制動装置
制動装置(せいどうそうち)とは、移動する物体の速度を低下させたり、停止させるために設けられる装置であり、ブレーキ(brake)とも呼ばれるものである。自動車や鉄道車両、エレベーターなどの乗り物に限らず、釣具のリールや洗濯機など、多くの機械類に搭載される装置である。
概要[編集]
移動体の速度を低下させるためにはその運動エネルギーを熱エネルギーや電気エネルギーに変換する方式が代表的である。例えば、自動車で一般的なディスクブレーキは車輪と共に回転するディスクにブレーキパッドを押し当て、回転する運動エネルギーを熱エネルギーに変換しており、ハイブリッド車などにおいては移動するエネルギーを電気エネルギーとして回収する回生ブレーキが用いられている。これらの他にも、エアロブレーキのような空気などの流体にかかる抵抗を利用したものもある。また、内燃機関により動力を取り出している場合、エンジンの回転抵抗を利用して速度を下げるエンジンブレーキも広く利用される。
乗用車[編集]
現代の乗用車の多くは、走行中に使用するフットブレーキと、駐車時に使用するパーキングブレーキの二種類の制動装置を備えている。フットブレーキには、主にドラムブレーキやディスクブレーキが採用されている。ディスクブレーキは、ドラムブレーキとは異なり自己サーボ作用がないため、エンジンの負圧や油圧を利用した倍力装置(ブレーキブースター)が用いられる。
かつては4輪すべてにドラムブレーキを採用した車両が主流であったが、ディスクブレーキの普及により、前輪にディスクブレーキ、後輪にドラムブレーキを組み合わせる方式や、4輪すべてにディスクブレーキを装備する車種が一般的となっている。なお、4輪ディスクブレーキ車であっても、パーキングブレーキにはドラムブレーキ機構を併用する例も見られる。
ハイブリッド車やEVでは、スロットルオフやブレーキ操作時にモーターを発電機として利用し、運動エネルギーを回収する回生ブレーキを備えることが多い。また、油圧ブレーキと回生ブレーキを協調制御し、ブレーキ操作時の違和感を低減するブレーキバイワイヤ技術が導入されている例もある。
内燃機関を搭載した車両では、エンジンブレーキや負圧を利用したブレーキブースターを用いることができるが、エンジンを持たないEVでは、回生ブレーキや電動式ブレーキブースターが使用される場合がある。
大型車[編集]
大型車には、通常のフットブレーキに加えて、さまざまな補助ブレーキが装備されている。代表的なものとして、排気を絞ることでエンジンの回転抵抗を増やす排気ブレーキや、プロペラシャフトに抵抗を与えて減速するリターダがある。
フットブレーキは、乗用車と異なりドラムブレーキが主流であり、ディスクブレーキは一部の車種に限られている(ただし、これは日本における傾向であり、欧州ではディスクブレーキが主流である)。大型車は車両重量が大きいため、フットブレーキだけでは制動力が不足したり、長い下り坂などでベーパーロックやフェード現象が発生するおそれがある。このため、補助ブレーキの装備が一般的である。
排気ブレーキは、エンジンの排気系にバルブを設けて排気抵抗を高め、エンジンブレーキの効果を増強するものである。これに加えて、圧縮行程で燃料噴射を停止し、上死点付近で排気バルブを開放する圧縮開放ブレーキ(ジェイクブレーキ)も、エンジンの回転抵抗を増大させる補助ブレーキの一つである。
リターダは、プロペラシャフトに抵抗を与えて減速させる装置であり、作動原理により流体式・電磁式・永久磁石式などに分類される。流体式はオイルの撹拌抵抗を利用し、電磁式は電磁石の電磁誘導による抵抗、永久磁石式は永久磁石による抵抗を用いる。
比喩的表現[編集]
物事の進行を抑制したり減速したりすることを「ブレーキをかける」ということがある。また、興奮などで抑止が利かない状態を「ブレーキが壊れた様」と表現することもある。