編成写真
編成写真(へんせいしゃしん)とは、鉄道写真の撮影技法の1つである。
概要[編集]
「編成写真」、それは鉄道写真の基礎となっている撮影技法である。鉄道写真と言えば……のあの構図である。構図いっぱいに列車の編成全体を映し出し、ストレート区間やカーブ区間などで編成全体を目立たせ、躍動感と列車の統一感を演出させることに長けている。編成写真は要点をつかみさえすれば流し撮りやスナップ写真などよりも簡単に撮影できるため、「鉄道写真は編成写真に始まり編成写真に終わる」といっても過言ではない[1][2]。
しかしながら、昨今の過熱する撮り鉄問題の根底にある一種の思想となっていることも確かであり、撮り鉄の全体が"編成写真至上主義"という固定観念にとらわれていることで起こる問題も少なくない。これは編成写真を一種の撮影の成功例と解釈している撮り鉄が多い為であり、もっと言えば編成写真には確固たる「正解」があるためである。そのためにSNS等でアップロードされた撮影地に大挙して同業者が押し寄せたり、不法侵入してまでの撮影が相次ぐ原因にもなっている。この点は、芸術として評価される向きが多いスナップ写真や流し撮りなどと明確に異なる点であり、一種の撮影スポーツと揶揄される所以となっている。
定義[編集]
先述の通り、画角いっぱいに列車の編成全体を映し出し目立たせることが編成写真の構図である。
しかしながら、昨今の撮り鉄問題の過熱化と撮り鉄人口の増加に伴い、編成写真にも厳しい独自の評価基準が形成されるようになった。
主な失敗例[編集]
- 列車編成の後方が、何らかの障害物(木や電柱、建物など)の映り込みや画角のミスなどで途切れてしまっている状態。
- 電車の編成の屋根上に設置されているパンタグラフが、架線柱や電柱などに被ってしまう状態。一概に串パンと言ってもパンタグラフの種類がシングルアーム型か菱型かで評価基準や回避の難易度が分かれており、また撮り鉄の中でも許容できる例と許容できない例が各々で違うということもある。たとえばパンタグラフのビームが架線柱に少しでも被っている場合でも串パンとみなすという厳しめの基準もあれば、片やパンタグラフのど真ん中にさえ被りが無ければ串パンとみなさないという緩めの基準もあり、これらは個人差や界隈ごとの差で分かれる。
- これを防止するためには撮影にあたって構図を入念に練る必要があり、これを「串パン処理」「串処理」と呼ぶ。特に電気機関車牽引の列車において機関車のパンタグラフを串処理する場合、2基並ぶパンタグラフの中間に架線柱を映し込むことを「中パン」、2基並ぶパンタグラフよりも編成の後方に架線柱を映し込むことを「全パン」と呼び、機関車を撮影する撮り鉄(通称:釜界隈)の間では全パンが推奨される。
- 列車編成における面(列車の前面)が、架線柱や電柱などに被ってしまう状態。これも個人差はあるが、串パン以上に毛嫌いされることが多い。
- 海苔巻き
- 人工物によって列車編成の一部に縦に影が入ること。海苔巻きの海苔の部分に見えることからこう呼ばれる。
- 列車編成において、面(列車の前面)と面以外の側面部との比率が崩れ、面と側面との比率が1:1またはそれに近しい状態になっていることを指す。この場合立ち位置を変更するか、ズームを遠くに圧縮している場合はズームを引いてみるなどの解決策がある。
- 特に面デカとされるものについては「日の丸構図」「愛国心」と呼ばれる。
- 面横の障害物
- 列車編成における面(列車の前面)の横の余白部分において、派手に目立つ人工物などがあると毛嫌いされる対象となる。
- 順光を想定したロケーションにおいて、お目当ての列車の通過時にタイミング悪くやってきた雲に太陽が遮られて列車に影が落ちること。また、列車編成の一部分にピンポイントで大きな影が出来ることをマンダーラと呼ぶ。
- 無駄晴れ
- 逆に、曇りを想定したロケーションにおいて、お目当ての列車の通過時にタイミング悪く晴れられることをこう呼ぶ。
- 微ブレ
- 高速で通過する列車を仕留める際には速いシャッタースピードが求められる。その理由は被写体となる列車がブレを起こさない為であり、編成写真においてはこのブレにかなり神経質になる。微ブレと呼ばれるピクセル単位の細かなブレでも気にする界隈もあり、これを防止するためにはシャッタースピードを上げることや手持ちの場合は脇を締めてカメラを固定して撮ることなどが求められる。
歴史[編集]
編成写真の起源[編集]
編成写真の起源は古く、日本では1935年に白土貞夫によって撮影された名古屋鉄道の車両が最古の記録となる[3]。その後カメラの技術発達などを経て1970年代ごろには大衆化することとなる。
現在のような厳格な暗黙のルールが発達した背景としては、蒸気機関車時代の価値観がアップデートできていないことが指摘されている。かつての日本の鉄道はほとんどが機関車牽引による列車であり、機関車はいわば列車編成の顔であった。そのため写真を撮る際は正面から撮影することが当たり前であり、また編成後方の客車の特徴を移すために斜め前に立って撮影することが長らく鉄則とされてきたのである。
現代における編成写真[編集]
時は変わって現代になるとSNSが急速に発達した。このSNSの発達と編成写真の関係は切っては切り離せないものとなっており、SNSの普及に伴って編成写真の作例が広く共有されるようになった。すると鉄道ファンによくみられる集団心理が強く働くことにより、この"作例そのまま"を自分のものにしたいという欲求が働くこととなる。結果的に何が起こるかはお察しの通りであると思うが、完璧な編成写真の「作例」を求めてSNSで共有された撮影地点にファンが大勢密集し(激パと呼ばれる)、場合によっては場所取り(界隈では「キャパ取り」と呼ばれる)などを巡ってトラブルの温床にもなるというものである。また、SNSにより「完璧な編成写真」を追い求める文化が形成されていったことに伴い、不法侵入区域での撮影などが多発している[注 1]。特に近年は相次ぐ整備新幹線の開業や機関車牽引列車の衰退による引退といった鉄道そのものを取り巻く環境要因に加え、スマートフォン等の発達に伴う撮り鉄趣味そのものの参入障壁がぐっと下がったことなどにより、以前よりも問題が深刻になっていると見る向きが多い。
これはファンの間でも定期的に問題になる話題であり、その対策としては「そもそも撮った写真をSNSに共有しない」というものが挙げられる。撮影地の中にはお世辞にもグレーというほかない撮影地(例:人通りこそ少ないものの公道上にある撮影地)があり、そうした箇所でひとたび問題を起こせば撮影禁止になる可能性が高い。そこでそもそもSNSなどに写真を共有せず、撮影地の存在を隠す行動がとられる。それでも写真を公開してしまった場合にはここで非難の嵐となるわけである。
脚注[編集]
- 出典
- ↑ “いまさら聞けない、鉄道写真 Q&A”. 鉄道コム (2019年2月). 2025年7月12日確認。
- ↑ 助川康史 (2018年10月25日). “プロカメラマンに聞く、鉄道写真とニコンの新型カメラ”. 鉄道コム. 2025年7月12日確認。
- ↑ 藍堀 (2023年1月25日). “記録写真の中の編成写真”. note. 2025年7月12日確認。
- 注釈
- ↑ ただしこれは、昔は撮影出来ていたグレーゾーンが時代の流れによりアウトゾーンになってしまったという要因もある。