、2012年1月発表の第5回で「Best Overall Startup of 2011」と「Best Cloud Service」の2部門を受賞した[50]。CNBCは2022年11月の記事で、同社が「Disruptor 50」に5回選ばれていると記した[38]。
リモートワークを前提とした働き方への言及[編集]
2021年に始めたVirtual Firstの取り組みは、リモートワークを続ける企業の例として複数の媒体に取り上げられている。『タイム』は2022年8月、Dropboxの勤務制度を取り上げた記事を掲載した[39]。2025年9月には、求人サイトFlexJobsが選んだ柔軟な働き方を恒常的な方針とした20社をUSA TODAYが紹介した記事にDropboxが含まれた[51]。Business Insiderは2025年11月(2026年2月更新)の記事で、出社を求める動きのなかでリモートワークを維持している企業12社の一つとしてDropboxを挙げた[52]。
関連記事[編集]
外部リンク[編集]
- Dropbox - 公式サイト
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ jawp:Dropbox
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