濱口惠俊

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濱口 惠俊(はまぐち えしゅん、1931年 - 2008年)は、社会学者。国際日本文化研究センター総合研究大学院大学滋賀県立大学名誉教授。専攻は日本研究、比較社会学、心理人類学、文化心理学[1]

経歴[編集]

和歌山県生まれ[1]。実家は浄土真宗本願寺派の寺院[2]。1959年京都大学教育学部卒業。1964年京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学[3]。1964年京都大学教育学部助手。1966年龍谷大学に転出[4]。龍谷大学文学部講師を経て[5]、1968年龍谷大学社会学部助教授。1970年アメリカ国立イースト・ウエスト・センター高等研究員[6]。1973年大阪大学人間科学部助教授、1987年教授[3](のち国際日本文化研究センター教授と併任[7])。国際日本文化研究センター教授を経て[8]、1997年滋賀県立大学人間文化学部教授[9]、国際日本文化研究センター名誉教授[10]

本願寺伝道院研究員[2]、京都大学講師、奈良女子大学講師も務めた[6]

1982年『間人主義の社会 日本』(東洋経済新報社[東経選書]、1982年)で第4回サントリー学芸賞(社会・風俗部門)を受賞[11]

間人主義[編集]

『「日本らしさ」の再発見』(日本経済新聞社、1977年)や『間人主義の社会 日本』(東洋経済新報社、1982年)で「間人」(the contextual)という概念を提起し[12]、70年代から80年代にかけて流行した日本人論ブームの中心人物の1人となった[13]。西洋人に典型的な個人主義的人間モデルと対比して、東洋人に典型的な人と人との間の相互関係を自己自身だと意識する人間モデルを「間人」と名付けた[14]。間人が抱く価値観を「間人主義」と名付け、相互依存主義、相互信頼主義、対人関係の本質視が基本的な属性であるとした[14]。精神病理学者の木村敏が提起した「人と人との間」に自己自身の存立根拠があるとする人間モデルを独自に発展させたものである[14]

濱口の「間人主義」論は村上泰亮公文俊平佐藤誠三郎の「イエ社会」論、石井威望の「ホロニック・パス」、山崎正和の「柔らかい個人主義」、伊丹敬之の「人本主義」などと並び日本的経営を日本文化から説明する試みの一つである[15]。60年代に本格的に開始された日本社会の編成原理の特質解明からアプローチする日本的経営研究は、日本人の集団主義や集団指向に着目したが、80年代に入ると日本社会の組織原理や結合関係に着目する傾向に変化した[16]。村上らの「イエ社会」論、濱口の「間人主義」論、西田耕三の「一体化」結合論、三戸公の「家論理」論、岩田龍子の「集団論とネットワーク論の結合」論などがこれに含まれる[16]。村上らの「イエ社会」論と濱口の「間人主義」論は大平総理の政策研究会報告書『文化の時代――文化の時代研究グループ』(1980年)に理論的基礎を提供した[16]

文学研究者の荒木優太は、平野啓一郎鈴木健が使用する「分人」という概念について、いまや論壇から忘れ去られた「間人」という概念を想起させ、その焼き直しにも見えると評している[12]

著書[編集]

単著[編集]

  • 『「日本らしさ」の再発見』(日本経済新聞社、1977年/講談社[講談社学術文庫]、1988年)
  • 『間人主義の社会 日本』(東洋経済新報社[東経選書]、1982年)
  • 『日本型信頼社会の復権――グローバル化する間人主義』(東洋経済新報社、1996年)
  • 『日本研究原論――「関係体」としての日本人と日本社会』(有斐閣、1998年)
  • 『「間の文化」と「独の文化」――比較社会の基礎理論』(知泉書館、2003年)

編著[編集]

  • 『日本人にとってキャリアとは――人脈のなかの履歴』(編著、日本経済新聞社、1979年)
  • 『集団主義――日本らしさの原点』(編集・解説、至文堂[現代のエスプリ]、1980年)
  • 『日本人の間柄』(編集・解説、至文堂[現代のエスプリ]、1982年)
  • 『日本的集団主義――その真価を問う』(公文俊平共編、有斐閣[有斐閣選書]、1982年)
  • 『高度情報社会と日本のゆくえ』(編著、日本放送出版協会[NHKブックス]、1986年)
  • 『現代社会心理学』(狩野素朗、木下冨雄、永田良昭、原岡一馬共編、三隅二不二監修、有斐閣、1987年)
  • 『国際化と情報化――比較文明学の視点から』(編著、日本放送出版協会[NHKブックス]、1989年)
  • 『日本型モデルとは何か――国際化時代におけるメリットとデメリット』(編著、国際日本文化研究センター、1993年/新曜社、1993年)
  • 『日本文化は異質か』(編著、日本放送出版協会[NHKブックス]、1996年)
  • 『世界のなかの日本型システム』(編著、国際日本文化研究センター、1998年/新曜社、1998年)
  • 『日本社会とは何か――〈複雑系〉の視点から』(編著、日本放送出版協会[NHKブックス]、1998年)
  • 『寅さんと日本人――映画「男はつらいよ」の社会心理』(金児曉嗣共編著、知泉書館、2005年)

訳書[編集]

  • F.L.K.シュー『比較文明社会論――クラン・カスト・クラブ・家元』(作田啓一共訳、培風館、1971年)

出典[編集]

  1. a b 濱口惠俊、金児曉嗣編著『寅さんと日本人――映画「男はつらいよ」の社会心理』知泉書館、2005年
  2. a b 浜口恵俊「青年のための人生論④文化人類学から見る宗教」『大乗 : ブディストマガジン』第20巻第5号(通巻228号)、1969年5月
  3. a b 『大阪大学放送講座 相互理解』一心社、1988年、173頁
  4. 京都大学教育学部四十年記念誌編集委員会編『京都大学教育学部四十年記念誌』京都大学教育学部、1989年、327-328頁
  5. 『文部省科学研究費による研究報告集録 昭和41年度 人文編』日本学術振興会、1968年、44頁
  6. a b F.L.K.シュー著、作田啓一、浜口恵俊訳『比較文明社会論――クラン・カスト・クラブ・家元』培風館、1971年
  7. 濱口惠俊編著『国際化と情報化――比較文明学の視点から』NHKブックス、1989年
  8. 日本教育行政学会編『教育行政研究の方法論を問う』日本教育行政学会、1992年、65頁
  9. 濱口惠俊「日本型システムの特性」『マネジメントレポート』第357号、第一勧銀総合研究所、1997年10月
  10. 名誉教授一覧 国際日本文化研究センター
  11. 【サントリー学芸賞】 『間人主義の社会 日本』 浜口 恵俊 サントリー文化財団
  12. a b 荒木優太「きみはウーティスと言わねばならない 第5回 分人と間人と」晶文社スクラップブック、2017年4月3日
  13. 谷口浩司「社会学と日本人論――「社会と個人」再考」『社会学部論叢』No.21、1987年12月
  14. a b c 岩田龍子『「日本的経営」論争――その成果と新展開の方向を探る』日本経済新聞社、1984年、198-200頁
  15. 佐和隆光『二十世紀末の思潮――ポスト・モダンからネオ・モダニズムへ』朝日新聞社、1989年、11頁
  16. a b c 藤井光男、丸山恵也「序章 日本資本主義の特質と日本的経営」、藤井光男、丸山恵也編『日本的経営の構造――日本資本主義と企業 』大月書店、1985年

外部リンク[編集]