大企業病

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大企業病(だいきぎょうびょう)とは、大企業に見られる旧弊や体質を表す言葉。

概要[編集]

組織的な問題や弊害を指す言葉で、主に大企業や官公署に見られる成長や競争力を妨げるような体質・行動パターンのことを指す。比喩的に「」と言われるのは、その悪影響が企業の中で慢性的に広がり、組織の活力や柔軟性を失わせてしまうからである。

主な特徴[編集]

  • 意思決定が遅い: 階層が多く、決裁が複雑なため、スピード感のある対応ができない。
  • 前例主義・保守的な風土: 新しいことにチャレンジせず、過去の成功例や慣習に頼りがち。
  • 責任の所在が不明確: 失敗を恐れて責任を押し付け合い、リーダーシップが機能しないことがある。
  • 無駄な会議・書類作成の多さ: 実務よりも形式や手続きに時間がかかり、生産性が低下。
  • 縦割り組織による非効率: 部門間の連携が悪く、情報共有や協力が進まない。
  • 現場軽視: 経営陣が現場の声を聞かず、実情に合わない指示を出す。

なぜ起こるのか?[編集]

  • 組織の規模が大きくなることで、内部統制やリスク管理が重視されすぎる。
  • 過去の成功体験が足かせとなり、新しい変化に対応できなくなる。
  • 安定したポジションにいる社員が多く、危機感が薄れる。

対策や克服のヒント[編集]

  • フラットな組織構造の導入
  • 若手や現場の意見を吸い上げる仕組み作り
  • チャレンジを促す企業文化の醸成
  • 意思決定プロセスの簡素化

「大企業病」は、どんなに成功している企業でも陥る可能性がある問題。気づかぬうちに組織に広がることが多いので、定期的な「自己診断」と改革が必要とされる。

企業の病例[編集]

日本航空(JAL)[編集]

背景:

  • 組織が官僚的で意思決定が遅い
  • 赤字路線を維持し続けた(半官半民企業だった頃からの政治的配慮もあり)
  • 年功序列・高コスト体質が改善されず競争力を失った

結果:2010年に経営破綻し、企業再生支援機構のもとで再建された。稲盛和夫氏が経営哲学を導入し、意識改革が進められた。

シャープ[編集]

液晶事業への過剰依存と経営判断の遅れ。

背景:

  • 液晶に多額の投資を続け、構造転換が遅れた
  • 意思決定が遅く、変化する市場に対応できなかった
  • 社内の部門間対立や硬直した組織構造も問題視された

結果: 2016年、台湾の鴻海精密工業に買収され、外資系企業の傘下へ。

東芝[編集]

粉飾決算と経営層の統治不全

背景:

  • 現場よりも経営層の指示が優先され、無理な業績目標が押し付けられた
  • 内部統制が形骸化し、不正を見逃す体質に
  • 意思決定が縦割りで、透明性が不足していた

結果: 2015年に粉飾決算が発覚し、社会的信用を大きく失った。以降、主力事業の売却や再編が続いている。

コダック(Kodak)[編集]

デジタル化の波を無視

背景:

  • フィルムカメラ市場で圧倒的シェアを持っていたが、新技術への転換に消極的だった
  • 社内でデジタルカメラの開発はされていたが、既存事業を守るために封印

結果:2012年に経営破綻。デジタル化への対応の遅れが命取りになったとされる。

ノキア(Nokia)[編集]

スマートフォン時代への乗り遅れ[注 1]

背景:

  • 技術革新よりも組織内の政治や階層的な体制が優先された
  • Androidとの連携に消極的で、独自路線(Windows Phone)にこだわった
  • 社内での情報共有が不十分で、開発の方向性に混乱があった

結果: スマートフォン市場でシェアを失い、2014年にはMicrosoftに携帯電話部門を売却。

官公庁の大企業病[編集]

1. 手続き優先・目的喪失

例:災害支援の申請で、本来迅速に支援すべきところ、必要以上に書類や手続きを重視し、支援が遅れる。

2. 縦割り意識の強さ

例:ある政策を実施する際、複数の省庁間で情報共有ができず、似たような施策が重複したり、逆に重要な施策が誰も担当しない。

3. リスク回避最優先

例:失敗を恐れて、新しい政策や技術導入(例:デジタル化)を極端に慎重に進め、結果的に世界から遅れる。

4. 前例踏襲主義

例:時代遅れになったルールや慣習(例:紙の申請書提出や押印文化)を、改革することなく惰性で続ける。

5. 内向き志向・国民不在

例:政策立案時に、実際の国民の声よりも、内部の論理(どの部署が得をするか、責任を問われないか)を重視してしまう。

病例[編集]

下記の例の他、児童生徒の欠席で「保護者の電話連絡に限る」ことを続けた学校の例も挙げられる。

デジタル庁設立前の「ハンコ文化」問題[編集]

背景:日本では行政手続きの多くに「押印」が必要で、コロナ禍でもテレワークが進まなかった。

大企業病的側面:本来なら迅速に電子化すべきところ、「前例通り」押印文化を維持し続け、国民や企業の負担を増大させた。

結果:社会的批判を受けて、菅政権下でデジタル庁を急設置する流れに。

マイナンバーカード普及の混乱[編集]

背景:マイナンバーカードを国民に普及させようとしたが、システム設計・広報・自治体の連携がバラバラだった。

大企業病的側面:省庁ごとの縄張り意識(総務省と厚労省、財務省など)、責任回避の空気、国民視点の欠如が問題に。

結果:登録ミス・トラブル多発、国民の不信感を招き、普及が遅れた。

オリンピック組織委員会(2020東京五輪)[編集]

背景:組織委員会は官民合同だったが、特に官庁出身者が多く、硬直した運営が指摘された。

大企業病的側面:意思決定が遅い、責任の押し付け合い、変化への対応が鈍い(例:コロナ禍での無観客対応)。

結果:費用膨張、世論とのズレ、内部混乱が表面化。

森友・加計学園問題[編集]

背景:政権との関係で「忖度」が発生し、本来公開すべき情報が隠されたり、文書が改ざんされた。

大企業病的側面:上層部への忖度文化、組織防衛優先、透明性欠如。

結果:国民の行政に対する信頼が大きく失墜。

総評[編集]

「大企業病」は一見すると安定した企業ほど陥りやすい罠です。これらの例に共通しているのは、

  • 変化に対する鈍感さ
  • 官僚的な組織構造
  • 現場の声を無視する上層部
  • 過去の成功体験への執着

といった構造的な問題である。

[編集]

  1. 国内でもPHS依存からの脱却ができなかった沖縄以外の電力会社系携帯電話会社アステルの類似例がある。